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Vol.260 サイエンスミステリー小説『モテ薬』著者インタビュー(後編)

医療ガバナンス学会 (2020年12月29日 06:00)


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コメニウス大学医学部6年生・医療ガバナンス研究所インターン
妹尾優希

2020年12月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2020年9月に発売されたサイエンスミステリー小説『モテ薬』(小学館)。誰もが欲しがる奇跡の薬が開発できるというネイチャーの論文は、一時は世紀の大発見と称され、一世を風靡します。ところが一転、研究不正疑惑が持ち上がり、日本中が大騒ぎに。発見者は名門大学医学部に所属する、美貌の女性若手研究者の水澤鞠華。モテ薬は本当にあるのか、ないのか?

著者の旺季(おうき)志ずかさんは、『ストロベリーナイト』、『Wの悲劇』『屋根裏の恋人』など誰もが知るテレビドラマの脚本家です。前編に続き、本書の執筆の背景や込められたメッセージについて医学部生の立場からインタビューしました。

◆ガラスの天井
妹尾:働く女性の生き方や、女性がキャリアアップを目指す際にぶち当たる壁、いわゆる「ガラスの天井」にもフォーカス当てている作品だと感じました。取材の蓄積や、様々な仕事のご経歴をお持ちと伺ったのですが、何かこの問題を取り上げようと思うにいたったご経験があるのでしょうか?

旺季:まず今までのキャリアの話をしますね。大学を出たあと、最初は女優を目指したんです。でも全然売れなかったので、累計で50種類ぐらいのアルバイトを掛け持ちしたのですが、すごい貧乏生活を送りました。この当時の職業経験は、今回のような働く女性の目線から物語を書くのにすごく役立っています。

そういった生活をしばらく送った後、妊娠をきっかけに役者の仕事ができなくなりました。「仕事がなくなった=家庭に入った」って形ですけど、もう本当に妊娠期のつわりから育児まで大変でした。本当、産後うつになりそうで、少しでも自分のやりたいことをしないと子供のこともダメにしてしまうし、自分もノイローゼになると思いつめました。そこで、シナリオ学校に通い始めて、脚本家の道を考えたんです。

やっぱり、女優を目指していたので、コネを作ろうと思って、シナリオ講座に週に1回3時間だけ、子ども預けて行くようにしたのがきっかけなんですよね。そして、初めてシナリオ書いたときに、すっごい楽しいなぁって思って。それが今のキャリアのきっかけでした。

目指していた脚本家になってからは、連続ドラマや、単発ドラマだと『佐賀のがばいばあちゃん』、『トイレの神様』など、たくさんの脚本に関わらせていただきました。そのあと、小説を書くようになり、それと同時に、舞台の作・演出をやり始めて、演出家としてデビューして、『天の河伝説』というミュージカルを作ったりしています。2年前に秋元康先生のプロデュースする吉本坂46というアイドルグループにオーディションで選ばれて、現在はそういう活動も多岐にわたりやっております。

いろんなテレビドラマの脚本を書き、様々な職業の世界を取材してきて感じるのは、男性優位の社会においては、良くも悪くも権力を持っている男の人の思惑が反映されることです。だから、今までは女性の声は表に出て来にくかったなと。MeTooの運動とかで声を上げる人たちを見たときに、私もそういう体験があったと思った人は本当に多いのでは、と感じます。じゃあ一緒にMeToo運動するかっていうと、「いや、自分はそこまでの勇気はない」っていう人はすごく多いんじゃないかな。

妹尾:私は身近な医療界のことしかわかりませんが、、、やっぱりどの業界でもガラスの天井は存在するものなのでしょうね。現状ではまだまだ避けて通れないガラスの天井を突き抜け、旺季さんのように女性がキャリアで成功するために、必要なものはなんでしょう? 世の働く女性に向けて激励をお願いします!

