最新記事一覧

臨時 vol 232 「ニューヨーク 2泊3日の入院とその医療費 4」

医療ガバナンス学会 (2009年9月 8日 06:29) | コメント(0) | トラックバック(0)

          医療費について

                   国際税務専門職 
                   EASTON,Inc.
                     肥和野 佳子

 救急車呼んだら622ドル! ベッド代一泊4290ドル!

 7月後半ごろから、2泊3日入院した時の医療費の請求書がいくつか郵便で届
き始めた。私たちは夫の勤務先を通して健康保険に加入しているので、請求され
た額面の満額を支払う必要はないのだけれど、聞きしに勝る高額医療費が書いて
あって驚いた。もちろん病院や医療サービスの内容や地域やその他様々な状況に
よってちがうのだろうけれど、私たちには以下のような通知が来た。

保険適用前の2泊3日の間にかかった医療費の額面(単位ドル)
救急車               622
ER(緊急処置室)使用料      650
ER医療及び付随料金       3085
ER利用料時薬代          303
2人部屋ベッド代2泊       8580
入院時付随料金          1473
エックス線検査           625
入院時一般医療           250
入院時A医師の診察料        400
合計              15988

 8月1日時点で入院時の請求書が届いているのは以上の通りだが、事務処理が
遅くてあとからくるものもあるだろうから、これで全部ではないと思う。診察・
検査・投薬・看護はしてもらったが、手術はしていない。

 夫は急病になった当日、しばらく様子をみると言って救急車を呼ぶつもりはな
かった。家のすぐそばにBeth Israel Medical Centerという大きな総合病院があっ
て、歩いて3分くらいだ。症状が改善されないので病院のER(緊急処置室)に
歩いて行こうとしたが、夫が意識を失いそうになり、とても歩けないので救急車
を呼んだのだ。極めて近距離でも救急車を呼んだら622ドルとは。

 病院のベッド代が一泊4290ドルというのには夫も私もたまげた。高級ホテ
ルの一泊料金よりずっと高いとは聞いていたけれどこれほど高いとは。2人部屋
で日本の病院に比べるとたしかにゆとりのある部屋で設備はかなり良かったけれ
ど。

 入院時付随料金というのは内容の明細がないので具体的には何なのかはっきり
しないが、おそらく食事代、寝巻き、タオル、シーツなどや、点滴、注射、錠剤
などの薬代だろうと思う。ER医療及び付随料金も高かった。これも内容の明細
がないのではっきりしないが、たぶん医師の診察代、さまざまな検査代が含まれ
ていると思う。

 2009年7月31日付の日経新聞で「医の国際化」という記事で、「たとえ
ば盲腸で手術を受けて退院するまで費用は日本の公定価格では30万から40万
円程度。AIU保険の08年の調査によるとニューヨークでは216万円、ロン
ドン151万円。香港(90万円)や上海(68万円)などよりも安い」と書か
れてあったがかなり正しいと思った。

 盲腸の手術で入院すると日本では入院期間は1週間くらいかと思うが、NYで
はたぶん2泊かせいぜい3泊だと思う。なにしろベッド代が1泊約4300ドル
もするのなら、保険会社は最低限の入院日数にせよと病院側をプッシュするわけ
だ。不必要な入院はいっさい保険会社が認めないらしい。それで米国の病院の入
院は集中治療室化してきていて、本来入院治療が必要な患者は介護施設での医療
に移ってきていると聞いたことがある。

 健康保険でいくらカバーされるのか、個人負担はどのくらいになるのか心配に
なり、書類をひっぱり出して調べてみた。米国の健康保険は様々なタイプがある
ので、あくまでも一つの例だが、私たちが夫の勤務先を通して加入している健康
保険はAetna(エトナ)という大手の保険会社運営のもので、多種類ある健康保
険プランの一つだ。

 夫と私、そして夫の前妻と暮らしている娘一人の合計3人が対象で、月額で医
療保険料が398ドル、歯科保険料が85ドル、合計で479ドル支払っている。
このプランは保険でカバーされる範囲が結構広いので、平均的な料金よりやや高
いかと思うが、家族3人分だとだいたいこの程度かかると思う。

 このプランでは医療サービスを提供する側(病院、医者など)が、プラン指定
の医療機関のネットワークグループに所属しているか、所属していないかで、自
己負担率が変わり、ネットワーク内の医療サービスを選択するほうが経済的になっ
ている。個々の医者はいくつかの保険会社のネットワークグループに入ったり、
入らなかったりする。診察してもらいたい医者がネットワーク外だと個人負担が
割高になる。

 たとえば診療所や病院での一般診察では、プライマリーケア(かかりつけ医の
診察)の場合はネットワーク内だと診察一回につき15ドル、専門医の場合は2
0ドルのCopay(コーペイ)と呼ばれる一定額を払えばよいだけ。ネットワーク
外だと、かかりつけ医でも専門医でも請求額の4割が自己負担となる。私の経験
ではたとえば風邪で熱を出して医者に診てもらうとだいたい1回の診察で額面で
300ドルくらいだ。緊急外来はネットワーク内だと50ドルのCopayで、ネッ
トワーク外だと4割負担。緊急でない場合の緊急外来使用は両者とも保険適用な
し。

