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Vol.23138 国立大学医学部長会議のYouTube『医学部の地域枠制度について』は受験生をミスリードしているのではないか ―YouTube『医学部の地域枠制度について』と実態『地域枠入学制度と地域医療支援センターの実情に関する調査報告』の矛盾 ―

医療ガバナンス学会 (2023年8月2日 06:00)


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地域枠医師の親

2023年8月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私はVol.23112『未だに改善されない地域枠制度の実態』において、「地域枠についてのネガティブな情報は誤解があり、ライフイベントが制限されたり、希望しない地域へ行かされることは(本質では)ないのでキャリア形成についても安心してください。」と国立大学医学部長会議がYouTube『医学部の地域枠制度について』で発信していることに、疑問を呈した地域枠医師の親です。

実はこのYouTubeが配信される1年前に、全国医学部長病院長会議の報告書には、地域枠の専門医取得が困難であると回答した大学が42.6%もあり、そのため希望の研修が受けられない地域枠生が発生していることが明らかになっていたことを最近知りました。この『令和3年度 地域枠入学制度と地域医療支援センターの実情に関する調査報告』では、45都道府県に在住の地域枠医師1,123名と77の大学医学部へのアンケート調査(2022年2月から3月上旬実施)を基に、制度のネガティブな問題点が多く報告されていました。

◇77大学のアンケート回答から見える地域枠制度のネガティブ側面

地域枠の義務要件は概ね「初期研修と後期(専門)研修を県内で行うこと」「都道府県の指定する医療機関に勤務すること」とされています。
ところが、
「Q 5-3-1.地域枠制度により専門医取得が困難となっていると思いますか。」の設問に、
専門医取得が困難と答えた大学が42.6%もありました。
その理由として「勤務が義務付けられている病院群の多くで、専門医の取得ができない、あるいは更新のための診療ができない。」「指定医療機関内に卒業生が希望する診療科が含まれていない場合がある。」「専門医取得に必要な症例を集める事が困難であるから。また、十分に指導ができる指導医が不足している場合があるから。」などの個別回答がありました。県内で専門研修をすることを義務づけておきながら、県内で専門研修をさせることが困難と回答した大学が半数近くあることからは、そもそもの契約内容(義務要件)が無理筋で実現不可能のものと大学自ら認識していたことが伺えます。

「Q 5-3-2.専門医取得体制を改善する必要があるか。」の問いにおける【具体的な改善策】には、
「診療科(分野)によっては、必然的に義務履行完了が延期(後ろ倒し)となることの説明を徹底。」「上記のような診療科を選択した場合には、奨学金返済免除のための勤務と専門医取得のための勤務を両立することが困難になる可能性もあることを予め説明したほうが良いと考える。」との記述がありました。これらは、今まで高校生が出願をする時点で適切な説明をしてこなかったことを表すものと思われます。一方、これまでの不適切な説明で不利益を被っている現地域枠医師に対する対応には言及されていません。

「Q 7.義務履行に関する配置調整について問題点はありますか。」の問いに対して、
「義務履行とライフプランの両立が難しい場合がある。」「大学側が地域枠の卒業生のキャリアパスを構築できない。」「県内勤務と診療科の制限以外の強制力がない」「地域枠出身者が多くいる医局では、地域病院でのポストが不足し、義務年限の履行が遅れるケースが出始めた。」など、義務年限内に専門研修ができない大学や希望の診療科を用意できない大学があること、そのため診療科を制限する強制力を持つ大学があるなど大きな問題があることがわかります。

「Q 9.地域枠出身者が義務年限を終了した後も、地域に残ってもらうために実施・検討している特色ある取り組みや工夫」の問いには、
「全員大学医局への入局を原則としている」「義務年限修了後の県外の流出を最小限にするために、本学以外の大学への所属については想定していない。」などからは契約以上の縛りを課している大学があることがわかります。

