医療ガバナンス学会 (2024年8月6日 09:00)
この原稿は福島民友新聞『坪倉先生の放射線教室』からの転載です。
福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授
坪倉正治
2024年8月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
前回は、災害が起こった際に誰が避難指示を出すのかについて説明しました。避難指示は災害対策基本法という法律に基づいて、市町村長が発令するものです。都道府県知事や内閣総理大臣ではありません。その一方、広域になったり、原子力や放射線という高度に科学的な判断が必要になったりする原発事故では事情が異なりました。今回の原発事故当時は、原子力災害対策特別措置法に基づき、内閣総理大臣が指示を出していました。
今日は、避難指示による避難先についてお話しようと思います。
一般の災害の場合、避難は同じ市町村内で行われることがほとんどです。例えば、とある市町村の東側が洪水や台風で影響が出そうな場合、その地域に避難指示が出て、同じ市町村の西側の安全な場所に避難所が開設されるといった具合です。
避難指示は市町村長が発令するものなので、災害対策の多くも、対応が自身の市町村内で完結することを前提として考えられることが多いです。そのため市町村をまたいだ大規模な広域避難については、対応が難しくなる傾向があります。
わが国は非常に災害の多い国です。国土は南北に長く、地域によって天候や地理的状況が大きく異なります。そのため、地域ごとの起こり得る災害や状況判断が異なり、歴史的に避難指示は市町村に委ねられています。その一方、この状況は、避難先が市町村をまたぎ遠方になる場合や、いくつかの市町村を含む広い範囲で影響が出る場合の対策が立てづらい構造を招いてしまっているのです。
●広域避難、情報交換が重要 ( https://www.minyu-net.com/news/detail/2024020318885 )2024年2月3日配信
前回は、避難指示による避難先についてお話ししました。避難指示は市町村長が発令するものなので、災害対策の多くや、避難先は自身の市町村内で完結することを前提として考えられることが多いです。そのため、市町村をまたいだ大規模な広域の避難については、対応が難しくなる傾向があるのでした。
その一方、今回の原発事故の教訓を踏まえ、原子力災害の場合については、市町村や都道府県の境を超えた広域の避難先が前もって決められるようになりました。例えば、日本で最も原子力施設が密集している地域の一つである福井県であれば、その避難先は兵庫県と奈良県に、その近くの滋賀県であれば大阪府と和歌山県に、京都府であれば兵庫県と徳島県の各市町村にというように避難元と避難先の市町村がマッチングされています。
このマッチングは、コロナ禍が続いていることもあり、避難元と避難先の行政同士の交流や情報交換が十分に行われている所と、まだそうではない所とさまざまではあります。しかし一般の自然災害に比べて、より広域の避難が必要な可能性のある原子力災害では、このような広域の避難対策が少しずつ進められています。
●老人ホームもマッチング ( https://www.minyu-net.com/news/detail/2024021018947 )2024年2月10日配信
避難指示は市町村長が発令するものなので、災害対策の多くや避難先は自身の市町村内で完結することが前提とされます。その一方、原子力災害の場合には、今回の原発事故の教訓を踏まえ、市町村や都道府県の境を越えた広域の避難先が前もって決められるようになりました。避難元と避難先の市町村がマッチングされているのです。
この市町村同士のマッチングに加え、避難が大変になり得る老人ホーム同士もマッチングが行われています。例えば、避難元の老人ホーム施設で入所されておられる方が50人であれば、避難先はA市の○○施設に15人、B市の○○施設に10人、C市の○○施設に25人といった具合です。災害時の協力要請の方法や入所者の方の移送、介護の方法、物資の確保などについて記された協定書が施設間同士で用いられている地域もあります。
この老人ホーム同士のマッチングも、新型コロナウイルス禍が続いていることもあり、都道府県が避難元と避難先の老人ホーム同士をとりあえずマッチングさせてはいるが、老人ホーム同士はお互いがマッチングされていること自体を知らないという所もあれば、交流や情報交換が行われている所とさまざまです。とはいえ、一般の自然災害に比べてより広域の避難が必要な可能性のある原子力災害では、このような広域の避難対策が少しずつ進められています。