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vol 112 日本医師会の改革

医療ガバナンス学会 (2010年3月27日 08:00) | コメント(0) | トラックバック(0)

改革は所与のものか

弁護士  井上清成


本稿はMMJにて発表されたものです。
2010年3月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

【医師会改革の動き】
 日本の医療システムを支えている組織のうち、最大のものは日本医師会であろう。その日本医師会に改革の動きが出始めている。三つ巴の会長選も、その一つの現われだと言ってよい。

 改革の引き金になった直接の原因は、政権交代と公益法人改革であろう。ただ、これらは単なる引き金にすぎない。今まで既に蓄積されてきた実情こそが、改革の真の原因であろう。長年の医療費抑制政策と医療事故責任追及政策により、医師は開業医・勤務医を問わず皆、それぞれのバリエーションによってではあるが、不合理を強いられてきた。それら不合理の蓄積が改革の真の原因である。

【改革は所与の要件?】
 それら不合理は直して行かねばならない。ところが、現行の日本医師会の組織・運営のままでは、有効適切に機能できないであろう。そこで、日本医師会が「日本医師会」たろうとして、それら不合理に対抗しようとし、まずは自己改革が必要とされるに至った。これが改革の真の要因であろう。言い換えれば、医療システムを立ち直らせるため、崩壊要因に対処できる医師会に変身しようとして、日本医師会が自ら自律的に変革しようとしているのである。

 一見すると、この日本医師会の改革は外からの強制要因に基づくものであり、いわば所与のものとも思われよう。しかし、その実は、既に述べたように、内在していた要因に基づく自律的な改革である。だから、どのように改革すべきかも、やはり外から与えられたものではない。内からの議論の積み重ねによって、必要かつ合理的に方向性を形成していくべきものである。

 今回の改革は所与のものではない。この点を根本に据えて、今後の方向性を十分に議論すべきである。

【事前の議論こそが重要】
 議論する際に、一点、留意しなければならない。

 戦後の長い間、医療はおおむね順風に近かった。政治の方向も一定だったので、官僚と専門技術的な詰めを水面下でして入れば足りたであろう。そこで、まず水面下で折衝して落とし所と施策内容を決め、決まった後に表に出して医師会員皆の同意を得る、という意思決定過程のスタイルをとってきた。議論はあったとしても、結論が先にありきなので、追認のための議論にすぎない。長い間、そのスタイルで来てしまった。

 しかし、医療がいわば逆風だったり、先行き不透明な場合には、その議論のスタイルは通用しない。内部の不満を極大化してしまうこともある。対外的にも本当に強い力を発揮できず、交渉に腰がない。後追い追認型の議論は、もう時代に即さないのである。

 今後は、ある論点の方向性を決める前に、会員に情報や選択肢をオープンにし、公開での議論を十分に行い、互いに聞く耳を持った上で討論してから、摺り寄せるという手順が有効適切であろう。いわば事後の議論でなく、事前の議論こそが重要なのである。

 一見すると、内部が流動化したようにも思われようが、むしろこのスタイルは、特に難局においては威力を発揮するであろう。

【キーワードは「医業」「公益」「政治」】
 3年半後に迫った公益法人改革と、政権交代によって生じた政治との距離感は、いずれも改革の直接の引き金であり、かつ、大変に難しい。そこで、議論を進めるに際しては、3つの法的なキーワードを念頭に置くことが有効だと思う。それは、「医業」と「公益」と「政治」である。

 「医業」については、医師法第17条が明示した。「医師でなければ、医業をなしてはならない。」という定めである。開業医・勤務医を問わず、現場の医業に即した施策がとられなければ困るであろう。その現場の医業を体現する医師会の存在は必要不可欠である。また、年金や医賠責のような共済的な事業も欠かせない。しかし、これらは必ずしも公益社団法人である必要はなく、むしろ一般社団法人になじむ。

 「公益」については、そもそも医療がそれ自体公共的であり公益的である以上、当然である。しかし、それだけではない。たとえば、診療報酬改定がある。中医協の診療側委員という意味ではない。社会的共通資本である国民皆保険制を維持発展させるには、診療報酬という資本投下が、公益的観点から必要である。つまり、公益委員として中医協に入るには、公益社団法人化が必要不可欠であろう。また、中長期的には、厚労省の行政処分から医師自身による自律的処分への移行、無過失補償制度や責任制限の導入なども視野に入れる必要がある。患者、もっと広く病人の権利を守る存在としての医師会になる必要もあろう。やはり公益社団法人化が不可欠とも言える。

 「政治」については、強力な政治団体が必要と言えよう。政治的活動は、政治献金に限られない。「医業」の観点からも「公益」の観点からも、「政治」への働きかけは重要である。ただ、現行の政治連盟の規約では、日本医師会と一体化しているようにも見られるので、人的にも分離し、独立性・機動性・柔軟性を確保することが必要かつ有益であろう。

【すべての医師の代表】
 すべての医師の「医業」「公益」「政治」のそれぞれの側面に、代表が存在することが好ましいかもしれない。もしそうだとしたら、一般社団法人、公益社団法人、政治団体の3つの団体が必要となる。日本医師会を分割するという意味ではない。3つの団体を分立させて、人的・物的に分離させ、しかも拡大的に協働させるという選択肢もありうるように思う。
 いずれにしても、すべての医師会員が直接選挙によって参加した上で、事前に十分に議論して、よりよい方向性を見い出していくことに期待したい。

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