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Vol.24087 坪倉先生の放射線教室(8)「汚染水」と「処理水」の違い

医療ガバナンス学会 (2024年5月10日 09:00)


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この原稿は福島民友新聞『坪倉先生の放射線教室』からの転載です。
https://www.minyu-net.com/

福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授
坪倉正治

2024年5月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

東日本大震災後、2011年4月より福島県浜通りにて被災地支援。
現在、福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授を務める坪倉正治先生が放射線や処理水について正しく、分かりやすく解説します。

●国外の機関で計測し比較(2023年08月05日配信)

廃炉作業が進められている原発周囲に保管されているトリチウムを含む処理水の放出に関して先日、国際原子力機関(IAEA)から、その安全性を評価した報告書が出版されました。

処理水に含まれる放射性物質の計測については、日本国内では東京電力を含むいくつかの機関で行われていますが、本当にその方法が適切で、計測値が正しいのかを担保するために、IAEAではさらにいくつかの取り組みがなされています。

その一つが国外のさまざまな機関で同じように計測をしてもらい、国内の結果と比較することです。モナコとオーストリアのウィーンにあるIAEAの研究所に加え、米国、フランス、スイス、韓国にある第三者研究所も参加して計測が行われました。

その結果、〈1〉東電の行っている測定の精度と技術力が十分であること〈2〉計測している試料の採取が適切であること〈3〉さまざまな放射性物質に対する計測の方法が適切であること、そして、〈4〉IAEAの関係機関やその他の第三者機関からも、東電が計測している放射性物質以外の放射性物質を検出することはなかったこと―が確認されています。
●汚染水を浄化した処理水(2023年08月12日配信)

廃炉作業が進められている原発周囲に保管されているトリチウムを含む「処理水」について、国際原子力機関(IAEA)からの報告書を参照し、これまで説明をしてきました。その一方で、「汚染水」という言葉も聞かれると思います。

つい先日、この「汚染水」と「処理水」を混同して話されている方がおられたので、今さらですが、この二つの違いについて説明しておきたいと思います。

原発事故のため、放射性物質を含む燃料が溶けてその後固まり、燃料デブリとなりました。この燃料デブリを冷やすために使われた水が、さまざまな種類の放射性物質を含んだ「汚染水」となります。

加えて、雨水や地下水が事故で壊れた原発の建物の中に入り込み、「汚染水」と混ざり合うことで、新たな「汚染水」が発生します。山側から海側の原発方向に常時流れてくる地下水は、建物内には流れ込みますが、建物内から外に「汚染水」が流れ出さないようにする対策が取られています。

「処理水」とは、この「汚染水」を、複数の設備で浄化して、放射性物質の濃度を低くした上で、敷地内のタンクに保管している水のことです。セシウムやストロンチウムなど、トリチウム以外の多くの放射性物質全てを規制基準以下まで浄化したものになります。
●トリチウム計測処理必要(2023年08月19日配信)

廃炉作業が進められている原発周囲の敷地内タンクには、放射性の水素である「トリチウム」が保管されています。トリチウムは最も軽い元素である水素の仲間です。

トリチウムは放射性物質なので、放射線を出しますが、そのエネルギーは紙一枚で遮ることができるくらい小さいです。そのため、トリチウムによる身体への影響は、概して小さいことをお伝えしてきました。

その逆に、トリチウムが出す放射線のエネルギーが小さいことは、トリチウムを計測する際のハードルとなってしまっています。

簡単に説明すると、トリチウムから出る放射線のエネルギーが小さ過ぎるため、トリチウムが含まれているかもしれない物体から、トリチウムの放射線(ベータ線)が外に飛び出てこず、横に測定器を置いても分かりません。

実際には、水として存在しているトリチウムなら、まずは水に含まれているかもしれない、ほかの放射性物質や不純物を取り除くため、蒸留をします。さらに、その蒸留水にトリチウムからの放射線(ベータ線)が当たると光る薬品を加えて、一昼夜置いておき、その後その光り具合を計測するという順番になります。

このようにさまざまな処理を行わないと、トリチウムの計測ができません。これまでのセシウムのように、食品をミキサーにかけて入れ物に詰めて、数分計測するといった簡便な計測ができないのが実情です。
●生物体内で有機物と結合(2023年08月26日配信)

トリチウムから出る放射線のエネルギーは紙一枚で遮ることができるくらい小さいです。そのため、トリチウムによる身体への影響は、概して小さくなります。しかし、トリチウムが出す放射線のエネルギーが小さいことは、トリチウムを計測する際のハードルとなります。計測したいものの外に、放射線が簡単に出てこないからです。

トリチウムは水素の仲間なので、その多くが水として存在しています。生物の体内でも同様です。水として存在するトリチウムを計測するには、ほかの放射性物質や不純物を取り除くため、蒸留をします。さらに、その蒸留水に、トリチウムからの放射線(ベータ線)が当たると光る薬品を加えて、その後その光り具合を計測する、という工程が必要となります。

その一方、生物の体内で、トリチウムの一部は、水ではなく、有機物(タンパク質や脂肪、炭水化物など)と結合する形でも存在します。私たち生物は、炭素を中心に酸素や窒素、水素などでつくられる有機物でつくられています。その水素の一部がトリチウムに入れ替わった形で、生物の中に存在するのです。

そのようなトリチウムの計測はさらに難しくなります。一度それらの有機物を乾燥して、燃やして、二酸化炭素と水に変え、その水蒸気を冷やして集めて、そこに含まれるトリチウムを計測するという方法になります。

できるだけ早く計測できるような技術開発が行われていますが、少なくとも10分や20分で計測できるものではないのが現状です。

 

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