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Vol.24099 「息子が子宮頸がんワクチンを接種するの」女医が話しかけられ考えた日本の接種率の低さ

医療ガバナンス学会 (2024年5月23日 09:00)


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この原稿はAERA dot.(2024年2月21日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/214867?page=1

内科医
山本佳奈

2024年5月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

サンディエゴに住むようになり、はや1年が過ぎました。とあるスクールのクラスで出会った一人が、10年ほど前にフィリピンからやってきたという、5歳の女の子と9歳の男の子の母親でもある女性です。席がたまたま近かったこともあり、よく話すようになりました。

そんな彼女と話していた、ある日のことです。ひょんなことからワクチンの話になりました。「コロナのワクチンを接種したけれど、コロナになったわ」なんて、お互いのことを話していたら、「息子が11歳になったら、HPVワクチンを接種する予定なの」と、彼女の口から、私にとっては、嬉しくもあり思いがけない言葉が飛び出したのでした。

「ワクチン接種で感染を予防できると聞いたの。だから、息子に接種させたいと思っているわ。もちろん娘にもね」と彼女は続けました。

HPVワクチンとは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染予防に効果のあるワクチンです。100種類以上の型があるHPVの中でも、特にHPV16型と18型の2種類が、子宮頸がんの原因の約7割を占めていること、HPV感染の多くは免疫力によって排除される一方で、持続感染してしまうと前癌病変を経てがんになってしまうことから、日本では、このHPVワクチンは主に「子宮頸がんワクチン」と呼ばれています。

●HPVワクチンの有効性

2024年1月、Tim氏(※1)らによって報告されたHPVワクチンの有効性に関する最新の報告があります。

その報告では、英国スコットランドの1988年1月1日から1996年6月5日までに生まれた女性のデータを調べた調査によると、12歳か13歳のときに、2価のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンを接種した女性において、子宮頸がん(浸潤がん)の発生は、一切認められなかったというのです。

また21年11月には、英国の2価(※2) HPVワクチン予防接種プログラムの導入による結果がMilena氏らによって報告されており、それによると、英国の20歳から30歳未満の女性を対象とした、計1,370万件の追跡調査したデータ解析の結果、12~13歳の時にHPVワクチンを接種するのが最も有効で、接種した女性の子宮頸がんの発現率は非接種の女性に比べて87%低いと推定されたといいます。

こうしたHPVワクチンの有効性について、私自身も大学生の頃にHPVワクチンを接種した経験も添えながら、拙い英語ながらに伝えたところ、「私の考えは間違ってなかったわ。教えてくれてありがとう」と言ってもらえたのでした。

●女の子だけでなく男の子も

さて、どうして「私にとっては、嬉しくもあり思いがけない言葉」だったのか。それは、女の子だけでなく、男の子にも、HPVワクチンを接種させることを検討している女性が身近にいたことを知ることができたからです。

現在、日本では、小学校6年から高校1年相当の女子を対象にHPVワクチンの定期接種が行われていますが、アメリカ(※3) では11歳から12歳の女子だけでなく、男子も接種することが推奨されています。

そのことが、広く知れ渡っているのであろうことを実感することができ、女子だけでなく男子にもHPVワクチンの接種が大切だと考える私にとって、嬉しく感じられたのです。

思いがけなかったもう一つの理由は、ワクチンやワクチン接種というプライベートに関わる内容であったにも関わらず、彼女は気さくに話してくれたからです。アメリカに住むようになり、個人的な内容に関する質問は、より一層気をつけるようになっていた私にとって、彼女からワクチンについて話を共有してくれるなんて、思ってもいなかったことだったのです。

厚生労働省が報告している「HPVワクチンの海外での使用状況」によると、22年12月時点で120カ国以上において、公的なHPVワクチンの予防接種が実施されており、カナダ、イギリス、オーストラリアなど接種率が8割を超える国もあるといいます。

アメリカでも、すでに述べたように、公的なHPVワクチン接種が実施されている国の一つであり、11歳から12歳の小児にHPVワクチンの接種が推奨されています。CDCの22年の青少年における全国予防接種調査 によると、アメリカの13歳から17歳において、76.0%が1回以上のHPVワクチン接種を受けたというのですから、接種率が高い国の一つだと言えるでしょう。

一方、日本の現状 はというと、22年4月から定期接種の推奨が再開されることになったものの、10政令市に行ったサンプリング調査 によると22年4〜7月の接種実施率は約16%程度(第1回目の接種を対象)にとどまっていることが報告されています。
13年4月、HPV ワクチンの定期接種(小学校6年生から高校1年生相当の女子が該当)が日本で開始されたものの、その2カ月後には副反応の懸念から「積極的な接種勧奨」は中止。その影響が、いまだに尾を引いていると言えそうです。

日本でも、一人でも多くの男女がHPV ワクチン接種できるような理解や支援体制が、1日も早く広がることを願っています。
【参照URL】

※1  https://academic.oup.com/jnci/advance-article-bstract/doi/10.1093/jnci/djad263/7577291

※2  https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)02178-4/abstract

※3  https://www.cdc.gov/hpv/parents/vaccine-for-hpv.html

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