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Vol.23187 テレビやSNSで見るあの「専門家」の発言は信用できるのか?

医療ガバナンス学会 (2023年10月24日 06:00)


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北海道大学医学部
金田侑大

2023年10月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

皆さんも一度は思ったことがあるのではないでしょうか。テレビやSNSで頻繁に見かける専門家や医師の発言を、そのまま信じて良いものなのか。特に、コロナ禍においては、最新の正確な情報を発信することが、私たちの安全や生活に直結していることがハイライトされました。そのような中で、どの専門家や医師の発言を信じるべきか、という疑問は、以前よりも一層深刻化しているように感じます。

もちろん、医療提供者や医療機関の最大の関心は患者の健康と幸福で(あるべきで)あり、「患者中心の医療」は、現代医療の中核をなす概念です。しかし、金銭あるいは非金銭的な利益相反により、時に患者本位でない治療が実施される可能性があります。

なかでも、「患者のお金や税金で自分の懐を痛めずに無限に処方を切ることができる」医師にとって、製薬企業との金銭関係は最大の利益相反です。実際に、製薬企業との金銭関係により、臨床研究、ガイドラインの推奨、処方や治療法が歪められることがわかっています。

医療の透明性が求められる今日、利益相関の中でもこのような金銭的関係が注目されつつあり、多くの国で、医師や医療機関と製薬会社との間の金銭的な関係を公開する取り組みが進められています。たとえば、アメリカでは「Open Payments Database」というシステムを通じて、医師や医療機関が製薬会社から受け取る金額が公開されています。日本では、個別の製薬企業が公開しているものの、その内容を1つ1つ調べることは容易ではありません。

そこで、探査報道メディア・Tansaと特定非営利活動法人の医療ガバナンス研究所は、製薬会社から医師個人に支払われた金銭を誰もが調べられるデータベースを作成しました。2016年度から公開を続けており、2020年度版を含め、これまでに5年度分が利用可能となっています。しかし、これらのデータベースの存在を知らない方も多く、また実際にどれだけの情報が公開されているのか、その内容がどのような意味を持つのか、理解することは容易ではありません。

様々な情報が錯綜するコロナ下で、「Yen for Docs Database」がどのようなニーズに応えられたのか。そして、私たちが受け取る情報にどのような背後の動機や利益が関与しているのか。

今回、このような疑問に答えるヒントを与える、”Characteristics of Top-Searched Individuals in Japan’s Yen for Docs Conflicts of Interest Database During the COVID-19 Pandemic”という論文を、Cureus誌から発表させていただきました。( https://www.researchgate.net/publication/374807887_Characteristics_of_Top-Searched_Individuals_in_Japan’s_Yen_for_Docs_Conflicts_of_Interest_Database_During_the_COVID-19_Pandemic )

この研究では、2021年8月27日から9月23日までの約1か月間で、Yen for Docs Databaseにおいて、最も検索された10人の個人を対象に分析が行われました。

その結果、調査期間1か月間の総検索回数は72,904回、そのうち最も検索された1人の検索回数は4,905回でした。検索回数の最も多かった10人がそう検索数の約3割を占め、全員が男性で、主に大学との所属や、コロナ禍の時代背景を反映した、感染症関連の専門家であることが判明しました。彼らが研究期間中までに発表したCOVID-19に関する論文の中央値は5本、h-index(研究者の業績を示す指標)の中央値は34でした。

そして、その方々が受け取っていた製薬マネーの2016-2019年までの総額の中央値は$154,930、日本円にすると200万円以上でした。さらに興味深いのは、検索回数トップ10に入っていた10人のうち、実に8人が、テレビやTwitterでアクティブな存在であったことです。

では、これらの情報から何が言えるのでしょうか。

まず、コロナ下でテレビやSNSでよく見かけるような専門家が、実際にYen for Docs Databaseでは検索されており、このデータベースは、彼らの金銭的関係を透明化するという役割を果たしていました。また、これらの専門家は学術的な業績も一概に優れていましたが、彼らが長年にわたって相当な金額の支払いを受け取っていたことは、注目すべきです。

例えば、2020年5月5日放送のゴゴスマ(TBS系列)という番組で、愛知医科大学の三鴨廣繁教授は「(アビガンは)早期に投与した方がよく効く。確かに副作用として肝障害とか生殖毒性というものはありますけど、『早期に投与できればきちんと直すことができる』というイメージが我々にはある。こういった薬が一般の先生が使えるようになるのは極めて朗報だと思う」という発言をしていますが、開発元の富士フイルム富山化学からは、2016-2019の4年間で2,116万1875円の謝金を受け取っています。

また、国際医療福祉大学の松本哲哉教授は、2021年8月12日放送の報道1930(TBS系列)という番組で「イベルメクチンはまだ国内で正式に承認は得られていない。治療薬としての扱いでコロナの感染症に使うことはできないが、イベルメクチンを使ってはいけないということではない」という発言をしていますが、発売元のMSDからは923万5922円の謝金(2016-2019年)を受け取っています。

もちろん、発言自体が問題というわけではありません。しかし、その発言が、製薬会社との金銭的関係に影響を受けている可能性は否定できないため、実際にYen For Docs Databaseにおいて検索してもらうことには、大きな意味があったと言えるでしょう。

以上のように、私たちが日常で目にする専門家や医師の背景や製薬企業との金銭的な関係を理解することで、その発言について、より客観的に受け止めることができると筆者は考えています。

健康情報を受け取る時にふと感じる、「この人が伝えている情報の背後には何があるのか?」という疑問。

そんな疑問に対する1つの答えを、「Yen for Docs Database」は提供してくれます。

【金田侑大 略歴】
北海道大学医学部医学科5年。今月は帯広の病院で小児科を実習させていただいております。名物の豚丼はおなかには貯まりますが、引き換えに財布がガリガリになってしまうので、大人しくすき屋に通うエブリデイです。

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