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Vol.121 非科学的なコロナ感染症対策からの脱皮:科学的対策手順の提案

医療ガバナンス学会 (2021年6月25日 06:00)


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東京理科大学基礎工学部名誉教授
山登一郎

2021年6月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

はじめに
本メルマガの5月31日分Vol.102 ( http://medg.jp/mt/?p=10313 )で、実際の市中感染状況情報が、政府自治体の公表新規感染者数情報の中で無視されていることを訴えました。感染者数のそんな一部だけの情報を用いて行う対策やシミュレーションが科学的と言えるのでしょうか?
広島県では無料PCRモニタリング検査や事業所主体の広域PCR検査を実施しました。ところが、その結果をまとめたデータがホームページには非掲載です。無症者の検査&隔離目的には役立っているのでしょう。でも、コロナ感染状況を知る上で、こんなにも貴重な情報を公開しないのは、とても残念です。折角税金を使って行った検査なのですから。県には6月毎週問い合わせメールを送り、3週目には電話でお話しして、情報の公開・県民との共有の重要性を訴え、情報提供の検討をお願いしました。何故なら、実際の感染状況情報を市民も共有することで、協力的な国民性からは積極的な検査受診および自主的な自粛的生活を送り、感染抑制に寄与貢献してくれること間違いないからです。しかし結局、情報掲載も提供も見送られています。仕方なく、4月12日MRIC Vol.069( http://medg.jp/mt/?p=10224 )で用いた広島モニタリング検査結果(3200件中3人陽性;未確認)と5月12日分科会会長が口頭で触れられた広島広域PCR検査の無症者陽性率1%(未確認)を用います。そうした分析例を基に、科学的対策手順を提案します。
追加説明:6月21日MRIC Vol.117のご提案(クラスター対策と緊急事態宣言による国民の行動抑制などこれまでの感染症対策の破棄撤廃、ワクチン接種推進、そして検査拡大)( http://medg.jp/mt/?p=10346 )に概ね賛成です。ただ、そのうちの検査拡大は、すでに都では十分に達成されていると考えます。100倍は無理でも、公表5000程度に対し、民間自費検査等で10-20万は行われ、無症者の特定隔離に貢献していると推定します。その検査数も陽性率も、厚労省の意図的な不作為なのか、公表新規感染者数情報の中で“見えない化”されています。それらが公開され、国民と共有されるだけで、ワクチンが無くても、既存のシステム内で無難に科学的な対策ができると考え、提案しています。

I.広島市市中感染状況の分析
例1.MRIC4月12日分Vol.069内分析の再掲載( http://medg.jp/mt/?p=10224 ):モニタリング件数3200、陽性判明者3名。陽性率0.001で、それを市中感染率と見なします。推定できる市中感染者数は、広島市人口120万に対し、1200人。当時定常状態で公表新規感染者数は10人未満でした。すると感染拡大の倍加時間11.7日と算出され、市中の新規感染者数は72、その2割の有症者14人が公的検査を受診することになります。つまり当時広島では無料PCR検査での陽性特定の寄与はなく、公的検査だけで陽性隔離される状況だったと推測できます。
例2.5月広島広域PCR検査開始の頃、無症感染判明1%の場合:この陽性率をやはり市中感染率と見なします。すると市中感染者数12000。感染拡大中であり、倍加時間の見積もりは難しいが、実効再生産数から推定して9日と見積もられます。市中の新規感染者数1000人、2割の有症者数200人と算出できます。当時の公表新規感染者数150人程度によく符合します。無料PCR検査での感染者特定の寄与はやはりまだほとんど無かったことになります。そして、このような無症者大規模検査の取り組みが、その後の感染縮小、緊急事態宣言解除に寄与貢献しただろうことは容易に想像できます。ただ、情報が公開されず、どの程度の貢献かが見えないままですが。

まず、市中感染者数が公表新規感染者数の50-100倍存在することをご理解頂けるでしょう。日本では、そんな実際の市中感染状況を知るためのモニタリング検査もほとんど行われず、また民間自費検査も含めたそうした検査情報がどこにも公開されていないのです。国民と情報共有することで、国民の協力も得られ、かつどの程度検査件数を増やすと感染縮小できるかも科学的に見積もることができるのにです。
地方では、民間自費ではなく、こうしたモニタリング検査が重要です。 万レベルの“誰でもどこでも”検査による無症状者の陽性特定、そのマスでの療養施設隔離で、基本的には医療逼迫など起こさず、かつ緊急事態宣言などで国民を困らせることなく、コロナ感染症に対応できそうだとご理解頂けるでしょう。大都会では、民間自費検査が普及しているので、その検査情報を収集公開するだけでいいはずです。また無症者の陽性特定・隔離にも大きな寄与貢献をしていそうだと想像できます。しかも各種変異株に対しても、それぞれの基礎データを取得できれば、それぞれに対応した対策が打てるはずなのです。
ところが、政府自治体専門家は、そんなコロナ感染状況情報を収集しようともしないで、感染対策の提言などをします。例えば新規感染者数予測シミュレーションなどもよく目にします。どれも市中感染者数には目もくれず、その100分の一程度の数の公表新規感染者数だけを相手にしているのです。それで科学的な議論ができるのでしょうか?同じ生命科学研究者として、そんな非科学的な議論を視聴すると、恥ずかしくて消え入りたくなります。こんな非科学を一年以上も続けている責任を誰が、またはどこが取るのでしょうか。国民は大きな被害を被ったのですから。赤信号、皆で渡れば・・・なのでしょうか。または37.5度以上発熱4日以上の検査制限と同じく、国民の誤解なのでしょうか。

