医療ガバナンス学会 (2023年3月7日 06:00)
この原稿は中村祐輔の「これでいいのか日本の医療」(2023年2月2日配信)からの転載です。
https://yusukenakamura.hatenablog.com/entry/2023/02/02/222249
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
理事長 中村祐輔
2023年3月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
Chen, Chien-Jen 陳建仁 (sinica.edu.tw)
にあるように、台湾大学を卒業した後、疫学研究に携わり、ゲノム疫学研究をしておられた。
台湾の新内閣の景気対策が最優先だそうだが、トップに医学研究者を据えたところが斬新だ。といっても、台湾のコロナ対策でのオードリー・タン氏の活躍に日本の科学・デジタルレベルの低さを知った人は少なくない。医療は、すべての面において科学が重要だ。この3年間、如何に日本の政策に科学が欠如してきたかをコロナ感染症対策と通して、われわれは歴史の証人として眺めてきた。
フランシス・コリンズ博士は小児科医で・ゲノム研究者である。彼は3人の大統領(オバマ・トランプ・バイデン)の元で、米国NIHの所長を務めて、生命科学・医学研究をけん引した。バイデン大統領が閣僚級の科学技術顧問に指名したエリック・ランダ―博士もゲノム研究者だ(すぐに辞めてしまったが)。ゲノム・デジタル・AIがキーワードとなって医療革新が起こりつつあるのは常識だ。
起こりつつある変化は、連続的に起こっているように見えるが、変化の大きさは全く異なる次元で医療の非連続的な変化が起きているといっても過言ではない。DNAシークエンス技術はまさに非連続的な変化で、2009年前後の3-4年で大きく(速さも価格も)変化した。絶対にAIなどに負けることがないと考えられていた囲碁も将棋も一気にAIが進化してしまった。デジタルも中国にあっという間に負けてしまった。コロナ感染症流行がなければ、日本は今でも太平の眠りを貪っていたかもしれない。
この30年間停滞してきた日本の経済を立ち直らせ、再び日の丸の誇りを世界に示す鍵が、医療分野にある。ゲノム・AI/デジタルを融合すれば、日本が迎えている超高齢社会を迎え撃つことができる。無事に対応できれば、それが今後多くの国が迎えようとしている高齢化社会を乗り切る模範となる。戦後の日本は右肩上がりで成長してきたが、今の日本には明治維新のような国体を変えるような考えが必要だ。単に予算をつければ物事が動くと考えている単純な役人が取り仕切っているようでは、日本の再生はない。
電気自動車も中国企業が進出してきたという報道があった。電気自動車販売台数が世界で2位の企業だ。数年でテスラより上を行くかもしれない。電気自動車は高性能バッテリーと内部のデジタル情報が重要で、エンジンの性能を競う時代ではなくなった。自動車もかつての家電業界のような黒船に直面している。家電は世界の市場で負けて久しい。半導体も日本の企業が競争力を誇ってきたのは夢の夢となりつつある。他分野でも似たような危機意識を持っているようだが、10-20年後に医療がどのように変化するのかを予測し、その先を行くような投資が必要だ。
内閣府のAIホスピタルプロジェクトの責任者を務めて、医療現場のニーズを把握することの重要性を身をもって体験した。貧困な想像で商品を生み出しても、それが広がるはずもない。現場を知らない人が政策を策定する時代を終らせる国のリーダーが必要だ。