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Vol.22257 COVID-19を契機に高率でME/CFSを発症する可能性が明らかに

医療ガバナンス学会 (2022年12月20日 06:00)


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NPO法人筋痛性脳脊髄炎の会
理事長 篠原三恵子

2022年12月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2022年9月13日付のChicago Tribuneに掲載された、“Task force members: The key to demystifying long COVID-19 could come from studying another chronic condition”と題する解説記事には、米国の筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)患者がパンデミック前の150万人から、500~900万人に増加している可能性が書かれています。著者は前国際ME/CFS学会副会長の米国デポール大学教授のレオナード・ジェイソンン先生らです。

【スタンフォード大学とシャリテ大学の論文】
米国のスタンフォード大学が2022年8月4日にmedRxivに発表した論文では、コロナ後遺症(世界的にLong COVIDと呼ばれることが多い)患者の約43%がME/CFSの診断基準を満たしたとしており、ドイツのシャリテ大学医学部免疫研究所が2022年8月30日にNature Communicationsに発表した論文では、感染6ヵ月後に継続して中等度・重度の疲労、運動不耐のある患者の45%がME/CFSの診断基準を満たしたとしています。日本においても同様の状況が起きている可能性があります。

WHOは各国の研究報告から、COVID-19感染者の1~2割で後遺症が起こる可能性を指摘しています。日本では2,500万人以上の感染が確認されており、後遺症に悩む方は250~500人にのぼる可能性があり、もしその4割がME/CFSを発症すれば、100~200万人の新たな患者が生まれる可能性を意味します。

【筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)】
ME/CFSは、中枢神経に影響を及ぼす多系統にわたる複雑な慢性疾患で、機能障害は全身に及び、免疫障害、自律神経系機能障害、認知機能障害、神経機能障害、睡眠障害等を引き起こし、患者のQOLを著しく低下させ、寝たきりに近い人も多い重篤な疾患です。1969年よりWHOの国際疾病分類において神経系疾患と分類(ICD-11 8E49)され、多くの患者がウイルス感染後に発症します。ME/CFSと自律神経受容体に対する自己抗体との関係が明らかになってきており、免疫系を標的にした治療薬が効果を示したとする論文も発表され、最近ではME/CFSは自己免疫疾患であるという説が主流になってきています。

【Long COVIDとME/CFS】
2022年5月18日付のNature Medicineに、米国イエール大学の岩崎明子教授(免疫学)らによる“Unexplained post-acute infection syndromes(未解明の急性感染症後症候群:PAISs)”と題するレビュー論文が発表されました。「ある一定の急性感染症は、少数の患者における未解明の慢性的障害と長らく関連付けられてきており、感染症因子に関係なく、ME/CFSと臨床的特徴がオーバーラップする個々のPAISsの比較的類似する症状のプロフィールは、共通の原因病理が関与している可能性を示唆する」としています。

Long COVIDとME/CFSの関連を調べる研究は進み、国内外の多くの専門家は、ME/CFSの診断基準を満たすLong COVIDと、パンデミック以前のME/CFSは同じ病態だと表明しています。ハーバード大学医学部教授のアンソニー・コマロフ先生、米国国立衛生研究所(NIH)のME/CFSの主任研究者であるアビンドラ・ナス先生、イエール大学免疫学部教授の岩崎明子先生、ドイツのシャリテ医科大学免疫学部教授のカーメン・シャイベンボーゲン先生、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所免疫研究部長の山村隆先生などです。

【Long COVIDとME/CFSの研究】
12月2日に感染症などの改正法案が可決され、参議院の附帯決議には、2021年の通常国会で衆参両議院において採択された当法人の2021年の請願項目の実施が盛り込まれました。

附帯決議15:
「第204国会において採択された『新型コロナウイルス感染症と筋痛性脳脊髄炎の研究に関する請願』に基づき、早急にCOVID-19後にME/CFSを発症する可能性を調べる実態調査、並びにCOVID-19とME/CFSに焦点を絞った研究を、神経免疫の専門家を中心に開始する体制整備を行うこと」

【ME/CFSの研究すらきちんと行われていない現状】
これに先立ち11月17日の参議院厚生労働委員会において、2021年に全会派一致で採択されたCOVID-19とME/CFSの研究について質問を受けた厚生労働省の健康局長は、COVID-19とME/CFSに焦点を絞った研究は行われていないことを認めた上で、「それぞれ(ME/CFSとLong COVID)の疾患概念も確立していない中で、そのような研究は進めることはできませんが、今後もそれぞれの病態に関する研究をしっかり実施していくことにしております」と答弁しました。

現在、ME/CFSの研究班はAMEDには一つもなく、厚労科研費の研究班(年間600万円)が一つあるのみです。しかも研究班班長は神経内科医ではありますが、ME/CFSとは全く専門が違い、脳卒中や認知症などです。その上に、2015年にME/CFSの研究・診療を開始され、すでに3つの論文を発表した研究者は研究班に入っていません。これでは、厚労省が言うようにしっかり研究が行われているはずはありません。

カナダの診断基準と呼ばれる診断基準が世界的に最も信頼されており、診療や研究に使用され、Long COVIDとME/CFS関連の論文はすでに非常に多く発表されています。国立精神・神経医療研究センター(NCNP)では、その上に脳血流や自己抗体、免疫の検査等をして、すでに100名以上がCOVID-19関連のME/CFSと診断されています。ですから、「ME/CFSの疾病概念が確立されないと、Long COVIDとME/CFSの研究はできない」ということはありません。

【小冊子{Long COVIDとME/CFS}】
COVID-19を契機に高率でME/CFSを発症する可能性や、国内外でLong COVIDとME/CFSの研究がどれほど進んでいるのかを示すために、当法人では、Long COVIDとME/CFS関連の情報を集め、2022年10月に小冊子「Long COVIDとME/CFS」を発行しました。HPで無料公開( ttps://bit.ly/3dXyvag )しておりますので、是非、ご覧ください。お読みいただければ、日本の状況がいかに遅れているかをご理解いただけます。脳神経内科、総合診療科、コロナ後遺症外来、厚生労働省の政務三役や担当課、厚労省のCOVID-19罹患後症状の診療の手引きの編集委員、「COVID-19神経ハンドブック~急性期、後遺症からワクチン副反応まで~」(中外医学社発行)の執筆者、難病相談支援センターなどの1,000名以上の方に送付しました。

【患者を見殺しにしないで研究を開始して下さい】
イエール大学の岩崎明子教授は、2022年8月8日付のWEBマガジン“Knowable Magazine”の中で、「たとえ今日、ウイルスの蔓延が止まったとしても、何千万人という人がすでにLong COVID に苦しんでおり、Long COVID のパンデミックが同時進行しているのに、急性期や重症のCOVID-19に比べほとんど注目されていません」と述べています。ME/CFSは2014年度の厚生労働省の実態調査で、3割の患者が寝たきりに近いことが明らかになっている深刻な疾患です。改正感染症法の附帯決議の重みに鑑み、国は一日も早く研究が開始できるよう体制整備をすることを求めます。

当法人では、Long COVIDとME/CFSの研究費を求めるショート動画を制作しましたので、ご覧下さい。。https://www.youtube.com/watch?v=bz_fR-Bli3Q

 

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