医療ガバナンス学会 (2024年1月5日 06:00)
この原稿はAERA dot.(2023年10月04日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/202882?page=1
内科医
山本佳奈
2024年1月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
実は、世界一の不妊治療大国である日本。国立社会保障・人口問題研究所調査(2021年)によると、日本では約 22%の夫婦が不妊治療の経験があると言います。
また、日本産婦人科学会の調査によると、2021年における体外受精の治療件数は、年間約49.8万件(※2)。13人から14 人に 1 人は体外受精で誕生しているため、小学校の30 人ほどの 1 クラスに 2人から3 人はいることになり、決して稀ではないのが現状と言えます。
●成功率60カ国中最下位の日本
しかし、不妊治療大国でありながら、日本における体外受精の成功率は、世界60ヵ国の中で最下位なのだといいます。不妊治療の先進国として知られているアメリカでは、年間約33万件(2020年、CDCのデータより/※3)の体外受精治療件数。そのうち、約 8 万 4000 人が誕生しているため、約 25%の割合で誕生していることになります。一方の日本(2021年)はというと、年間49.8万件(※4)の体外受精治療件数から約7.0万人が誕生していることから、約14%の割合で誕生していることになるというわけです。
その要因として考えられていることの1つが、不妊治療を開始する「年齢」です。卵子は、加齢とともに数も質も低下していきます。つまり、年齢が高くなればなるほど、良質な卵子の数も少なくなっていれば、妊娠する能力も低下してしまいます。その結果として、高齢になればなるほど不妊の傾向が強まると同時に、体外受精の成功率も徐々に低くなってしまうというわけなのです。
実際に、不妊治療を開始する平均年齢は、アメリカが約34歳であるのに対し、日本は約40歳というデータがあります。この年齢差は、日本における体外受精の成功率の低さに大きく影響している可能性があるというわけなのです。
要因の2つ目として、他の欧米諸国と比較すると、性や妊娠する能力(妊孕性)に対する教育が不十分であることが考えられています。妊孕性に対する理解や知識が不十分であるがゆえに、高齢でも妊娠できると誤認されているのではないかという指摘もあるといいます。
●今年で34歳になり思うこと
今年で34歳となった私。「いつか子どもが欲しい……」そう思っていたものの、これまでパートナーに恵まれなかったという現実に加え、「不妊治療が必要なカラダだったらどうしよう」という漠然とした不安、さらには「キャリアを優先しなければならない」「成功している女性は、高齢出産が当たり前」(※5)「不妊治療でも子どもは産める」という上司の教えから、子どもを持った将来について、意識的に考えないようにしてしまっていました。
幸いにも、アメリカ人のパートナーに出会うことができ、結果的に日本を離れたわけですが、すぐに子どものことを考えられるかと言えば、そう簡単にはいきません。もちろん、妊娠する能力(妊孕性)を考慮すると、今すぐにでも検討したほうがいいのでしょう。
しかしながら、アメリカでかかる高い生活費、アメリカでかかる養育費、将来的な経済面などを考慮すると、私自身の年齢面だけを優先するわけにはいかないのが現状です。さらに、不妊治療が必要だとしたら、加入している民間の医療保険のプランにもよりますが、高額な医療費が必要になってくる可能性があります。こればっかりは、実際にどんな治療が必要かにもよるので、未知数です。
今回の番組出演をきっかけに、日本やアメリカの不妊治療についての現状を知るだけでなく、年齢的な面で、自分自身の置かれている「リアル」を知ることにつながったと感じています。また、妊孕性について理解していたつもりでも、自分ごとに落とし込めていなかったことにも、気づくこともできました。
「意識して考えないようにしていた妊娠や出産、子育てについて、そろそろ真剣に自分自身と向き合っていこう」今はそう思っています。
【参照URL】
(※1)https://s.mxtv.jp/variety/kikitai/
(※2)https://www.yomiuri.co.jp/medical/20230830-OYT1T50180/