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Vol.24151 過度な日焼け対策のデメリット 女医が適度に日を浴びる生活習慣に変えたワケ

医療ガバナンス学会 (2024年8月8日 09:00)


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この原稿はAERA dot.(2024年6月12日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/224973

内科医
山本佳奈

2024年8月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「ビタミンDのサプリメント、あなたも飲んだ方がいいかもしれないよ」

日本にいる親友と、久しぶりにテレビ電話をした時のことです。近況を話し合っていたら、サプリメントの話になり、こんな思いがけないことを言われたのです。

亜鉛欠乏による症状が再発し、亜鉛のサプリメントを日々飲んでいる私にとって、これ以上サプリメントを飲むのは勘弁してほしいと思っていた矢先のことだったので、「なんで、飲んだほうがいいの?」と思った私は、彼女に詳しいことを聞くことにしました。

どうやら、数カ月前、ビタミンDを含むいろんな項目を血液検査することになったという彼女。予想外にも、ビタミンDの値が基準値を大幅に下回っていることが判明し、ビタミンDのサプリメントを飲み始めたというではありませんか。

ビタミンDとは、カルシウムの吸収促進、骨の成長促進、血中カルシウム濃度を調節する重要な役割のある栄養素であり、私たちが健康な骨を維持するためには欠かせない、脂溶性のビタミンです。しかし、ビタミンDが不足してしまうと、骨は細く脆くなり、結果として、骨折のリスクが高くなり、骨粗鬆症を引き起こしてしまいます。

●しいたけ、鮭、卵などから

通常、ビタミンは私たちの体内では生成することができないため、食品などから摂取する必要があります。ビタミンDの場合、野菜や穀物、豆や芋類にはほとんど含まれておらず、魚類やきのこ類に多く含まれており、しいたけなどのきのこ類に含まれるビタミンD2(植物由来)と、鮭などの魚類や卵などに含まれるビタミンD3(動物由来)があります。

しかしながら、ビタミンDは食事による摂取だけではなく、紫外線(UV-B)に当たることによって、体内で合成することができるという特性があります。(皮膚において7-デヒドロコレステロールが紫外線(UV-B)によってビタミンD3に転換された後、肝臓で25ヒドロキシビタミンD 〔25(OH)D3〕 が生成される。その後、腎臓で活性型ビタミンDである1α-25ジヒドロキシビタミンD〔1,25 (OH) 2D3〕 に代謝され、小腸でのカルシウム(Ca)の吸収を高め、骨からの溶出を促進することで、血中のカルシウム濃度を調整する。)

特に魚やきのこ類の好き嫌いもなく、偏食もないという彼女は、ビタミンD欠乏に陥っていた理由として、長年、夏も冬も一年中、日焼け止めクリームを塗っていた結果、体内でビタミンDの合成量が減ってしまっていた可能性があるのだといいます。だから、彼女と同じように一年中、徹底した日焼け止め対策をしている私も、ビタミンDが体内で不足している可能性があるというのです。

●医学文献を検索してみると

「彼女の言う通りかもしれない……」そう思った私は、医学文献を検索してみることにしました。すると、日焼け止めの使用は皮膚がんの予防につながる一方で、ビタミン D 欠乏症のリスクを高める可能性があるという懸念(※1)が長年されており、公衆衛生における、主要な議論の一つ(※2)となっていることがわかりました。

しかしながら、毎日の日焼け止めの使用がビタミンD欠乏症につながるという証拠は、ほとんどない(※3)のが現状のようです。

例えば、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のバイクレ氏は、「日焼け止めはビタミン D 生成に関する利点を制限することなく、太陽光への露出による皮膚へのダメージに対する予防に有効である。しかし、文化的または医学的な理由で太陽光への露出を避けている人々は、ビタミン D 欠乏症の検査を受け、サプリメントで適切に治療する必要がある。」と医学論文(※4)の中で述べています。

キングス・カレッジ・ロンドンのヤング氏らも、「UVB はビタミン Dの合成に不可欠ですが、日焼けや皮膚がんの主な原因である。紫外線による悪影響を軽減するために日焼け止めの使用が推奨されている一方で、ビタミン D の状態が悪化する可能性があり、理論的には、日焼けを抑制する日焼け止めは体内でのビタミン D 合成も抑制するはずだ。
今までのところ、ビタミン D 合成に対する日焼け止めの阻害効果に関する研究では矛盾した結果が得られている理由の 1 つは、おそらく人々が通常、日焼け止めを最適ではない方法で使用していることが挙げられるだろう」と指摘した上で、「日焼け止めは、日焼けを防ぎながらビタミン D の合成を可能にするために使用できる。高 UVA-PF 日焼け止め剤は、低 UVA-PF 日焼け止め剤よりも、より多くの UVB 透過を可能にする結果、ビタミン D 合成を可能にする。」と医学論文(※5)の中で指摘しています。

医学論文を調べ、日焼け止めとビタミンDについての現状がわかった私は、「過度に日光を避け、日焼け止め対策を徹底する必要はないんだ。」と納得することができ、ゴミ捨てや犬の散歩など、ちょっとした時間の外出では、日焼け止めクリームは塗らず、ただ帽子を被り、直射日光を避けるだけにしました。そして、カーテンを開けて、貴重な光を部屋の中に入れることにしました。

過度に紫外線を恐れて日光を避ける生活をやめたこと、適度に日を浴びるようになったことで、なんだか気持ちが楽になったような気がします。ビタミンDやそれが欠乏していたことについて、共有してくれた彼女がいなかったら、私は過度な日焼け対策をこれからもずっと続けていたかもしれません。光を浴びることも大切なんだよと教えてくれた、彼女には感謝の気持ちでいっぱいです。

【参照URL】

※1 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25207381/

※2 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25207381/

※3 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30945275/

※4 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9002342/

※5 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6899952/

 

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