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Vol. 262 リハビリテーションから見た「新しい公共」

医療ガバナンス学会 (2010年8月14日 06:00)


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デンマーク国立オーフス大学脳神経病態生理学研究所
客員教授 酒向正春
2010年8月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


市民に必要とされる医療が地域で実践できない現状があります。その一つは、医療施設の偏在の問題として知られています。多すぎる医療施設は地域で淘汰されることになりますが、少なすぎる医療施設では市民(地域住民)に必要な医療を提供できません。昨今、注目されてきたリハビリテーション(以下、リハビリ)、とくに、急性期治療後に26ヶ月間かけて機能回復を集中的に実現する回復期リハビリに注目して、この病床の偏在の現状を考えてみます。

全国回復期リハビリ病棟連絡協議会の報告によると、必要最低病床数は人口10万人あたり50床とされています。平成22年7月時点で、人口10万人あたりの地域別病床数は全国平均が45床に過ぎません。関東地区は平均病床数30床であり、東京都では29床、23区内では27.5床でした。驚くべきことに、23区のうち7区(216万人在住)では、回復期リハビリ病床は存在していません。

この7区は、港区、中央区、千代田区、品川区、目黒区、練馬区、葛飾区です。これらの区民の年間脳卒中発症者数は推定4300人です。なんと、4300 人もの市民が自分の暮らす区内で回復期リハビリ治療を受けられない現状があります。なぜ、216万人もの市民に必要な地域医療が提供されていないのでしょうか。

その原因は3つあります。
1.病床過剰(オーバーベット)のため、病院新設が許可されないこと。
2.医療崩壊に伴う医療スタッフ不足により病院運営が困難なこと。
3.土地高騰により、医療収益では都心部病院新設による経営は成り立たないこと。

しかし、これらは解決できない問題でしょうか。必要な医療が必要な場所で提供できるように制度の見直しをすることも重要です。医療・福祉における「新しいコミュニティ」、「新しい公共」、「市民創発」の重要性が注目されています。市民創発により、人々が互いに助け合い、その価値観を共有できる「新しい公共」を実現し、新しいコミュニティを再生しないと、この国は手遅れになります。

1.病床過剰地区においても、特に、4疾病5事業で不足した診療科の病院新設許可は自治体ごとに検討されるべきです。市民創発が重要です。

2.回復期リハビリ医療を学びたい医療スタッフは沢山いますが、それを本格的に実践できる施設が不足しています。新しく必要とされる医療に携わる意思を持ったスタッフは多いため、教育、育成を含めて、国家的支援体制が必要です。

3.国土交通省より興味深い戦略が発信されました。大都市イノベーション創出戦略です。「大都市の枢要地区で、従来の容積率規制に拘らず、民間事業者の都市の成長に寄与する幅広い環境貢献の取組を評価して容積率を大幅に緩和する(平成22年度早期)。」
これは、民間事業者の都市の成長に寄与する病院等医療施設については、市民の福祉の向上に寄与するため、容積率の緩和、もしくは撤廃の対象になることを意味しています。特に、病院は検査機器等の医療器具が大型化し、労働環境改善には室内空間が狭く、容積率が不足して、改築時に都心部に残れない事例が出ています。都心や市街地中心部での医療施設の容積率の緩和問題を医療従事者が真剣に考え、その必要性を訴える機会が到来しました。

リハビリは、人間回復のためのソーシャルビジネスです。貧困回復のソーシャルビジネスを成功させ、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス博士も人間回復のソーシャルビジネスの必要性を強調されました。日本にも、以下の7原則が広く受け入れられる人間回復のソーシャルビジネスが、一日も早く実現することを願いたいと思います。それが「新しい公共」の社会実現の近道でもあります。

1.事業の目的が利益の最大化ではなく、障害からの人間回復、あるいは人間回復およびその社会支援体制を脅かす問題(教育、健康、科学技術の導入、環境保護など)の解決にあること。
2.財政的・経済的サスティナビリティ
3.出資者は投資元本のみを回収すること。配当は支払われない。
4.投資元本が回収された後は、収益は病院に残り、成長と改善のために再び出資される。
5.環境的サスティナビリティ
6.職員の給与は市場水準相当であっても、職場環境はよりよく整備されるべきこと。
7.楽しむこと。

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