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Vol.90 アメリカメディアの伝え方

医療ガバナンス学会 (2011年3月27日 06:00)


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東京大学医学部神経内科
岩田 淳
2011年3月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


今回の震災についてアメリカのメディアは発生当初より非常にヒステリックな伝え方をしているものが多い.少なくとも日本でも視聴可能なpodcastで 大手ABC, CBS, NBCなどのニュースを見る限り津波が待ちを飲み込むシーンや原発が爆発するシーンを繰り返し報道しており,「関心が高い」という領域を通り越してもはや エンターテインメントとして扱っているのではないかと思われる節もある.
それらのホームページ中には津波で破壊された町をAdobe Flashを使って360度眺められるものを提供しているサイトもある.もちろん悲劇的な災害だという側面は伝わっており,アメリカ全土に同情の念が広 まっていることは事実であり,募金運動も大変ありがたくはあるのだが・・・

ただ,流れている映像を見る限り,独自の取材に基づく映像は少ない.特に原発関係ではすべてと言っていいほど日本で我々が見た映像がそのまま流されているし,テロップも日本語がそのままであることを考えると記事を「買っている」.
また,実際それぞれのサイトに載っている写真は津波も含めてほとんどすべて日本人が撮影したものの様だ.一部ABCのアンカーパーソンであるDiane Sawerが来日し,実況していたが,それも津波で破壊された町を訪れ,被災者を見舞うというのが流れただけであり,原発関連の話は恵比寿ガーデンプレー スで挿入映像とともに報じるという程度であった.

またさらによく見てみると大手ネットワークがセンセーショナルに報じる記事は”The associated Press and Reuters contributed to this report”というものが多く結局情報はReuterやAPという通信社から入手しているものと思われる.もちろん原発内部に潜入取材はできないため仕 方はないことであるとは思うが,もう少し客観性を担保した報道が期待される.
このようなこと外電としては特に珍しいことではないが,情報に間接性が生まれるので,正確さという点においては疑問が生じる.最も我が国の外電もほとんどこういうパターンなため,非難はできないが・・・

一方,実際に記者を送り込んでいる報道でもおかしなもの,不安をあおることが目的としか思えないものもある.最も憤りを持ったのは友人から送られてきた NY timesの3月16日の国際面一面に大人数の人々が列をなしている写真が出ていて,「福島第一原発から80マイル離れた山形市で町を離れるために列を作 る人々」と出ていた.
それだけ見たらそんなに離れていても逃げたくなるのかと思わせる写真である.これを書いたのはKeith BradsherというNY Timesの記者の様であるから,そういった記事もどの程度信用できるのかチェックしていかなければならない.

その中で,NPR (National Public Radio)の報道は当初から十分な抑制と情報,そして科学的分析に基づいているように思われる.NPRはその運営費の多くが個人や団体からの寄付で運営 されている公共性の高い報道機関であり,米国人の中でもリベラルであるという評価を受けている(そのため保守層からは評判が悪い).
彼らの記事を見ているとAFP通信などから記事を購入してはいるようだが,実際に記者を派遣した一次情報が最も多いように思われるし,それも気仙沼や仙台と言った被災地からの情報が長い間発信されている.

また,長年続いているScience Fridayという科学番組ではいち早く原発問題を取り上げ,専門家の分析を加えている.聴いていても楽観視するわけでもなく,ヒステリックに危険である というわけでもなく科学者として非常に納得いく議論が展開されていた.英語が苦にならない人は一度のぞいてみたらいかがだろうか.サイト,および podcastで情報を入手可能だ.

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