医療ガバナンス学会 (2023年12月5日 06:00)
Tansaリポーター
中川七海
2023年12月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
長崎支局から異動し、千葉支局に所属していた記者・石川陽一に対する責任追及を思いとどまってほしかったからだ。息子の勇斗(はやと)の事件を深く取材し報じてくれた石川と、所属先である共同通信への感謝を手紙に綴った。
ところがその矢先、さおりは手紙が黙殺されていたことを知る。
●「読みます」と言ったのに・・・
12月14日、さおりのもとに石川から連絡が入った。共同通信が石川の責任を追及するため、12月6日に審査委員会を設置したという。
さおりは驚いた。
12月3日、さおりは千葉支局長の正村宛てに、長崎名物のカステラを添えた手紙を送ったばかりだ。手紙には、石川の著書の内容が事実に基づいていることを記した。
12月5日には、正村からお礼の電話が鳴った。さおりは「遺族である私たちの気持ちをしたためています」と手紙の存在を念押しした。正村は「読みます」と答え、さおりはほっとしていた。
にもかかわらず、その翌日に、共同通信は審査委員会を立ち上げたのだ。さおりは思った。
「正村さんからの電話は、一体何だったのだろう。審査委員会を準備して石川さんへの追及を進めていたのなら、お礼の電話なんてしてこなきゃいいのに」
●大晦日に徹夜で書き上げた
石川から話を聞いたさおりは、共同通信に対して意見書を出すことを決めた。理由は二つある。
一つは、献身的に取材してくれた石川が大変な目に遭っていることへの申し訳なさだ。勇斗のようにいじめを受けて自殺する子どもが二度と出ないようにという自分たちの思いを、石川ほど汲んで取材にあたった記者はいない。
もう一つは、石川から聞いた審査委員会の設置理由だ。共同通信は次のように説明しているという。
「報道機関である共同通信配信記事や記者の資質に対する信用が損なわれた疑いがあります」
さおりは、石川の取材を受けた自分たち遺族が、嘘をついていると言われているように感じた。
ここで意見を述べないと一生後悔すると思った。
たださおりも夫の大助も、年明けまで予定が詰まっていた。共働きで仕事が立て込み、親戚との行事も控えている。自由に使える時間はほとんどない。
さおりが本格的に作業できたのは大晦日だった。
相手は共同通信という大組織であり、報道機関だ。小さなミスでも突いてくるかもしれない。一言一句、間違えてはならない。事実確認をしながら執筆するため、これまでのあらゆる資料を引っ張り出してきた。
ダイニングテーブルに資料が乗りきらず、床にも紙が散乱し、リビングは資料だらけになった。勇斗の事件を報じたニュース番組の録画も観返した。
正村に宛てた手紙は、黙殺された。「あの手紙で自分たちの気持ちが伝わらなかったのなら、もっともっと気持ちを伝えられるものを用意しなきゃいけない」。
さおりは一睡もせずに、朝を迎えた。気付けば年を越していた。
●遺族「誠に遺憾です」
「子どもをいじめで亡くした遺族」として、さおりと大助の連名で審査委員会に提出した意見書は9ページにわたる。まずは、意見書を出すことになった経緯を、千葉支局長の正村にすでに手紙を送ってあることを含めて書いた。
“私たちは、子どもをいじめにより亡くした遺族です。
日頃より、御社には私たち遺族の声を社会に届けて頂き、心より感謝申し上げます。
さて、このたび御社千葉支局の石川記者が執筆された書籍「いじめの聖域」に関し、御社で審査委員会が設置された旨を石川記者から伺いました。
既にご存じと思いますが、この書籍は私たちの事案が題材となった実話であり、内容は全て真実です。事実が書かれているこの書籍の内容が、御社の配信記事や記者の資質に関する信用が損なわれた疑いがあるとのことで、社内に調査委員会を設置した、との表明に大変驚愕しております。
御社は、書籍の内容に虚偽があると判断し調査委員会を設けたと、私たち遺族の目には映り、誠に遺憾です。御社が問題と考えている点につきまして、私たちは石川記者から取材を受けた当事者として、僭越とは存じますが審査委員会に意見を申し上げます。
尚、私たちは本年12月に、御社の千葉支局長宛てに書籍出版に対するお礼と、今日まで遺族に寄り添った取材をおこなってくださった感謝の思いなどをお手紙に認めて、お送りしました。その際には、長崎県内で私たちの事案がどのように報道されていたかなどを示す資料として、2020年11月当時の他社の紙面の写し等も添えております。今回の意見書では、お手紙と内容が重複する点も多いと存じますが、ご承知ください。“
ここからさおりは、共同通信と長崎新聞の主張の理不尽さについて事実を示しながら指摘していく。
=つづく
(敬称略)
※この記事の内容は、2023年6月12日時点のものです。
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