II.科学的対処手順の提案
本年4月MRIC Vol.069 (  http://medg.jp/mt/?p=10224 )、Vol.070 (  http://medg.jp/mt/?p=10226 )も参照して下さい。
まずGPSデータなどによる人流の増減と、コロナの新規感染者発生数の相関を調べておきます。同時に実行再生産数なり倍加時間との相関も取得できることになります。これらは、これまでの1年にもわたる経験から、すでに取得しているべきものだと思います。人流の増減後、何日後にその影響が感染者数になって現れるかも本来既にデータをもっているはずです。多分4-8日程度(または公表新規感染者数上では2週間)後に影響が現れるとされていると思います。

対処手順:
人流増減のモニタリング
→4日後の新規感染者数予測:この新規感染者数は公表新規感染者数ではなく、実際の市中全新規感染者数のこと
→そのような感染状況に対応するために必要な検査数の確保:無料PCR検査の増減や民間自費検査補助による
→検査結果情報の公開・国民との共有:市民はPCR検査で自分の感染の有無を知るというメリットだけでなく、実はこのような情報で各自治体の実際の感染状況を知るためのモニターとして皆に貢献していることになります。日本人は協力的だと信じています。これで国民側は自主的に自粛的行動を採って倍加時間を増減させ、かつ政府自治体側は確保検査数へのフィードバックを行うことができます。
→無症感染者のマスでの療養隔離

以上、政府自治体がこれまで行っていないが、本来行うべき役割が理解できるでしょう。医療体制整備も行うべきですが、本来検査が十分に行われれば、日本においてその国民性と生活習慣から判断して、ほとんど必要ないと思われます。
そして医療逼迫になりそうな、どうしようもないほど感染拡大する場合は、仕方なく情報公開しつつ緊急事態宣言で国民の自粛を要請することになります。国民は、感染状況情報を共有するおかげで、大変協力的だと期待できます。ただ、それは本来最後の最後の手段だと訴えたいと思います。これまでの政府自治体専門家たちや報道の緊急事態宣言頼り一点張りの対策は許されることではないはずです。

III.公表すべきコロナ感染状況の情報
自治体が公開すべき情報は、いつもの公表新規感染者数情報に加えて、
1.モニタリングなり民間自費検査の検査数・陽性率とそれにより推定される市中全感染者数
2.人流データとそれから予測できる4日後の市中新規感染者数
3.そのうちの予想有症者数(公的検査で陽性確定隔離可能)
4.無症感染者数のうち無料PCR検査なり民間自費検査で特定され隔離される予定の数
5.隔離されない新規感染者数を合わせた予想市中全感染者数の増減
6.拡大か縮小の判断と国民にお願いする人流の増減程度
7.自治体が準備する無症者対象の検査数の増減程度
などでしょう。街頭テロップやテレビ報道のニュース報告を用いてもいいのではないでしょうか。

IV.一国民からの政府へのお願い
以上、実際の市中コロナ感染状況の把握およびその情報公開・国民との共有の重要性を理解・納得して頂けると期待します。 是非全国的に、これまでの緊急事態宣言中心の対策から、こうした無症者特定も含めた検査中心の対策へ転換して頂きたいとお願いします。
特に、オリンピックも間近、JOCも開催必至としています。オリンピックでは、バブル方式で悉皆検査をします。そこで国民のコロナ対策では、検査中心のこうした科学的根拠に基づくものに転換して頂きたいと願います。ワクチン接種と相まって、オリンピックでも市中感染をきっと押さえ込めるでしょう。JOCも国民もそして政府も三者ともWin-Winで、全メンバーが安心して過ごせると期待します。
もちろん急に転換してもその成功は覚束ないかもしれません。しかし国民側はきっと協力 的だと信じます。折角世界から集まる一流アスリートの祭典なのですから。もちろんこの一大イベントでは、できるだけ安全側に余裕を持って対応して頂きたいと思います。感染拡大の危険がありそうなら、即撤退の覚悟とその準備が必要なはずです。
一方、これまで同様の検査不備のままオリンピック開催などしたら、確実にGoTo同様、またまた感染拡大で 緊急事態宣言に至ると恐れます。その時にはせいぜい無観客が必須条件でしょう。

まとめ
今後は、無事ワクチン接種が効率よく実施され、オリンピックも無事成功し、しかもひどい感染拡大も起こらないで終息することを祈ります。そして次のパンデミック感染症に対しては、ここで提案するような科学的対処法を実践して頂けるようお願いします。くれぐれも、この一年間政府自治体専門家たちや報道が曝したような非科学的・精神論的感染症対策などは押し入れにしまったままにしておいて頂きたいと切にお願いします。

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