医療ガバナンス学会 (2023年6月28日 06:00)
介護福祉士・ライター
白崎朝子
2023年6月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
6月中旬、介護現場で利用者を必死に支える仲間からメールがきた。5月8日 、コロナウィルス感染症の分類が2類から5類になったが、現場で働く仲間たちからは、芳しい報告は一切ない。
5月8日から施設長がマスクを外し、職員にも「マスクは自己判断で」と言った大阪市の高齢者施設(SONPOケア運営)がある。その施設で働くAさんより、以下の質問メールが届いた。
「マスク着用も自己判断でと言われたとき『あり得ない!』と思いましたが…。さらに濃厚接触者の定義が変更になったので、同居家族が陽性になっても職員自身が無症状なら、出勤可能となりました。私は再び『あり得ない!』と思ったのですが、他の施設はどうですか?」
Aさんからの質問を全国の現場の仲間たちに投げたところ、東京のSONPOケアの高齢者施設長で働くBさんから、「家族がコロナに感染した場合について特に通達が無かったので施設長に聞いてみましたが、即答できないようでした」との報告を受けた。
また首都圏で死者もでるような苛酷なクラスターを経験した障害者支援施設の管理者Cさんは、「クラスターになるリスクがあるから、本当なら濃厚接触者には休んで欲しい。ですが2類と違い、『休んでください』と言える法的根拠がなくなり、その職員の有休を使ってもらうしかない。こちらからは休んでとは言えない状況です」と今後のクラスター対策に難色を示す。
6月下旬、すでに9波に突入したと言われているが、介護現場でクラスターを出さないようにするには、世間の感染対策が緩和された分、規制があったときよりも大変になった。Cさんの職場は高齢で基礎疾患がある利用者が多いため、5類になっても面会や外出については家族のみとし、外出は3時間以内と時間制限をもうけている。しかし子どものいない障害者が多く生活する施設のため、利用者が高齢化すると、親も亡くなり面会も外出もコロナ前から少なかった。面会も少なく、PCR検査も毎週欠かさずやっきたが、それでも現在、クラスターとなり格闘中だ。
家族が特別養護老人ホームに入所している友人は、「母に、これからはもう少しゆっくり会えるだろうかと期待していたところ、『介護現場の施設長が、マスク着用を止めた』と聞き驚きました。母は2020年3月、入所した直後、ロックダウン。その後も感染爆発の度に『面会中止』。いまは月に2回15分。会えるのは2人まで、事前予約が必要です。まだ確実な治療法もなく、根絶されたわけでもない。リスクの高い高齢者施設で、せめてもの予防対策のマスク着用を止めるのは、危険すぎます」と話す。
面会の制約も『致し方なし』と受け入れてきた家族としては、「マスク着用の有無を各施設の裁量に任せるとは、無責任な国の対応に呆れる。幸い5類移行後も、母の入所先の職員さんは、しっかりマスクを着用していました。もう少し頻繁に母と面会できる日を待ちわびています」。
2023年には介護職員22万人不足、2025年には32万人不足と言われてから、だいぶ経つ。だが国は介護職員の不足に対して、有効な対策をとらないまま、現場はコロナ禍で苦しみ、5類になってからも、私の知り合いの介護現場で次々にクラスターが発生している。だが報道はほとんどされない。
東京都は高齢・障害者施設等に対し、PCR検査の助成を6月いっぱい助成するとしていた。だが感染者が増加した6月下旬、「9波を受け助成を延長するかもしれない」とのCさんの期待も虚しく、助成は打ち切られた。いままでは症状が無くても、PCR検査で感染者を発見できた。しかし、これからは巷の「コロナはもう終わった」という風潮のなか、エッセンシャルワーカー・・・特に医療職より感染率の高い介護職の感染予防対策をより強化せざるを得ないだろう。
5月、クラスターが発生した高齢者施設で働く友人は、「N95マスクをつけ、完全防備で感染者対応をしました。まだまだ毎週検査をしなきゃダメです!」と憤る。
慢性的な人手不足のため、5類になってからは発熱しても検査をせず、解熱したらすぐに現場にでているホームヘルパーもいると聞く。以前ならインフルエンザですら、解熱しても10日間は自宅待機させられていたのだが…。
国の無責任な対応のなかで、一番死亡リスクが高いのは、高齢・障害者や重症化リスクのある慢性疾患などの人々だ。介護保険が年々改悪され「保険料払っても介護なし」といった状況を長年みてきた私は、新型コロナウィルスは、医療費や社会保障費のかかる人々を、手を下さずに抹殺できる「キラーウィルス」として、国が積極的に容認しているとしか思えないのだ。