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Vol.22107 コロナ禍で得たプログラミング・スキル

医療ガバナンス学会 (2022年5月30日 06:00)


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この原稿は医療タイムス(2022年5月18日)からの転載です。

広島大学医学部4年
吉村弘記

2022年5月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

●コロナ禍の大学生活のイメージ

コロナ禍の大学生といわれるとどのようなイメージを持つだろうか。

おそらくほとんどの人は授業やサークル活動が制限され、やりたいことができずに悶々とした日々を送っているのではないかと思われるのではないだろうか。

実際、私の通う大学でも行動制限を要請され、満足に外で遊ぶことも難しくなった。私の友人の中でも家で悶々と過ごすしかないという人が多かったし、かくいう私もそんな学生の1人だった。

そのコロナ禍で私が出会ったのがプログラミングである。特にやることのなかった私はすぐにプログラミングにのめり込んだ。東京大学の情報系に進んだ友人や東大の松尾研究室の寄付講座でプログラミングやそれを用いた機械学習の技術を学んだ。

●「そのデータから何が分かるの?」との問い

そんなときに、日頃より私がご指導頂いている福島県立医科大学の坪倉正治教授から、名古屋大学の岩見真吾教授を紹介して頂き、その先生の下で「時系列データに関する解析の学習をして、その成果を発表してほしい」との依頼をいただいた。

私は「自分の力を発揮するのに素晴らしい機会をいただいた」と思い、岩見教授のiBlabで学ばせていただいた手法を用いて、アメリカの各都市のコロナ患者の推移に関する時系列データへのクラスタリングを行った。

結果は「東海岸・⻄海岸に急拡大地域があり、内陸は拡大が緩やかだった地域が多い」というものであった。自分では内心「適切なクラス分けをしてよい分析ができた」と思っていた。そのときの私は、「データから得られた結果はそれでしかなく、これ以上は何も得られない」とたかをくくっていたのである。

そこに一石を投じたのが、私が日々お世話になっている医療ガバナンス研究所の上昌広理事⻑だった。上理事⻑は私に、「そのデータから何が分かるの︖」と尋ねられてきた。

●現象の背景まで考えてデータ分析

私は、「データから分かるのはその結果だけだ」と非常に浅はかな考えを持っていた。一方、このときの上先生の質問の深意には、「そのデータはどのように解釈すべきなのか」ということであった。

すなわち、「東海岸・⻄海岸に急拡大地域があり、内陸は拡大が緩やかだった地域が多くなるのはどのような背景があるのかを考察してごらん」という意図があったのだ。

アメリカ合衆国の成立の歴史を考えたとき、南北戦争時代、東海岸や⻄海岸部はすでに州として成立していた一方で、内陸部はまだ準州であった。実際、拡大が緩やかだった地域とアメリカ大陸の旧準州はかなり一致していた。

コロナの感染拡大に最も寄与する因子はその地域の人口規模であり、アメリカの人口の偏在が南北戦争時代の影響に基づいていたためにこのような結果になったものだと考えられる。
そうした歴史的背景がこのコロナ患者の上昇度の分布には隠れていたのである。上理事⻑は「目の前の現象の背景まで考えてデータ分析をしなさい」とおっしゃっているように感じた。

●データ解析が何を主張するのかを探る

確かに自分が学んだプログラミング技術は医学研究におけるデータ解析にとって有用であるし、解析の幅は大きい。しかし、それ以上にデータを解釈する能力が重要なのである。

解析だけでいえば同じコードを書けば誰でもできるのに対して、解釈とはデータが示していることに対して自分の持つ知識をフルに生かし、その結果が何を主張するのかを探らなければならないのだ。

そのためには幅広い知識と教養が必須となる。学生である私にはそうした知識は乏しく、本や映画を見たり、常磐病院の尾崎章彦先生をはじめとする諸先輩方から話を聞くなどして、学ばせていただいている毎日である。

コロナ禍は、私にプログラミング技術を与えた半面、自分の知識不足をあらわにするものであった。せっかくいただいたこの機会を無駄にすることなく、さらなるステップアップに励んでいきたい。

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