医療ガバナンス学会 (2024年2月2日 09:00)
この原稿はAERA dot.(2023年11月15日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/206423?page=1
内科医
山本佳奈
2024年2月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
なので、サマータイムが終わるということは、進めていた時計の針が後ろに戻される、つまり、時計を1時間戻すということになります。
サマータイムへの移行時は、1時間早まった時間に身体を合わせることが想像以上に難しく、朝は起きらず、夜は眠れずと、時間に身体を合わせるのにとても苦労しました。
そのため、サマータイムが終わり、時間が戻るタイミングでも、1時間という時間のずれに悩むのではないかと、不安で仕方ありませんでした。
幸いにも、サマータイムの終了では、開始時と違い、起きられなくなったり、眠れなくなったりすることはありませんでした。むしろ、今まで午前8時だった時間が、1時間戻されて、午前7時になるため、「まだあと1時間眠れる……」とちょっと得したような、そんな気持ちにさえなるほどでした。
●街中でヒヤッとすることも
しかし、サマータイムが終わるということが、私にとって初めての経験だからでしょうか。サマータイムのままの、1時間進んでしまっているアナログ時計を街中で見かける度に、ヒヤッとすることが続き、その度に、時間のズレを感じるという、慣れない不思議な感覚を味わう日々が続いています。
もう一つ感じるのは、太陽の出ている日中の時間が急に短くなったと感じることです。サマータイムの終了に伴い、日の入りが16時50分ごろと、1時間早まってしまったからです。
朝は今までより1時間長く眠れるようになりましたが、そのかわり、日没時間が1時間早まってしまうので、あっという間に1日が終わってしまうのです。
一日にして、日中の時間が急に短くなり、夜の時間が長くなるという経験をしたことがなかった私にとっては、これまた、慣れることのない不思議な感覚の一つでした。そのため、サマータイムほど身体に負担はなかったものの、寝る時間や起きる時間の定まらない日や、なんとなく倦怠感を感じる日々が、1週間ほど続いたのでした。
●長年激しく議論が続くサマータイム
実は、アメリカでは、毎年春にサマータイムに移行し、秋に標準時間に戻ることについて、激しい議論が長年続いています。これまで、多くの調査から、標準時間からサマータイムへの急激な移行は、心血管系疾患の増加、睡眠障害や気分障害、自動車事故のリスクの増加など、深刻な影響や重大なリスクをもたらすことが指摘されているからです。
米国睡眠医学会(※1)は、1年をサマータイムで過ごすことによる影響については、あまり研究されていないものの、サマータイムが人間の概日リズムに合っていないことにより、概日リズムのずれが生じる可能性があると指摘しています。
そして、このずれが、心血管疾患リスクやメタボリックシンドローム、その他の健康リスクの増加と関連する研究報告もあることから、サマータイムという季節的な時間の変化は廃止し、固定された全国的な通年標準時を採用すべきなのではないかと主張しているのです。
●睡眠や覚醒の質への影響も
実際に、イタリアのボローニャ大学のLorenso氏らが、サマータイムへの移行と、サマータイムからの移行時における、睡眠や覚醒のサイクルの質に及ぼす影響について検討した調査があります。その結果(※2)によると、サマータイムからの移行時と比較して、サマータイムへの移行後において、睡眠や覚醒サイクルの質のより強い悪化が示されたことから、ヒトの概日システムは、サマータイムへの移行(春の遷移)よりもサマータイムからの移行(秋の変化)に適応しやすいことを裏付けている、と筆者らは主張しているのです。
最後に、サマータイムへの移行とサマータイムの終了を初めて経験したことで、日々の生活の中で太陽を意識し、また、太陽の存在に感謝するようになった気がします。長い時は、20時過ぎごろまで明るかった生活から、17時前には日没し、暗くなってしまうというダイナミックな日照時間の変化は、日本では経験することがなかったことの一つです。
サマータイムへの移行までの冬の間は、日中の時間を大切にして過ごしたいと思います。
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