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Vol.22245 コロナとの合併症で帯状疱疹増加 「水ぶくれが突然我慢できない痛みに」その理由は?

医療ガバナンス学会 (2022年12月2日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(11月2日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2022110100005.html?page=3

ナビタスクリニック(立川)内科医
山本佳奈

2022年12月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「帯状疱疹を予防するワクチンがあると聞きました。接種することはできますでしょうか」最近、外来診療をしているとこのような質問を受けることが増えてきた印象です。

新型コロナウイルス感染症の流行から2年以上が経過し、様々な合併症を引き起こすことが次第に明らかになってきました。その一つが、水痘帯状疱疹ウイルスによる感染症との合併であり、新型コロナウイルス感染症の感染や新型コロナウイルスワクチンと関連している可能性が指摘されています。

例えば、ブラジルでは、2017 年から 2019 年の 3 月から 8 月と比較して、2020年の同時期に帯状疱疹と診断された数が35.4%増加していたことが報告されています。また、アメリカの調査では、50歳以上の成人において新型コロナウイルス感染症 と診断された人は、それではない人よりも帯状疱疹の発症リスクが 15% 高かったことが報告されています。

原因はまだ十分に明らかにされていないものの、新型コロナウイルス感染症による細胞性免疫の低下が水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化の原因の1つであることが指摘されているのです。

少し前のことにはなりますが、印象深い症例があったので共有したいと思います。「右肩のあたりに水ぶくれみたいなものができたことに気がついたけれど、痛くなかったから様子を見ていたの。そしたら、昨日の夜の急に我慢できないくらい痛くなって……」70代の女性は、診察室に入るなりこう言いました。昨晩、あまりの痛みに我慢することができず、救急外来をしている病院に片っ端から電話をかけ続けたものも、皮膚科の医師が当直していないという理由で受診を断られ、結局受診することができなかったといいます。

この女性は、腰部脊柱管狭窄症に対して3年前からプレガバリン(商品名リリカ)を内服していました。脊柱管狭窄症とは、脊柱管が狭くなることにより、神経の圧迫や血行の阻害を引き起こし、痛み、痺れ、間欠性跛行を生じる病気です。腰部脊柱管狭窄症の罹患率は、40代では1%、50代では4.8%、60代では5.5%、70代では10%と、年齢の上昇とともに高くなることが報告されています。整形外科領域において一般的な疾患の一つです。

脚の痛みや痺れといった症状や、脊柱管の狭窄により神経を圧迫している所見を認め、腰部脊柱管狭窄症と診断された場合、まずは薬物療法を開始します。一般的に、痛みに対して非スレロイド性消炎鎮痛薬が処方され、しびれや脱力感や間欠性跛行に対してプロスタグランジンE1製剤が処方されます。非スレロイド性消炎鎮痛薬を数種類試してみても痛みの軽減が認められない場合、神経疼痛緩和薬と呼ばれているプレガバリン(商品名リリカ)が使用されることがあります。

リリカとは、米国ファイザー社が開発した疼痛治療剤であり、過剰に興奮した神経から発信される痛みの信号を抑えることで痛みを和らげ、鎮痛効果を発揮する薬剤です。2004年7月、欧州において末梢性神経障害性疼痛に対して適応が認められ、12月には、米国において帯状疱疹後神経疼痛(帯状疱疹に罹患した時に引き起こされた神経の炎症により、帯状疱疹による皮膚症状が消えた後も持続している痛み)と糖尿病性抹消神経障害に伴う神経障害性疼痛(高血糖状態が続くことにより起こる手足のしびれや痛み)の適応で承認されました。

日本では、2010年6月に帯状疱疹後神経痛に対して発売が開始され、同年10月には末梢性神経障害性疼痛にも適応となっています。2012年6月には、繊維筋痛症に伴う疼痛に、2013年2月には神経障害性疼痛にまで適応が拡大されました。2016年度のリリカの国内売上高は862億円と、日本国内における医療品医薬品の売上高の第5位がリリカであり、疼痛治療剤の中では最も高い売上高を記録した薬剤なのです。

70代女性の話に戻ると、この女性は3年前から患っていた腰部脊柱管狭窄症の腰痛と膝の痛みに対してリリカを内服していました。ある日、右肩の周囲に皮疹が出現しましたが、痛みもなかったため様子を見ていたところ、痒みと痛みが次第に増強し、10日程たった日の夜、ついに痛みを我慢することができなくなり、翌日病院を受診した際に帯状疱疹であることが判明したのでした。

帯状疱疹とは、水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化が原因となる疾患です。疼痛や掻痒感を伴った帯状の水泡が治癒した後も、神経損傷により継続して痛みが生じることがあり、これを帯状疱疹後神経疼痛といいます。85歳以上の約50%が帯状疱疹に罹患するという報告もあり、一般に高齢の患者は帯状疱疹急性痛が重症になりやすいと言われています。

この女性の場合、帯状疱疹の皮疹を自覚していたものの痛みを伴っていませんでした。そのため、病院への受診が遅れてしまい、帯状疱疹の早期治療開始が遅れてしまいました。その背景として、疼痛治療薬であるプレガバリンの内服によって帯状疱疹の痛みがカバーされてしまっていたために、早期の診断が遅れてしまった可能性が考えられます。プレガバリンは、神経障害性疼痛に対して処方される比較的新しい鎮痛剤であり、帯状疱疹発症後の疼痛を緩和することが報告されています。今回の女性のように、腰部脊柱管狭窄症に対してプレガバリンを常用している患者さんにおいては、帯状疱疹の初期の痛みをわかりにくくしてしまうかもしれないのです。

帯状疱疹は、罹患してから72時間以内に治療を開始することが勧められています。帯状疱疹に対する早期治療の開始は、痛みの治療のみならず、皮疹の早期治癒の促進や、帯状疱疹急性痛の軽減、帯状疱疹後神経痛の発症率や重症度を低下させることが報告されているためです。

現時点で、帯状疱疹を予防するにはワクチン接種が最も有効です。グラクソ・スミスクラインが発売したシングリックスという帯状疱疹予防ワクチンの帯状疱疹予防効果は、50歳以上で97%, 70歳以上で90%であったことが報告されています。シングリックスの接種対象年齢は50歳以上であり、計2回の接種が必要であり、2回目は1回目から2カ月あけて接種(遅くとも6カ月後までに接種)する必要があります。

帯状疱疹は、内科外来でもよく見かける疾患の一つです。加齢などによる免疫力の低下のほかに、ストレスや疲労なども発症のきっかけのなることが指摘されています。リリカを初めとする鎮痛薬を長期間内服している患者さんはもちろん、コロナの流行に伴い、ワクチン接種が以前より身近になった今、多くの方に予防接種を是非とも検討していただきたいと思います。

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