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Vol.24128 坪倉先生の放射線教室(11)被ばく検査と被ばく量について

医療ガバナンス学会 (2024年7月4日 09:00)


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この原稿は福島民友新聞『坪倉先生の放射線教室』からの転載です。

https://www.minyu-net.com/

福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授
坪倉正治

2024年7月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

東日本大震災後、2011年4月より福島県浜通りにて被災地支援。
現在、福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授を務める坪倉正治先生が放射線や処理水について正しく、分かりやすく解説します。

●線量の「追加」調べる検査 (2023年11月04日配信)

前回は、「基準値」についておさらいしました。

そもそも基準値は、それを「下回っていれば安全」と「超えてしまうと危険」を分ける、境界値ではありません。十分に安全を見込んで作られている数字です。例えば、年間で追加被ばくが「1ミリシーベルト」という値は、がんを含む健康影響を懸念するレベルに比べて、十分に低いです。

今回は、私たちが行っているさまざまな「検査」は、私たちがこれまで日常的に受けていた放射線に、原発事故のためにどの程度、放射線量の「追加」があったのかを調べている。ということについて、おさらいをしておきましょう。

内部被ばくを調べるために、食品の検査やホールボディーの検査、土、処理水なども含めた水など、さまざまな物質の検査が行われてきました。外部被ばくであれば、空間線量や、個人線量計(ガラスバッジ)などの検査があったと思います。

これらは、私たちが「初めて」被ばくしたかどうかを調べる検査ではありません。元々、私たちは日常生活を送る上で、空気中に含まれる放射性ラドンを吸い、食物に含まれる放射性カリウムを食べることで内部被ばくを、宇宙および土壌から発せられる放射線によって外部被ばくをしています。そしてこの量は、場所によって異なり、一定ではありませんでした。

このように、さまざまな検査は、元々私たちが日常生活で受けていた被ばく分に加えて、原発事故でばらまかれてしまった放射性物質によって、どの程度被ばくが増えてしまっているかを調べています。
●10年間被ばく量、検査研究 (2023年11月11日配信)

前回は、検査の意味についておさらいしました。

放射線に関するさまざまな検査は、私たちが「初めて」被ばくしたかどうかを調べる検査ではありません。元々、私たちは自然に存在する放射線に囲まれて生活し、外部被ばくや内部被ばくを受けています。さまざまな検査は、その日常生活で受けていた被ばく分に加えて、原発事故でばらまかれてしまった放射性物質によって、どの程度被ばくが増えてしまっているかを調べているのでした。

加えて、このような検査は、今まで被ばくした量全てを計測できるものではありません。「今どうなのか」を知るための検査になります。空間の放射線量は今の、その場所の放射線の量を見ていますし、ホールボディーカウンターであれば、その検査した当日に体内に含まれる放射性物質がどの程度かを見ています。

そのため、例えばこの10年間で受けた放射線の量の合計はどうだったのかを、一つの検査で調べる方法はありません。歯のエナメル質や白血球の染色体を見ることで、これまで受けた放射線量の合計を調べる方法も研究されてはいますが、今回の原発事故に伴う放射線の量と比べて数千倍など桁違いに多い放射線量の時でないと結果を得ることは厳しそうです。

事故直後の被ばくはどうだったのかを知る方法は二つです。できるだけ早期に行われた検査を参照するか、環境中に計測された空間線量や放射性物質の量を用い、その当時のシミュレーションを行うかになります。
●年間で合計1ミリシーベルト以下に (2023年11月18日配信)

前回は、放射線に関するさまざまな検査が、今まで被ばくした量全てを計測できるものではなく、「今どうなのか」を知るための検査であることをおさらいしました。

今回は、セシウムやカリウム、ストロンチウム、トリチウムなど、さまざまな放射性物質がある中で、それぞれの影響をどう考えているかについておさらいします。

例えば、食品の基準値はセシウムで1キロ当たり100ベクレルと設定されています。この基準値は、ストロンチウムなど、他の放射性物質の影響を考えないということではありません。現在に存在している放射性物質のうち、われわれの身体に入ってしまうかもしれない放射性物質の圧倒的大部分はセシウムですが、他の放射性物質に関しては、セシウムに比べてどの程度の「割合」で存在するかが分かっています。

このセシウムの食品基準値は、その割合を用いて他の放射性物質の影響も計算し、セシウム以外の放射性物質をひっくるめても、年間で人体への影響が1ミリシーベルト以下になるように設定されています。

処理水に関しては、トリチウム以外のいくつかの放射性物質がごく微量に計測されたとして、その処理水をたとえ毎日飲むようなことがあったとしても、それらの全ての放射性物質による影響が年間で「合計で」1ミリシーベルト以下となるように管理されています。

このように、一つの放射性物質だけではなく、他の微量に含まれているかもしれない放射性物質も加味して、影響の合計が小さくなるように基準の設定や管理がなされているのです。
●半減期の長さ物質で違い (2023年11月25日配信)

前回は、食品などの基準値が、一つの放射性物質だけではなく、他の微量に含まれているかもしれない放射性物質も加味して、影響の「合計」が小さくなるように設定や管理がなされていることをおさらいしました。

今回は半減期について触れたいと思います。全ての物質は目に見えない小さな「陽子・中性子・電子」の粒がそれぞれ何個かずつ集まってできています。これらの個数のバランスが悪いとその物質は不安定になり、これを放射性物質と呼びました。放射性物質は、放射線を外に出しながら、徐々に安定な物質へと変わっていきます。

この過程で、放射性物質から放射線を出す能力が半分になるまでの時間のことを半減期というのでした。すると、半減期の短いものに比べて、長いものの方が身体に良くない。という表現は正しいでしょうか。半減期が長いと、より長時間、放射線をだらだらと浴び続けることなります。

答えは、半減期が長いか短いか、だけではどちらが身体に良くないかの判断はできません。結局のところ放射線の影響はその量の問題です。だらだらと長時間でも、時間当たりの被ばくが小さければ、トータルの影響は小さく、逆に短時間でも時間当たりの被ばくが大きければ、トータルの影響は大きくなります。放射性物質によって、それぞれの化学的な性質は異なり、身体のどの臓器にたまりやすいかも異なります。

ちなみに、セシウム137の半減期は約30年、トリチウムは約12年、私たちの身体にもともと含まれる放射性炭素と、放射性カリウムはそれぞれ、半減期5730年と約13億年です。

 

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