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Vol.25218 現場からの医療改革推進協議会に参加して

医療ガバナンス学会 (2025年11月17日 08:00)


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金沢大学医薬保健学域医学類
2年 安野 颯人

2025年11月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は昨年11月に金沢大学医学類(医学部)の学士編入試験に合格し、この4月から医学生生活を送っている。上昌広先生(医療ガバナンス研究所理事長)と初めてお会いしたのが、約3年前のことだ。以来、私は石川県金沢市在住だが、長期休みには必ず東京・高輪の研究所に上先生をお尋ねしてきた。正直なかなかの距離だが、もし上先生から「今日、来られる?」と連絡をいただけば、自分は迷わず新幹線に乗るだろう。私をここまで突き動かすものは何なのか、私は上先生の何に魅了されているのか。11月1・2日開催の「現場からの医療改革推進協議会シンポジウム」に参加し、答えが分かった気がしている。

■「人より早く出勤して掃除をしなさい」

セッション01で印象に残ったのは、平川知秀さん(株式会社en-gine 代表)の講演「『皿を洗い、ゴミを捨てる』ということ。」だ。今から20年以上前、平川さんは早稲田大学を卒業後に、研究所の前身である東京大学医科学研究所研究所の上先生の講座で研究補助員をされていた。そこでの教えが「一番下の人間はまず挨拶をし、ゴミを捨て、皿を洗え」だったという。私は、自分もこの教えを求めて研究所に通っているのだと確信した。

私は、金沢大学合格から入学までの約3か月間、ナビタスクリニック立川で修行の機会をいただいた。上先生のご指導は「人より早く出勤して掃除をしなさい」だけだった。教えに従い、私は毎朝、床磨きから1日をスタートさせた。なぜ床磨きをしたのかと言えば、いかにも“修行っぽい”からである。いかにも脳筋の発想だ。

上先生の周りには、上先生が「我々とは頭の作りが違う天才」と称する方もいる。だが、上先生の何気ないエピソードトークに登場する方々でさえ皆、私にはテレビで見るような雲の上の存在ばかりだ。上先生と自分とはそもそも頭のつくりが別物であることを、ひたすら痛感させられる。そんな上先生の教えが、「まずは、挨拶、掃除、ゴミ捨て」であったことは、衝撃だった。

だが、この修行の日々が私の医学生としての原点になっていることは間違いない。

■「信頼を得てからでないと科学は伝わらない」

セッション03では、坪倉正治先生(福島県立医科大学主任教授)から、東日本大震災後の福島での14年と能登半島地震に関するお話があった。特に印象に残っているのは、「信頼を得るために科学を利用しようとするが、信頼を得てからでないと科学は伝わらない」という言説だ。専門知識も現場経験も持たない医学生が、目の前の患者さんや地域の方々に信頼されるために何が必要か、考えさせられた。

医学部2年生は基礎医学の修学に努める時期であり、私はその真只中にある。先人たちが明らかにし科学的に正解とされる事柄を、ひたすら講義室で学び続ける。当然ながら、すぐ実社会に応用できるわけではない。一方で、科学の習熟度が高いからといって信頼を得られるわけではないならば、学生の私にも信頼関係構築のためにできることがあるのではないか。

要するに、医療に携わる上で医学以外にも学ばなくてはいけないことがあるのだろう。今の私には、それが何かまだわからない。「信頼を得るためにどうすればいいのか」、答えが見えていない時点で、本質的な信頼関係の構築には遠いのだ。

■ハンデこそが武器

そんなことを考えてしまうのは、私が焦っているからだ。同級生と学生生活を謳歌する傍ら、「学生のうちから何かやらなければならないのではないだろうか」という不安がいつもつきまとっている。10歳近く年齢の離れた同級生に囲まれて医学生生活を送っているせいだと思う。医師としてのスタートが遅くキャリアに影響が生じるのは致し方ない。それでも、同年代の医師たちとの差をどうにか埋められないか。

このことをシンポの打ち上げの席で、鈴木寛先生(元文部科学副大臣)に相談させていただいた。「自らの強みを見極め、それを磨き上げ、組み合わせることができれば、日本でオンリーワンになれる。世界で闘える」。続けて、「君はすでに自身の強みに気づけている。一般生はこれからそれを探すのだよ。君の10年は決して無駄ではない」と、すずかん先生は言ってくださった。

世の中には、私には到底成し遂げられないことがたくさんある。それでも、私にしかできないこと、私だからできることも必ずあるはずだと、すずかん先生は教えてくださった。私がこれまでハンデだと感じていたものこそが、私の武器なのだと、自信を持つことができた。

■「現場」で修行を積み重ね、「リアル」を求めたい

2日間にわたるシンポ(14のセッション)を通して、全ての方が共通して大切にしていたのが、「現場」と「リアル」だ。登壇者の方々は、「現場」でご自身の手を動かし、肌で感じた「リアル」をお話くださった。さらに壇の外でも、一医学生の私と向き合い真剣に相談に乗ってくださった。人と人とのつながりを自らの手で紡いでいく姿をリアルにみせていただいた。リアルの持つ圧倒的な強みを、まさに現場で経験させていただいた。

金沢に戻ってから、全セッションを動画で見返した。もちろんそのすべてが私にはこの上ない教材であったが、あの時、あの場所で耳を傾けていたのとは、何かが違う。やはり、リアルな話はリアルに聞かなくてはならないのだ。その言葉の節々に宿る命を、その熱量は、五感で感じなくてはならない。

まずは、リアルに人に会い、目の前の一人ひとりに真摯に向き合うことから始めよう−−。実はそれを実行に移すべく、シンポでお会いした方のご息女にいきなりご挨拶に伺った。金沢大学医学類に在籍中と知ったからだ。人と人とが出会い、つながる経験を、まずは自ら実践したかった。上先生のような、強固なネットワーク形成の第一歩を感じかった。実際のところ、見知らぬ大人に突撃されたご息女は大変戸惑っておられたが(笑)。

ネットで調べればすぐに知識は得られる、AIは無料で知恵を与えてくれる。なんでも言語化し、わかった気にさせてくれる。その場にいなくても、LIVE配信や録画で好きな時に何度も人の話を聞くこともできる。一見すると便利なこの世界で、それでも私は「現場」での修行を選びたい。ヒリヒリしたり、ワクワクしたりする「リアル」を求め続けたい。

■最後に。「安野くん、日本を変えよう」

少し時間を戻す。シンポの打ち上げは二次会、三次会と続き、午前2時を回った頃のこと。

「安野くん、日本を変えよう」

上先生にこう話しかけられ、私は即答することができなかった。これまで「日本」という単位で物事を考えたことがなく、日本を動かしていくイメージが全くできなかったからである。

「現場からの医療改革推進協議会シンポジウム」は今年、20回目を迎えた。偉大な先輩方が「日本を変える」べく、20年以上にわたり最前線で走り続けてこられたということである。

今の私には想像すらできないことを、20年以上もやり続けてこられた。その事実に、改めて深い敬意を抱かずにはいられない。

私もいつか日本を動かしたい。

節目の20周年に祝意を捧げ、「日本を変える」人材となる決意を添えて、本稿の結びとする。

 

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