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Vol.26034 無知の知——青森の大学生の上研究室インターン体験記

医療ガバナンス学会 (2026年2月26日 08:00)


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弘前大学4年
佐々木慎一朗

2026年2月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

元マッキンゼー日本支社長の大前研一は、こう語った。「人間が変わる方法は三つしかない。時間配分を変えること、住む場所を変えること、付き合う人を変えること」。
私はこの夏、医療ガバナンス研究所(以下、上研究室)のインターンでその三つを同時に変えた。青森から東京へ移り、毎日を研究室と街と飲み会に費やし、これまでの医学部生活では出会えなかった種類の人たちと言葉を交わした。

インターン初日の記憶は鮮明だ。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広先生に「高輪という地名の由来を言えるか」と問われ、私は黙った。続いて自分の出身地や出身大学について、「弘前大学の歴史は?」「津軽の成り立ちは?」どれも答えられなかった。上研究室では、そうした問いへのなんとなくが通用しない。固有名詞と具体を持って、簡潔に答える。それができなければ、その日の学びが生まれる。私の場合、午後はそのまま高輪の街へ出て、普段なら見過ごしていた標柱の解説を読み、資料館を巡ることになった。

最初は正直、なぜ地名の由来がインターンの学びなのかと思った。しかし街を歩きながら、その問いへの答えが見えてきた。高輪が東海道の出入口として江戸の表玄関を担っていたこと、坂が多い地形の理由、泉岳寺や東禅寺の由来。その文脈を持って街に立つと、目の前の景色が違って見えた。知識とは暗記ではなく、現実をより立体的に読むためのレンズだ。歴史を知ることで、人も、街も、言葉も、一段奥まで見えるようになる。

この感覚は、インターン期間中に訪れた福井でも体験していた。福井城址のそばに立ったとき、その本丸に県庁がそびえ立つ景色に、私は青森・弘前の面影を重ねた。弘前城の外濠側には市役所がある。城が政治の中心だった時代の名残が、現代の行政の中心としてそのまま残っている。二つの城下町の構造的な類似だ。そしてその類似は街並みだけに留まらない。弘前は津軽藩4万6千石の城下町として、福井は越前松平家32万石の城下町として、それぞれ江戸時代に栄えた。そして両地域は、北前船の寄港地として栄えた歴史を共有している。弘前藩の外港・鯵ヶ沢の白八幡宮には、大阪・加賀・越前など諸国の廻船問屋の名が刻まれており、福井からも人が行き来していた証が残る。

歴史を知るとは、こういうことだ。出来事に対する解像度が、根本から変わる。高輪の標柱を読んだとき、弘前と福井の城下町構造が重なったとき、私は同じ感覚を得た。歴史は過去の話ではなく、現在を立体的に見るためのレンズである。

この原理は、東北・青森という自分の原点を振り返るときにも働いた。東北の日本海側三県は全域が特別豪雪地帯に指定され、秋田・青森・山形の日照時間は全国最低水準に並ぶ。その厳しい自然環境が育んだ食や文化は誇るべき財産だが、同時に諦め、内向き、他責という気質も、知らぬ間に空気のように染み込んでいる。そのことを客観的に理解しているかどうかで、自分自身の言動を省みる精度がまるで変わる。

翻って、上研究室が提起する問いはこうだ。「どこで学ぶかではなく、誰のもとで学ぶか」。これは、私が福井で耳にした言葉と完全に重なる。「優れたリーダーのもとで修行せよ」と。システムではなく人。組織ではなくリーダー。この視点の転換が、医学生が陥りがちな罠「大きな病院で、しっかりしたシステムのもとで学べばいい」を打ち破る。

上研究室には、政治家、オリンピックメダリスト、大企業経営者、他分野の研究者が日常的に出入りする。彼らに共通しているのは、一切、肩書きで威圧しないことだ。物腰は柔らかく、どんな相手にも対等に向き合う。だからこそ、こちらの受け取り方が問われる。相手の出身地や背景を知っていれば、同じ言葉でも届き方やそこから生まれる疑問が変わる。歴史を学ぶことは、一流の言葉を一段深く解釈するための準備だった。

「この記者がどんな人か調べてご覧」研究室には毎朝、五紙の新聞が届く。同じ出来事を扱った記事でも、見出しも切り口も新聞社ごとに異なる。その差異を読むには、書き手がどんな時代を生き、どんな立場から記事を書いているかを想像する必要がある。書き手の出身地、育った環境、所属する組織の歴史、そうした文脈を重ねることで、記事の本質が見えてくる。毎朝の紙面はそのトレーニングの場だった。
インターン期間中、最も印象に残った原則を最後に記す。

上先生は飲み会を重んじる。理由はただ一つ、仲良くなれるから。私はその言葉を信じ、殆どの晩を飲み会に充てた。結果は明快だった。めちゃくちゃ仲良くなった。理屈よりも共に過ごした時間が、人と人を結ぶ。その単純な真理が、このインターンで得た最大の発見かもしれない。

場所を変え、人を変え、時間を変える。その先に初めて、見えてくるものがある。北前船の時代、人々は商機を求めて海を渡った。現代の若者が求めるのは、学びと実践の場だ。私にとってそれが上研究室だった。私はそのバトンを、次の誰かへ渡す番だと思っている。この体験記を読んで、一人でも多くの学生がこのチャンスを掴むことを願っている。

 

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