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Vol.22164 頑張れ!東京大学教養学部

医療ガバナンス学会 (2022年8月11日 06:00)


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予備校講師
藤井健志

2022年8月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

7、8年近く前からになるだろうか、現代社会が抱える問題について考え、それを論理的な文章にして表現するということを目標に、月に一冊の課題図書を定めて私も生徒もそれを読んだうえで議論、最終的に各自の意見を小論文化するという講座を数年にわたって担当したことがあった。そのなかに工学部志望の高校1年生がいた。全国屈指の中高一貫校の優秀な生徒であった。

私は「東大理一志望の子が、まずは基礎となる国語力を固める目的で来ているんだな。高2になったら理系科目に集中する戦略なのだろう。さすが都市部の進学校の子は賢い。」くらいに受けとめていたのだがその生徒、東京工業大学志望だと言う。「あれ?」と思いつつも、東大OBの私としては、逆になんだかみっともなくて「なんで東大じゃないの?」とは聞きたくない。気になりながらも聞けないままに時は過ぎる。そしてその子は2年になっても3年になっても毎週平然と私の教室にやって来る。旧センター試験(現共通テスト)の直前にも、そしてなんと翌日にも平然と教室に座って、淡々と授業に参加している。。。

その生徒が第一志望の東京工業大学に現役合格し、合格発表後に校舎まで報告しに来てくれた時、「僕は大学に入ったらすぐに自分が学びたい専門分野を思いきり勉強してみたいと思ってきました。東大は教養学部で広く一般教養を身につけてから専門課程にはいるシステムだけど、僕はその2年分早く専門の学問をスタートするために、入学前から工夫していろんな分野の教養を広げる必要があると思いました。先生の講座に出続けていたのは自分なりの『東大との闘い』だったんです。」という話を聞かせてくれた。

東京工業大学と東京医科歯科大学統合協議開始というニュースに、東大教養学部での新型コロナ感染学生に対する救済措置、単位認定を巡るニュースが重なる中、そんな生徒との思い出が脳裏をよぎった。我が母校東京大学、その教養学部のリベラルアーツの精神がこれからも活かされ、次代を担う若者たちを惹きつけ、育て、羽ばたかせるにはどうしてゆけば良いのか。我々古い世代の人間はどんなかたちで応援できるのか。

今回大きく話題になっている個別の案件については、直接目にしたわけではない私から特に何か言うこともない。それ以前に、コロナ禍以降感染した学生のために手厚く用意された救済措置を、知恵の働く東大生たちが本来とは違った趣旨で「利用」してしまうような案件もあったのではないか、その辺りへの教育的配慮、指導の必要性から逆に大学側からの救済措置の厳密運用や縮小の動きも出てきたのではないかということもなんとなく予想される。しかし、いわば「教養学部の売り」であるはずのリベラルアーツの精神に基づく学び、進学振り分けの制度が学生の足かせになり、大学自体の魅力を減じてしまうようなことはあってはならないように思う。個々の案件についてできる限り学生側、大学側が公正な場での直接のやり取りを通じて情報を共有し、必要な指導、あるいは救済が適正になされることを願ってやまない。
海外大学と比較されランキングされようと、専門性の高い魅力的な研究機関が新たに組織されようと揺らぐことなく、学生本位で、リベラルな学びの場を創造し続けるよう、頑張れ!東京大学教養学部!!

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