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Vol.180 COCOAで接触通知を受けた者に対する行政検査を行う前にやるべきことがある

医療ガバナンス学会 (2020年9月7日 06:00)


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わだ内科クリニック
和田眞紀夫

2020年9月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

管轄の保健所から「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)で通知を受けた者に対する行政検査等の実施について(協力依頼)」のFAXが届いた。しかし、COCOAで接触通知を受けた者に対して診療所で唾液PCR検査を行うことにはいくつもの問題がある。

当院では1日20件までの枠を設定して唾液のPCR検査を連日実施している。内訳は練馬区内の診療所からの依頼枠が10件、練馬区コールセンター(保健所)からの依頼枠が10件だ。ところがこのところは、「COCOAで接触通知が来たが無症状」である人の保健所からの検査依頼が急増している。

公衆衛生目的の(無症状の人の)検査は受け皿を診療所とは別に設けるべきではないだろうか。でないと症状があって検査が必要な人の検査が滞ってしまう。また、公衆衛生目的で無症状の人にPCR検査をする方針はいいとしても、検査キャパシティーがまだ充実していない段階では、エッセンシャルワーカーの検査をまず優先して行うべきであり、順番が違う。ここにきて発生しているいくつかの問題を以下にまとめた。

1.行政検査といっても保険診療として行うものであり、受診者には初診料やトリアージ料という名目の課金がある。検査料自体は確かに都道府県と国の助成があるので無料になっているが、一方で国保、社保の財源を消費している。国民が健康保険料として納めている財源がこのような形で使われていいものかはなはだ疑問だ。症状がない人は「病気を発症している人」とは認められないのが原則だからだ。

2.濃厚接触者を拡大解釈してCOCOAで接触通知があったひともコロナ感染の疑いが強いとして行政検査を実施するのは公衆衛生の判断だが、その目的の検査まで医療行為を行う診療所の医師に委ねるのは筋違いではなかろうか。

3.PCR検査体制を充実させた後にCOCOAの接触通知者に検査をするならわかるが、公衆衛生の検査を担う自治体の検査施設の整備は全く手を付けないままにこのような需要の検査を見切り発車するのは順番が違うのではないだろうか。また、エッセンシャルワーカーなどもっと検査が必要な対象者がいるはずなのにそれも後回しにされている。すでに現状ではCOCOA接触通知者のために診療所の唾液PCR検査枠が占拠されつつあり、このままだと症状があってほんとうに必要な人の検査さえ滞ってしまうことになりかねない。

4.COCOAというシステムは相当不完全なシステムで、例えばCOCOAで検査来院された方々でいうと、接触があってから接触の通知が届くまでの期間(「陽性者との接触一覧」をクリックすると確認できる)が20日、9日、7日、6日、3日、2日とバラバラで最大では3週間も経過しているケースがある。その結果が届いてから一両日で全員が保健所に連絡してその日のうちに当院で唾液PCR検査を実施できている。自粛解除基準を発症から10日としているのに、接触から20日経過した人にPCR検査をする意義があるのだろうか。

5.唾液のPCR検査は発症9日を過ぎると感度が下がるというデータがあって国の検査実施基準でも日数制限を設けているのだが、ココアからの検査依頼では接触からの経過期間を考慮せずにすべて唾液のPCR検査に回しているのも問題だ。

コロナ感染症でも「コロナの治癒判定基準」を決めるべきなのだが、現在「治癒したかどうかの判定基準」は明らかにされていない。隔離のために入院していた患者さんを退院させる基準は当初、「感染から14日間経過した後に、48時間開けた2回のPCRで(-)、なおかつ症状がない人」だったのだが、14日が10日に短縮され、退院時のPCRの確認はしなくてもいいことになった。その基準はあくまで退院させるかどうかの行政の基準であって治癒の判定基準ではない。自宅・ホテル自粛の方の自粛解除規定も同様の基準にしているようだが、このような段階でPCR検査を実施するとおそらく検査で陽性になる人が現れるだろう。「発症後8~9日が経過すると人に感染しにくくなる」というような報告があってそのことが自粛解除のタイミングを決める根拠となっているように思われる。

ところが、この自粛解除基準だけでは本当に治癒しているかどうか不安で退院後もしくは自粛解除後にPCR検査を受けたいという希望者が少なからずいる。また、この自粛解除の時点ですぐに職場に復帰していいかという質問も多々受ける。やはり、厚労省はいつになったら治癒としていいのかはっきりさせて国民に説明する義務がある。

過去に当院で唾液のPCR検査をして陽性だったある方の場合、検査の時点で発症から8日が経過しており翌日の9日目に陽性の検査結果が判明した。検査の時点で既に自覚症状がなかったため、保健所は1日だけ自宅待機したらその翌日から普通に行動していいと説明した。このような状況なら検査を受ける意義があったのだろうか。

私は「症状がなければ10日で自粛解除、その後は治癒として行動してよい」と医師でなく保健所の事務方が説明することに問題があると考えるが、一歩譲ってそのような方針をとるならば厚労省はそのことをきちんと国民に説明すべきであり、そうでないために現場では混乱が起きていることを認識すべきである。

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