医療ガバナンス学会 (2023年7月7日 06:00)
この原稿はWEB医療タイムスからの転載です。
北海道大学医学部
金田侑大
2023年7月07日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
「ゆうだいはもう、ずっと論文でも書いてなよ」
以前、お付き合いさせていただいていた子に、愛想をつかされた際に吐き捨てられたセリフだ。
私は元来、何にでものめり込むタイプだ。小学校では宿題の漢字プリント1枚をコピーして、1人で100枚提出するような子どもだった。
高校時代は数学とアニメがお友だちで、浪人生活も人より長く、3年やった。恋愛にもちゃんとのめり込み、痛い目にあって学んだ。
そんな私をずっと側で見てきてくれている家族には、論文を書くことは今の私の“趣味”と見えるらしい。
それもそのはず、2022年3月に初めて筆頭の論文を発表させていただいてから、昨年度は23本、本年度の4月・5月で10本の発表論文にかかわらせていただいている。
●論文で自身の診療行為が正しいかを確認
ただ、私は別に“趣味”とは感じていない。というのも、書いた原稿に対するフィードバックを下さり、知見を共有して下さる先生方が、日本だけでなく世界中にいるからだ。
おかげで私のメッセンジャーは24時間フル稼働で、添削された論文が常に手元にある状態となっている。そんな恵まれた環境で私は、“学ばせていただいている”というのが実感に近い。
医師にとって論文を書くことの意義は、自身の診療行為が正しいかを確認し、その知見を共有するという点にある。ガイドラインに書かれているからといって、その治療法がすべての患者にとっての最適解とは限らない。
ガイドラインの作成には、利益相反や権威バイアスなど、多くのノイズが入ってしまうことが避けられないからだ。自身で行っている治療が有効であるかを確かめることは、患者の健康に大きく貢献する。
●医学生が論文を書くことの意義
では、医学生が論文を書くことの意義は何か。私は、頭の整理だと思う。論文とひと言でいっても、レターやオピニオン、症例報告や原著論文などさまざまな種類があり、私が発表させていただいている論文の9割はレターかオピニオンだ。
これらには、患者からの同意書や倫理審査などが要求されない代わり、最新の話題や、これまで見過ごされてきた問題に、自分なりの視点を加えることで新規性を出すことが求められる。そのため、過去の文献を調べる中で頭の中を整理し、自分の頭で考えることが求められる。
そして、実はこの自分の頭で考える時間があるということが、医学生にとっての一番の価値なのではないかと私は最近思っている。医師になった後、日々の診療行為の中で、さまざまな出来事にアンテナを張ること自体が難しいと考えられるからだ。
模範解答がある問いに関しては、賢い人たちが何とかしてくれる。意味不明なことを意味不明に考えられること、そして、それにコメントをしてくれるチームがいること。これほど学びに溢れた時間は、今しかないんじゃないかと、私は思わずにはいられない。
将来は自分も徐々に、いわゆる臨床研究に偏っていくことは自然の流れかなと感じる。しかし、今の自分の学びが、めぐりめぐって患者の満足に貢献できるのであれば、そして、今はその下地を準備できているのであれば、私はそれが何よりも嬉しい。
数字やデータだけでなく、当事者の視点で、これからも論文を書き続けることを大切にしたい。
最後に私が論文を書くきっかけを下さった、尾崎章彦先生、谷本哲也先生、高橋謙造先生にお礼を述べさせてください。まだまだ未熟ですが、先生方の下で学ばせていただいている中で、相手を意識したアウトプットが、少しずつ、できるようになってきたかなと感じます。ありがとうございます。今後も変わらぬご指導のほど、よろしくお願いいたします。