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Vol.22222 摂津市当局はダイキン広告掲載、市議会はアンケで最大会派の公明が無回答(シリーズ「公害PFOA」第28回)

医療ガバナンス学会 (2022年10月31日 15:00)


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Tansaリポーター
中川七海

2022年10月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

10月に入って、また大阪・摂津市民のPFOAへの高濃度曝露が明らかになった。

全国最高濃度のPFOA汚染を記録した摂津市では、不安に感じた市民が次々に検査を受け、その度に高濃度曝露が判明する。今回は8人が9月に血液検査を受け、分析の結果、全員から高濃度のPFOAが検出された。

しかし、摂津市長の森山一正(78)の腰は重い。それどころか、「事業所だって困る。こんなんいつまでもやってたら」と汚染源であるダイキン工業を庇う。市のウェブサイトのトップページは、何事もなかったかのように、今もダイキンの広告を掲載している。

市議会はどうか。今年3月には全会一致で汚染の対応を国に求める意見書を可決している。

ところがその後、私が全市議に質問状を送ると、返ってきた回答は議員たちの足並みが揃っていなかった。

http://expres.umin.jp/mric/mric_22222.pdf
摂津市の公式ウェブサイトより。ダイキン工業の広告が掲載されている

●被検者の85%が高濃度曝露

2022年9月27日、京都大学名誉教授の小泉昭夫と准教授の原田浩二が、摂津市民8人に血液検査を実施した。

小泉は、国内におけるPFOA研究の先駆者である。2002年に全国でPFOAの調査を始め、摂津での高濃度汚染を突き止めた。

摂津市民のPFOA曝露を調べ始めたのは、2008年のことだ。女性60人の血液を分析したところ、平均値は非汚染地域の住民の6.5倍に上った。

2020年、環境省が実施した全国の水環境調査で、摂津市の地下水が全国1位の高濃度を記録。これを機に小泉は、市民の血液検査を再開した。今回の8人も含め、検査を受けた市民の85%で、高濃度曝露が判明している。以下の通りだ。

検査日/検査人数(摂津市民)/検査結果
・2020年7月10日/1人/高濃度
・2020年9月30日/5人/4人が高濃度
・2021年10月23日/9人/9人全員が高濃度
・2022年6月5日/11人/7人が高濃度
・2022年9月27日/8人/8人全員が高濃度

汚染源は、摂津市内にあるダイキンの淀川製作所だ。小泉も突き止めている上、事業所を監督する大阪府も認めている。

高濃度曝露した市民たちは、怒っている。

大野明(仮名,64)は「私の体内に溜まったPFOAはどうしてくれるんですか。本当に気持ちが悪い。ダイキンはそこを明確にしてないでしょ」。吉井正人(仮名,70)も「すでに敷地の外にPFOAが流出して蓄積している。敷地外の調査と浄化をまずせなあきませんやん」。

森田恒夫(仮名,76)は、地域の子どもたちを心配する。
「自分たちが汚染源でも、ダイキンさんは知らんぷりやね。製作所の目の前には小学校もあるのに、自分たちのことしか考えてないね」

●副市長はダイキンの代弁者?

市民8人が9月27日に検査を受ける前日、摂津市議会ではPFOA汚染が議題に上がった。自民党の嶋野浩一朗が、「PFOAに関して、いかに住民の不安を取り除いていくのか」と質問した。

副市長の奥村良夫が答弁に立った。
「血液中のPFOA濃度の目標値は定められていない」
「時代の変遷とともに企業活動が活発になると、いろいろな廃棄物が工場から排出され、環境に変化が生じる。ダイキンは社会的責任を負っていることを十分認識し取り組んでいる」
「米国EPA(環境保護庁)がPFOAを全廃したのは2015年。ダイキンはそれよりも3年前に自主的に国内で全廃している」
「ダイキンは、敷地内のPFOAを含む地下水の処理対策に取り組んでいる。地下水の揚水処理量を倍増している」
「最近では、ダイキンは工場敷地の全周を地下10メートルまで遮水壁で囲いこむ対策に着手している」

一連の答弁の後は、こう言った。
「このようにダイキンはとり得る限りの対策に着手している」

これまで私はダイキンの役員や広報担当者とやりとりしてきたが、奥村の言葉の数々はダイキンの言い訳を代弁しているように感じた。後日、私は奥村に直接電話して聞いた。

「奥村さんの答弁は、ダイキンの言い分を代弁しているように聞こえました」と告げると、奥村は「そんなことはない」と否定した。

だが実際、市はダイキンと締結している「環境保全協定」に基づいて、市民への補償をダイキンに迫ろうとしていない。ダイキンは市から申し入れがあれば協議を始めると表明している。その点を質すと、奥村は答えた。

「国に公害等調整委員会がある。そこが補償金額の裁定をすれば、その金額をもって、ダイキンに対して補償の協議を申し入れることはできる」
「公害等調整委員会に訴えるのは市民自身ですけどね」

つまり、協定に基づいて市がダイキンに補償を求めることはない、補償してほしければ、市民とダイキンで直接やりとりしてくれということだ。

●ダイキンのメアドで回答してきた市議

私は、副市長の奥村の答弁に納得がいかなかった。議会で質問した自民党市議の嶋野はどう思ったのか。議会の休憩中、私は嶋野に声をかけた。
「副市長の答弁は、まるでダイキンの主張みたいでしたね」

だが、嶋野は反論した。
「いや、副市長も副市長なりに考えてはりますよ」

奥村の答弁からは、そんな気配は微塵も感じられない。なぜ、嶋野はそんなことを言うのだろうか。

私は今年8月に受け取った、全市議への質問状に対する回答を思い出した。嶋野は、市当局はダイキンと協議するべきかという問いに「協議をすることは適切でない」。市議会議員として行動を起こすかという問いに「現段階では何かを働きかけることはない」と回答していた。

嶋野の他にも、PFOA汚染への対応について消極的な議員はいた。

自民党の議員たちは嶋野同様、積極的に動こうとしない回答だった。

ダイキン労働組合が推薦し、今もダイキン社員としての籍をもつ三好義治は、なんとダイキンのメールアドレスから回答を送ってきた。その中身は、「市当局はダイキンと協議するべきと考えない」「自らは行動を起こさない」という回答だった。

最大会派の公明党は、5人全員が回答すらしなかった。

摂津市議会は今年3月、PFOA汚染に関する国への意見書を全会一致で可決してはいる。しかしPFOA汚染に対して、議員として実際に取り組むかには、温度差があった。

質問内容は以下の4点だ。
(1)環境保全協定に基づき、ダイキン工業による住民への補償を実現するために、摂津市当局はダイキンと協議するべきだと考えるか。
(2)環境保全協定に基づき、ダイキン工業による住民への補償を実現するために、市議会議員として行動を起こすか。
(3)行動を起こす場合、何を実施するのか。
(4)行動を起こさない場合、その理由は何か。

各議員の回答は分量が多いため、Tansaのウェブサイトからご覧いただきたい。

https://tansajp.org/investigativejournal/9430/

=つづく
(敬称略)

※この記事の内容は、2022年10月7日時点のものです。

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●シリーズ「公害PFOA」:https://tansajp.org/investigativejournal_category/pfoa/

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【YouTube番組で解説!】
ダイキン「社外秘」文書入手!摂津でPFOA大量排出(令和の水俣「PFOA」No.6)
https://youtu.be/cT5sJSG1-H4

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