医療ガバナンス学会 (2022年5月26日 06:00)
この原稿は塩崎やすひさ『やすひさの独り言』(4月24日配信)からの転載です。
https://www.y-shiozaki.or.jp/oneself/index.php?start=0&id=1370
塩崎やすひさ
2022年5月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
私が主宰する「ゲノム医療推進研究会」の第3回会合を、明後日の26日に開催予定だ。講師は、私の厚労大臣時代からのこの道の師である中村祐輔先生。がん研究会(がん研有明)がんプレシジョン医療研究センターの所長であり、この4月からは、医療基盤・健康・栄養研究所の新理事長にも就任された。ノーベル医学・生理学賞候補にもしばしば名前が上がる世界的な研究者で、昨年、文化功労者にも選出されている。明後日、ゲノム医療により、がん治療に如何なる新たな突破口を開く提案をして下さるか、大いに期待する。
本研究会は、常時約10名の現役国会議員、厚労省ゲノム医療関連幹部、20社程の製薬企業等ゲノム関連企業のオンラインを含めた参加の下、本年2月にスタートしたもの。私が先月立ち上げた「一般財団法人 勁草日本イニシアティブ」の主要事業のひとつだ。
2月22日の第1回会合では慶応大学臨床遺伝学センター教授で日本人類遺伝学会理事長の小崎健次郎教授が、米国の代表的小児科学誌 “The Journal of Pediatrics” にも載った臨床研究結果について披露、難病の新生児85人へのゲノム検査の結果、41人の赤ちゃんの難病原因を突き止め、その約半数ケースで治療法を変更・確立したとの説明に、ゲノム医療の有用性を強く感じ取った。
3月31日の第2回会合では、日本製薬工業協会から創薬に結び付くための全ゲノム情報等の利活用方法等の改善提案を包括的に行ってもらい、今後のゲノム医療関連産業の足腰強化にもつながる有益な提案を聞き、活発な議論が行われた。
5月連休明け早々の第4回会合では、宮野悟東京医科歯科大学M&Dデータ科学センター長に講師となって頂き、数学者・理学者として日本におけるバイオインフォマティクスを最初から作ってこられたお立場から、デジタル情報の塊ともいえるゲノム医療の情報基盤等に関し、臨床医学者や基礎医学者ではないお立場から、日本のゲノム医療を牽引されて来られた経験を踏まえ、さらなるゲノム医療の推進提案を幅広くお聞きすることとしている。
上記3人の先生方をアドバイザーとして頂く「ゲノム医療推進研究会」で、私は以下を当面の研究テーマとして考えている。
・ゲノム解析の全診療科への普及(予防、早期発見・治療)
・保険適用診療・検査の拡大目標設定
・情報公開徹底の下、多様で開かれた研究の促進
・プライバシー保護の下、開かれたデータベース構築
・国によるゲノム関連産業育成支援
・人材育成等による質の向上
・国際協調の推進
・遺伝子差別禁止の法定、国民理解の促進
・ゲノム検査結果に応じた医薬品の承認
私が厚労大臣を務めていた当時、英国では、後に難病により実子を失うキャメロン首相がリードし、「Genomics England」とのゲノム医療戦略を2013年から国を挙げて推進、2018年には10万ゲノムの解析を完了し、今では、その目標は100万ゲノムと言われている。
米国では2015年の一般教書においてオバマ大統領が「Precision Medicine Initiative」とのゲノム解析による個別化医療戦略をぶち上げ、その翌年には、「Cancer Moonshot Initiative」とのゲノム医療を中心とした、月に人間を送り込む計画の「ムーンショット計画」同様、がんで死なない国づくり、という大きな夢を目指す国家戦略を決め、ご子息を脳腫瘍で失ったバイデン副大統領(現大統領)に託した。2016年9月、NYにて、バイデン副大統領の呼びかけと本人出席の下、日米間保健大臣会合を開き、ゲノム医療協力で合意した。
要は、英米とも、国家戦略としてゲノム医療を強力に推進しているのに対し、私が厚労大臣になるまでのわが国では、全くと言って良い程、力が入っていなかった。
そこで私は「日本でもがんで死なない国を創ろう」との音頭を取り、2016年12月、国立がんセンターを中心に、ゲノム医療推進を開始、安倍総理の指示も頂き、漸くわが国もゲノム医療を国として推進することとなったのだ。
厚労大臣退任後は、自民党データヘルス推進特命委員会に「がんゲノム・AI等WG」を立ち上げ、丸川珠代参議院議員に主査をお願いし、欧米に追い付け、追い越せ、とゲノム医療を推進してきた。
単独の研究所や大学では英米に勝てないならば、「がんゲノムコンソーシアム」を形成、「がんゲノム医療中核拠点病院」などの全国ネットワークを張る一方、2019年年末には、難病・遺伝病も対象に加えて「全ゲノム解析等推進計画」を厚労省が始めることとなった。しかし、その研究プロジェクトのガバナンスが全く機能しておらず、研究者の裁量のままとなっており、私は一旦予算執行を止め、ガバナンス再構築に約一年掛け、昨年夏、漸く再スタートを切り、近々その計画の第二版が公表される予定だ。しかし、このプロジェクトのガバナンスは、振出しに戻ったほど機能しておらず、今後相当なテコ入れが必要だ。
当面、全ゲノム解析を活用してゲノム医療を推進するに当たって最も大事なことは、「患者起点、患者還元」であり、なおかつ「患者還元」とは、「ゲノム解析結果情報の患者への還元」に止まらず、「真の患者還元」とは、「患者への治療方針がポジティブに前進すること」すなわち、「治療法の確定・変更」であり、より具体的には「新たな医薬品の発見」すなわち、「適用拡大」か「創薬」をお届けすることにほかならず、この研究会を通じてその実現にしっかり結び付け、人々の命を救い、少しでも患者の生活の質の改善につなげたい。その際には、自民党の「医療情報・ゲノム医療推進特命委」(古川俊治委員長)、とりわけ同特命委でゲノム医療を担う丸川珠代議員らとしっかり連携して行くつもりだ。