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Vol. 280 医療安全の「三方一両”得”」に向けて

医療ガバナンス学会 (2010年9月7日 06:00)


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医療安全の「三方一両”得”」に向けて
~医療安全管理者をサポートする、女性研究員たちの熱い戦い~

一ツ橋二ノ禄(エッセイスト)
2010年9月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


「三方一両損」という江戸小噺をご存じだろうか? 大工と、その大工が落した3両を拾った左官屋との小さなトラブルを、大岡越前が見事に裁いた粋な小噺だが、今日の話はこの猛暑にも拘わらず、医療安全の三方一両”得”に向けて熱く戦う、粋な女性達のお話だ。

三方とは、医療(病院)、患者、保険会社の3つで、現在共に一両損の状態だ。
病院は極一部の黒字化成功例を除き、多くは赤字経営に苦しんでいる。さらに地方では深刻な勤務医不足が続き、それと連動するかのように医療ミスや医療訴訟が増えて、疲弊しきっている現状だ。

病院が疲弊すると、患者の置かれている状況も悲惨になる。2時間もかけて通院を余儀なくされたり、長い待ち時間もなかなか解消されない。医療ミスによる医療不信に加えてモンスターペイシャントなどの新種も登場し、まさに”病んでいる”状態だ。

もう一方の保険会社も苦しい。医療訴訟などに唯一金銭的に対応できるのが病院(医師)賠償責任保険であるが、こちらもその契約の多くが赤字といわれてい る。つまり、病院などが払う保険料より保険会社が支払う保険金(賠償金額)の方が多くなっているため、ビジネスとして成り立たなくなっているのだ。いずれ 米国東部で起きているような保険会社の撤退や、保険に加入できないことを理由にした医師の廃業が、早晩日本でも起きるといわれている。

この三方一両損の現状に医療安全の立場から立ち向かっているのが、研究員という肩書で医療安全を専門とする女性コンサルタント達だ。所属は東京海上日動メ ディカルサービス(略称TMS)社という日本で唯一の医療安全を専門とするコンサルタント会社で、実際に国内外で医療機関を運営しながら医療安全のノウハ ウを研究していて、東京大学医学部とも連携して共同研究も行っている。

総勢10数人の彼女達の職歴は様々で、看護師・保健師・薬剤師の他、大学で教鞭をとったり、海外で看護師の資格を取って臨床した経験を持つ者もいる。そう した職歴や技能を生かして、現在医療安全に向けた各種のプログラムを開発し、契約した全国の病院で実際に講演したり専門誌でコラムを持ったりしているが、 彼女達の目標こそ「病院の医療ミスを減らし、職場の雰囲気を明るくすることで、患者との信頼関係を深めて欲しい」のだという。さらに、患者との信頼関係が 深まれば訴訟なども防止でき、結果として保険会社も助かることになる。つまり、三方一両”得”が実現できるというわけだ。

その一例として、某県の取組みを紹介しよう。その県には10以上の県立病院があり、県の指導で医療安全指針を作成し各病院に流すという一般的な取組みがな されていたが、病院の規模や土地柄もあってなかなか目指すレベルにまで到達できず、結果として医療ミスや訴訟件数も改善しないという問題を抱えていた。 TMS社のプログラムは病院賠償責任保険と一体となって採用するとメリットが高いため、県では保険を東京海上日動社に切替えると同時に、付帯サービスとし てこの新しいプログラムを採用することにした。

彼女達がまず取り組んだのが、『全職員に対する意識調査』だ。これにより各病院の医療安全に対するレベルが判定できるので、いろいろなプログラムに中長期 のスパン取り組めるメリットがある。特に効果が顕著なのが、『医療安全研修会の企画から実施までを全面的に支援するサービス』だ。

現在、年に2回行わなければならない医療安全研修会は、どの病院でも設定する立場の医療安全管理者の大きな負担になっている。「予算はないし、誰に頼んで 何を話してもらえばいいのか?」とか、「体系的に行えないので、場当たり的な実施で終わってしまう」という悩みはどこの病院からも聞こえてくるが、彼女達 はこうした悩みにも耳を貸す。どんなに遠くとも必ず足を運んで現場の悩みや問題点を把握し、それに合ったテーマや講師を選んで実施する。同時に、1年目は このレベル、2年目3年目はどのレベルというように、職種ごとにレベルを設定して研修会を実施するので、普段こうした体系的な研修を受けたことのない示談 交渉担当者からも高い評価を得ている。

さらに現場の担当者に好評なのが、『メールや電話による24時間・365日の相談サービス』だ。「患者がこんなことをいっているが、どう対応した方がいい か」や、「この問題の過去例や法律的な解釈を教えて欲しい」など、専門的な解釈から誰に聞いたらいいか分からないような些細な疑問も、殆ど1両日以内に回 答されている。また、実際に事故が起きてしまった場合でも、賠償責任保険と一体となっているので保険会社の損害担当者と連携して迅速に対応できるため、特 に重要な初期対応のアドバイスに大きな効果を上げている。

こうした取組みに対しある病院の医療安全管理者は、「正直、こんなことまでやってくれるとは思わなかった。今まで相当な時間と労力を浪費していたように思 う。」と感想を漏らしている。あえて彼女達への不満を聞いたところ、「遅くなった時に慰労したくても、殆ど日帰りで帰ってしまうこと(笑)」だそうだ。こ の辺は女性が故の悩みというべきか。

彼女達の戦いはまだ始まったばかり。同業として身の引き締まる思いをした取材であった。

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