旺季:たとえば、小説の中では色気みたいなことをちょっとフューチャーしてますけど、女性であることの特質を活かす事が必要だと考えます。受け身であることとか、育む性であることとか、男性とは違う細やかで優しい面とか、そういう女性の特質が仕事の現場で活かされていっていいと思います。それがうまく評価される、そんな仕事の現場であったらいいなとも。

脚本家は特に、男性の感性では書けないものを女性が書けるから、女性脚本家が大事にされるっていうことがあります。一方で、医学・医療の世界のような男性が優位な社会においては、男性が活躍する仕組みにすでになっていることが多いと思うんです。けれどこれからは、女性の感性を受け入れた、それを開花できるような仕組みづくりをすること、女性の感性が発揮できるような現場が必要だと思います。

日本でも女性が働く場所をもっと作ってもらえたらいいなと思いますし、女性も男性と肩を並べてというより、女性の特質を活かして、やわらかく、もっと優しく、そしてその特質を才能として活かせるようになったらいいなと思いますね。

◆物語の魅力
妹尾:『モテ薬』のすごいところは、現実の医学部や医学知識などのしっかりとした道具立ての細かさを背景にして、フィクションとしてエンタメ性と読みやすさを成り立たせた点にあると思いました。読んでいて頭に映像が流れ込んできました。そしてお話部分で聞きたい事は山ほどありますが、、、その中でも、肝心の絶世の美女でリケジョの鞠華が登場するのは、ラスト間近になってからですよね。どうして鞠華は最後まで読者の前に姿をあらわさなかったんですか!

旺季:(笑)構想からもう3年ぐらい取材した物語で、何度も取材を重ねて、今の現場の実情を書いています。ただ、鞠華をどう正体がわからなくしようか非常に練りました。鞠華のモデルとなった小保方さんがテレビに出ていらっしゃったときに、あの年齢で、あの美しさで、そしてすごく頭が良くて。私のように完全な文系の人からすると、理系っていうだけでもう素敵フィルターがかかっているんですよね。その上に、若くしてノーベル賞がとれるかもしれない発見をされて。

魅力って、本当に全てわかってしまっても魅力がある場合と、オブラートにかかって謎があるから興味を惹かれるっていう部分があると思います。この小説では、正体がわからないという魅力にフォーカスして、最後まで距離感を持ち、遠い存在として描きました。

妹尾:なるほど、そんな小説の仕掛けがあるんですね。本当に最後まで、ずっとドキドキしながらあっという間に読み進めてしまいました。最後に、読者へのメッセージをお願いします!

旺季:今まで話したことでいうと、『モテ薬』はもっと女性が働きやすいふうになったらいいな、という、女性を応援する本っていう印象になると思います。実際そうなんですけども、私の中では登場した男性教授や医学部長、ライバルの女性助教など、全ての人を欲望に振り回される人物として書いているんです。

私は、欲望に振り回されることに対して駄目と思っているわけじゃありません。多かれ少なかれ、人間、誰しも心の中にそういう欲望とか、嫉妬とか、自分では認めたくない感情があります。その欲望に振り回される人間像を本作品では描いているんですけど、私の中では愛おしい人たちっていう気持ちがあります。

一見、女性賛歌、女性応援の作品に見えるけれども、実際は男性への応援歌でもありたいと思っているんです。欲望に振り回されること自体は悪くないですし、それをモチベーションにして頑張ってる人もすごく多いと思います。お読みいただく前は、女性の職場の環境整備について叫んでるような作品に捉えられるかもしれません。でも全然そんなことは書いてなくて、最終的に本当にただのエンタメ小説なんです。

だから皆さんにお伝えしたいのは、あまり難しいことを考えずにワクワク、ハラハラ、ドキドキしながら、楽しんで読んでいただけたら、ということですね。

インタビュアー紹介
妹尾優希
東欧スロバキアのコメニウス大学医学部6年生。英語で医学を学ぶ。2年時より医療ガバナンス研究所で学生インターンとして論文発表にも取り組む。昨年から、製薬会社と医師の利益相反に関する研究チームに加わる。第一著者として、2019年に公表された『高血圧治療ガイドライン2019』の著者の利益相反について調査した論文を投稿中。

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