医療ガバナンス学会 (2021年7月29日 06:00)
伊沢二郎
2021年7月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
イギリスではこれ迄の規制を緩め、正にコロナの社会実験そのものと言えることをやっている。予め新型コロナ流行の季節変動を見越して、ワクチン効果が続くこの時季に敢えて緩和政策を行っているとも言われている。
日本はと言うとイギリスとは前提も発想も全く異なり、NBCと一体のIOCに押し切られた格好の一か八かの選択をした様にしか見えない。コロナ禍夏のピークに向かうこの時季に敢えてやる、オリンピックと云う社会的実験だ。
しかしこの実験を支えることになっている指定病院の一つ、東京医科歯科大学は、もはや病床は余裕が有るとは言えない状況をテレビ番組が報じています。これにオリンピック関係者が加わったらどういうことになるのか。
頼みのバブル方式は開催前から弾け、前々から言われていた心配事の通りになるのではないのか。守られるはずのバブル内での感染を嫌ったアメリカ選手団は、選手村を避けてホテルに宿泊するようだ。
健康管理の為に現場に派遣される医師の負担も大きくなることだろうが、それはそのまま一般感染者の医療問題にも繋がる。
同じくオリンピック開催のこの日、中央道下り車線は行楽や帰郷に向かうマイカーの渋滞が40数キロと伝えている。
連休と学校の夏休みも相俟って行楽地は、テレビの報道を見る限りコロナ前と変わらない印象です。
オリンピック開催とは関係ないがこの日迄、三密を回避しようと国民一人一人は小さなバブルを作り、自粛に自粛を重ねてきた。
そうやって我慢をし続けてきたコロナ禍の生活一年半。二回目を向かえるこの夏に、個々の小さなバブルが弾けたとしても誰が批難出来るでしょうか。
新型コロナ、夏のピークに向かうこの時季に敢えてオリンピックを開催するマイナスの影響は大変大きいのではないか。
図らずもオリンピック開催が放つメッセージは、自粛しっぱなしのこれ迄の反動から個々の小さなバブルが弾けるに止まらず、お家でオリンピック観戦しようとか、デルタ株への今迄以上の注意の呼び掛けを相殺してしまう以上の事ではないのか。
それまでして新型コロナ夏のピークに向かうこの時季にオリンピックをやる意義が有るのか。
季節は逆だが同じくコロナ流行のピークを向かえる南の国々も共有できる意義とはなんだ。オリンピックそのものではなく、敢えてこの時季に何故やるのか、その意義だ。
菅首相は21日、ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版とのインタビューで「オリンピックを止めるのは一番簡単なこと、楽なことだ。挑戦するのが政府の役割だ」と強調した。NBCやIOCを向こうに回してまで中止が簡単なことなら、誘致の際に言った温暖な季節として本当に相応しく、ワクチン効果も上がり諸々の課題も解消する秋に延期する方がもっと簡単ではないのか。全ての人も楽になる。
首相のこの度の発言は理解するにほど遠く、憤りを覚える。
開催に挑戦するのはかってだが、こちらはコロナ流行夏のピークのこの時季にオリンピック開催まで付託した覚えは全く無い。国民をデルタ株感染のリスクに晒すようなことは止めるべきだった。
しかし一か八か、賭けとも言える開催の賽は投げられた。後はテレビに良く登場する感染症ムラの御仁が曾て言った「神のみぞ知る」だ。
この上は国民としてつつが無く進むことを願うばかりだが、デルタ株が市中に蔓延しようとする今、毎日のように報道される選手及び関係者の感染や、検査キットが無くその間末検査であったことなどを聞かされると、オリンピック最中のみならず、その後がどうなるか大変危ぶまれる。
それにしてもこのオリンピック、メーン競技場の設計委託に始まり直前迄のトラブル続きは改めて述べることも要らない程知れ渡っているが、組織委員会の当事者意識・能力の無さが際立ち過ぎる。
単に上手く出来ませんでした程度で済むだけなら改善すれば良いことだが、健康・生命に係わる事となれば話は全く異なる。