 入院での医者の診察・手術など含め入院医療費全般、通院での手術時の施設使
用料、通院でのリハビリテーションは、ネットワーク内なら2割負担、ネットワー
ク外なら4割負担。

 ということは、今回の入院費用はだいたい2割負担ということで済みそうだ。

 ちなみに、年1回の健康診断、各種予防接種、マモグラム(乳がん早期発見の
ための検査)、アレルギーテストは、ネットワーク内なら無料で自己負担なし、
ただし診察一回につき25ドルのCopayはかかる。ネットワーク外なら4割負担。
メンタルヘルス(精神科)の通院治療の場合、ネットワーク内なら年間90回ま
では1回につき15ドルのCopayのみ、ネットワーク外だと4割負担。精神科の
入院治療の場合は90日まで2割負担、ネットワーク外だと4割負担。

 ネットワーク内の病院・医者に行けば、家族一人の年間医療費のうち最初の3
00ドルまでは全額自己負担、家族全体(3人合算)では最初の600ドルまで
は全額自己負担だ。これがネットワーク外だと、一人の年間医療費のうち最初の
600ドルまでは全額自己負担、家族全体(3人合算)では最初の1200ドル
までは全額自己負担となる。こういう年間最初の一定額までは全額自己負担とい
う部分はディダクティブル(保険適用免除額)と呼ばれている。ちなみに、ディダ
クティブルの設定が高い保険は毎月の保険料が安い。たとえば、ディダクティブ
ルが1000ドルのタイプだと年間1000ドルまでは100%自己負担となる
ので、その代りに保険料は割安に設定されている。風邪をひいて年に1回医者に
行くか行かないか程度なら、ディダクティブルの範囲内で終わってしまって、健
康保険に入っていても結局全額自己負担するだけということもある。

 それから、あまりにも高額の自己負担がかからないように、Out-of-pocket
maximum(自己負担の最高限度額)というものがあって、自己負担の最高額がネッ
トワーク内の場合、一人の年間医療費自己負担最高限度額1500ドル、家族全
体で3000ドルで、それ以上医療費がかかってもあとは保険が負担してくれる。
ネットワーク外だと一人の年間医療費自己負担最高額3000ドル、家族全体で
6000ドル。これらにはディダクティブル部分は含まれるが、Copay部分は含
まれない。

 ネットワーク内の医療サービスばかりを使えば結構経済的だが、大きな病気を
した時は、実際にはネットワーク内外の医療サービスを混合して使うことになる。
事前に保険会社のウェブサイトで調べたりしてネットワーク内のものだけを選択
することは、緊急性がない病気の場合は可能だが、私たちのように救急入院など
の場合は医者や病院の選びようがない。どの医者や医療サービスがネットワーク
内か外かわからない。年間医療費自己負担最高限度額はネットワーク内・外で別
々に積算されるので、結局、内・外の自己負担最高限度額を両方合わせて、一人
分では年間4500ドル、家族全体では年間9000ドルまでは自己負担になる
可能性があるということだ。

 私たちが加入している健康保険のプランの詳細を、今までしっかりとは読んで
いなかったので、ディダクティブル(全額負担部分)は最初の300ドルを払っ
たらもうないと思っていたら、ネットワーク外のディダクティブル600ドルは
別にかかるし、今まで知らなかったがこの保険プランでは、さらに別枠で特別ネッ
トワーク・サービスのディダクティブル300ドルというものがあって、とんで
もなかった。わたしたちの場合、この別枠の300ドル全額負担部分は救急車の
費用の一部に計算され、結局、救急車の額面622ドルのうち自己負担は、なん
やかやで397ドルとなった。このディダクティブルがなければ救急車の自己負
担は100ドルくらいのはずだった。それでもそう気軽に救急車を呼べる額では
ない。

 保険に入っていない人はなおさらだ。救急車を呼ぶことをためらうし、病院に
も医者にもなかなか行く気になれないだろう。保険に入っていない場合、大きな
病気をするととてつもない医療費がかかるので、米国では自己破産の理由で最も
多いのは医療費が払えなくての自己破産だそうだ。病院側でも、救急車で運ばれ
た病人は、とても医療費を払えそうもない人であっても診察・治療しなければな
らないと法律で義務付けられているので、医療費の取れない患者が多くなると経
営が困難になり問題化している。

 健康保険は、勤務先を通さず個人で入るとばか高くて、たぶん家族3人で月額
1500ドルくらいすると聞く。こんなに高いと保険には入れない。だから米国
人口の5-6人に一人は無保険者なのだ。会社員になる大きな理由の一つに健康
保険がある。夫婦のうち一人が自営業ならもう一人は会社勤務をして、勤務先を
通して家族で医療保険に加入できるように工夫する。中小企業だと健康保険のベ
ネフィットを提供していない会社も多い。自営業の場合、同業者でグループをつ
くって団体加入する場合もあるようだが、なかなか難しいらしい。企業も従業員
のための健康保険のベネフィット提供の負担が重くのしかかっていて経営上問題
となっている。米国には日本のように国民健康保険の制度がないので、多くの人
が本当に困っている。

 誰でも手軽な料金で健康保険に加入できるように、米国は今まさにこの健康保
険の仕組みを大改革しようと取り組んでいる。頓挫しないようになんとかやり遂
げてほしいものだ。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://medg.jp/arks-mt/mt-tb.cgi/747

コメントする

▲ページトップへ