医療ガバナンス学会 (2024年6月6日 09:00)
この原稿は2024年4月24日に医療タイムスに掲載された文章を加筆修正したものです
公益財団法人ときわ会常磐病院
乳腺甲状腺センター長・臨床研修センター長
尾崎章彦
2024年6月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
■「持続性」を意識したセンター化
2024年4月1日、当院の乳腺甲状腺外科は「乳腺甲状腺センター」と名称を変え、筆者もセンター長を拝命しました。多くの方々のご支援に心から感謝するとともに、さらなる発展を通じて恩返しをしていきたいと決意を新たにしました。
とは言え実際のところ、診療はこれまでと全く同じ体制で実施しており、実務そのものは何も変わっていません。ただ、センター化をきっかけに強く意識するようになったのが、「持続性」です。
そもそも乳がんも甲状腺がんも非常に経過の長い病気です。乳がんでは初回治療から10年以上、甲状腺がんだと数十年経過した後の再発もあり得ます。
ですから数年というスパンではなく、10年、20年と診療を維持し、患者さんの生活を守っていく必要があります。
■若手医師をいかに巻き込むか
また、自分自身も39歳となり、キャリアの中盤に差し掛かっています。自分一人でなく多くの医師の協力を得ながら、若い世代も巻き込んで「持続性」ある診療体制を組み立てていく必要性を、強く感じていたところでした。
すでに2023年度から、乳腺甲状腺外科は常勤医師二人体制となり、非常勤医師によるサポート体制もより厚みを増しています。
今年新たに入職した初期研修医も、初期研修終了後も引き続き当院で、外科や乳腺外科のトレーニングを積むことを希望しています。
このタイミングで乳腺甲状腺センターとして新たなスタートを切ったことは、今後の診療体制を考える上で非常に良い節目になったと感じています。
■属人性をいかに排除するか
まず目指すべきは、「属人性の排除」です。つまり「私がいなければ成り立たない業務を極力減らしていくこと」です。
診療科の立ち上げ期には、やる気がある医療者がその周囲を巻き込みながら、前向きに忍耐強く取り組んでいくことが絶対的に重要です。
一方で、立ち上げのプロセス後半では、標準化、つまり業務を最適化する「仕組み作り」に重きを置いていく必要があります。
具体的には、筆者だけで回していた業務を、できるだけ他のスタッフに担当してもらえるよう、少しずつ委譲を進めています。
地域医療を維持していく上で、教育と経験は欠かせません。その重要性は、一般論としては患者さんも理解してくださるでしょう。
ただし外科の場合、非常に難しいのが手術の取り扱いです。当然、患者さんは自分の治療については、経験値の高い医療者に、可能な限り最高の治療をしてほしいと考えるものです。
現時点では、患者さんとよく話しながら、安全性を担保した上で、可能な範囲のみ他のスタッフにも任せるよう工夫しています。
■働き方に自由度を認め自己実現する
もう一つ、ドクターについては、できる限り「働き方の自由度」を認め、各人が「自己実現」を追求できるよう配慮しています。
例えば、昨年赴任し今年乳腺甲状腺外科部長に就任した権田憲司医師の場合は、月2回、以前の赴任地である沖縄県にも行っています。
琉球大学で、専門である遺伝診療のカンファレンスに出席するとともに、自らの事業として、沖縄県に古来伝わる植物を用いたお茶を製造しています。
地域医療は、えてして個々の医療者の自己犠牲と結びつけて語られます。医局制度が崩壊しつつあり、医師の労働力の自由化が進む現代では、そのようなロジックでは成り立ちません。
「持続性」を考えるならば、個々の医療者が大事にしていることにできる限り寄り添い、体制を整えていく必要があるでしょう。結果として、良いスパイラルが働くようになると考えています。
実際、私自身も、東京との二拠点生活、東京や福島の他の地域での勤務や研究、海外との共同研究など、いわき市での医療以外の人生・生活も「エンジョイ」しています。
そして、そのような活動があるからこそ、地域での活動に、前向きな気持ちで取り組めている側面もあると強く感じています。
乳腺甲状腺センター長として、この場を借りて、日頃お世話になっている方々に御礼申し上げるとともに、いわきの医療のさらなる発展に努めていく所存です。