この際序でに言わせてもらえば、予定されていたボランティアへの弁当が大量に廃棄されていると今日(7/24)のテレビ報道が伝えている。予定が変わったのだから上手く対応すれば良いものを、そんなに難しいことか。報道はこの大会が推進するSDGsのテーマにも反する行為であることを示唆している。
こんな責任の実態が良く分からない組織が大会の運営及びコロナ対策をやれば結果は推して知るべし。
仮にプレイブック通り出来たとしてもこれ自体に問題が有る。デルタ株はPCR検査をすり抜けることも有ると聞きます。うがいで検査をすり抜けるアスリートがいることを窺わせる専門家もいる。
全豪オープンテニスの際に本人は陰性でもホテルの部屋に二週間閉じ込められ、その部屋で練習せざる得ない程の厳格さとはえらい違いだ。
やる事の善し悪しは別として、本気で感染対策をやろうとすればこう云うことなのでしょう。
ここのところ頻繁に報道されるオリンピックに纏わるコロナ感染対策の不出来・対応のいたら無さは、期間中は勿論のこと、そのまま閉会後の医療にも影響を及ぼすことになる。
そもそも組織委員会がコロナ対策を兼ねるのは無理なことだ。オリンピック後が如何なることになるのか、医療崩壊による犠牲者への責任は取りようがない。上手く出来ませんでした、で済む話ではない。
新型コロナ夏のピークに向かうこんなに難しい状況下、ひたすらオリンピックに突き進もうと言うのに、組織委員会に於いて感染対策責任者の実態が顔が良く分からない、どう云うことなのだろうか。
コロナ緊急事態下のオリンピックは普通は無い、と言った為かどうかは分からぬが分科会は遠ざけられた。この事について、専門家誰の意見を参考にコロナ対策をやるのか、の記者質問に菅首相は、その時々に応じて然るべき人と相談してやっているとの主旨を述べた。私、その時頭に浮かんだのは内閣官房参与に取り立てられていた、分科会メンバーでもある岡部信彦氏だ。
同じく、新型コロナは“さざ波”と言ったあの方も採用されていたがこの発言により辞職した。菅首相はこの御仁が辞めたことに触れ、法的根拠の無い立場の人だからと云った主旨を述べた。要は単なる私的な相談役の言ったこと、とでも言いたかったのか。
前述の岡部氏も同じ立場です。この方の感染症専門家としての腕前の程は分からぬが、このような人がオリンピック感染対策のキーマンだとしたら責任の所在はます々分からないことになる。
常々“最終責任は首相の私にある”と言うが、そもそも責任を取りようがない事がある。医療逼迫によるコロナの犠牲者への責任をどの様に取るのだ。責任を取りようがないことはすべきでない。
それでも進めなければならない事も有ろうが、果たして新型コロナ夏のピークに向かうこの時季にオリンピックを強行することが、それに値することか。
“オリンピック開催中止は簡単なこと”なら開催に相応しい秋に延期する方がもっと簡単だっただろうに、大変悔やまれる。
この際、物事は前向きに考えたいので序でに二つ書き添えます。
●この度が“NBC及びこれと一体のIOCに負けた証のオリンピック”の論が沸き上がり改革に繋がることを願う、本来在るべき姿のオリンピックを心底楽しみたいから。
●尾身 茂分科会会長は“人々の行動制限だけに頼るという時代は終わりつつある”と述べると共に科学技術の重要性に触れた。多くの方が何を今更と思うことでしょう。
少し品格に落ちますので口には出せませんが、私なりには“おととい来やがれスットコドッコイ”と言いたいところです。
この尾身氏の発言は従来、言ってたこと、やってきたことの間違いを認めることに等しい。併せて先端科学技術の研究やテクノロジーの導入にも触れているので言っている事自体は頷ける。
これを本気で推進することは大学の研究部門や民間の最先端技術を活用する、総掛かり体勢を構築することになる。
それはコロナ感染対策に於いて必ずしも感染症ムラを必要とせず、縮小或いは解体を意味する。
上 昌広先生は従来から、新型コロナ夏のピークに当たるオリンピック開催中の感染爆発の可能性に触れています。
東京のこれ迄を見ると、二週間余りの開催中とその後がどうなるか大変危惧されるところです。法的根拠が有る立場の尾身会長のこの度の発言、二度と国民を裏切ること無きよう覚悟を持って本気でやる気を示してもらいたい。