「Q 3.地域枠学生について」の問いの中で、「義務履行のために実施している又は実施予定の具体的な対策や改善点はありますか」には、
「本人の自己都合による離脱のため、奨学金を返済して完了した。」と奨学金を返済すれば契約を解消する大学もあれば、「県と大学の担当者とで面談を行い、慰留に努める」「入学時、地域(出身県内)における医療に従事することを条件としていたが、入学時に具体的な年限等の規定がなく、確約書、誓約書を取っていなかったことから、学生の一部に他都道府県で医療に従事している地域枠出身者が存在する。しかし、本県では地域医療従事要件の離脱ではなく猶予期間と認識しており、継続的にコンタクトを取り、本県で地域医療に従事するよう要請している。この 他県で医療に従事する地域枠出身者への対応を強化するため、令和2年度から地域医療支援機構大学分室に新たに2名の医師(地域枠卒)を追加配置し・・・」と、あいまいな契約を結ばせて、後になって厳しく追いかける大学があることがわかります。また、「専門医制度マッチングでの対策を専門医機構に求める」等の声もありました。

◇地域枠医師1123名のアンケート回答から見える地域枠制度のネガティブ側面

地域枠医師への「Q20.あなたの進みたい診療科に各科専門医のキャリア形成プログラムがありますか?」に対する答えは、
はい837人 74.5%  いいえ67人 6.0% わからない210人 18.7% などでした。「志望科を変更せざるを得なかった」「選択時にはなかったが今はある」「あるが入れてもらえなかった」「ある.ただし,県内で特別の地域で4年間の勤務を指示され,その病院に希望する分野の専門医教育機関がない」の記述も見られ、やむなく進路変更を余儀なくされている地域枠医師が少なからずいることがわかります。

ちなみに、地域枠医師への「Q 2-3.選抜基準(について教えて下さい)」では「(選抜基準は)一般学生と同じ」との回答が287 人25.6%あり、入試の学力に差があるとは一概に言えないようです。
◇まとめ
全国医学部長病院長会議が令和4年の時点で「専門医取得のための研修が困難である大学や都道府県があり、そのためにライフイベントが制限されたり志望を変更せざるを得ない地域枠医師がいる」ことがわかる報告書を公表していますが、その構成員である42大学からなる国立大学医学部長会議は翌令和5年からYouTubeで「巷では本人の意思とは関係なしに地方の病院に行かされる、ライフイベントが制限されるなどネガティブな情報が流れていますが、これらは決して地域枠の本質ではありません。」と嘯いています。さらに染矢新潟大学医学部長は「大学や自治体によって運用上の違いが若干ありますが」と説明されていますが、上述のように義務年限内に専門研修ができる大学とできない大学、すべての基本領域の専門研修ができる大学とできない大学、奨学金を返済すれば契約を解除する大学としない大学があることは、とても若干の差とは言えず、高校生たちがミスリードされ続ける現状を危惧します。

アンケートは、大学側の現状と本音が見えるものでした。個別記述には、後出しで条件を変更しても構わないと考えているような大学、あいまいな条件を提示し後から締め付けることを公言している大学もありました。契約内容を契約後に変えることは詐欺行為です。そのような時には、大学は契約通り、奨学金を返済し契約解除する権利を地域枠医師に与えて頂きたいと思います。また、今後もゴールポストを動かす運用を続けるのならば、高校生に対する募集要項には初めから、『契約は途中で大学側が自由に変更できます。希望の科に進むことが出来ない可能性もあります。』などの不条理な現実をしっかりと明示した上で募集をかけて頂きたいと思います。

注釈:国立大学医学部長会議と全国医学部長病院長会議は同じ住所・ビルの別フロアに所在しており、42の国立大学は両者の会員大学として所属しています。全国医学部長病院長会議の『地域枠入学制度と地域医療支援センターの実情に関する調査報告』は令和3年度文部科学省大学における医療人養成の在り方に関する調査研究事業による 地域医療に従事する医師の確保・養成のための調査・研究報告書です。
資料:
・『令和3年度 地域枠入学制度と地域医療支援センターの実情に関する調査報告』
発行日 令和4年(2022)3月31日発行
発行者 一般社団法人 全国医学部長病院長会議(AJMC)
編集責任者 地域の医療及び医師養成の在り方に関する委員会 委員長 大屋 祐輔

・YouTube 『 医学部の地域枠制度について』
国立大学医学部長会議

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