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Vol.193 「石巻圏の今後の救護活動の見通し」

医療ガバナンス学会 (2011年6月17日 15:00)


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長岡赤十字病院救急部
後期研修医  小林和紀
2011年6月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


この度は、東日本大震災で被災された皆様に心よりお見舞いを申し上げます。お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族の皆様には心からお悔やみを申し上げます。一日も早い復旧および復興を心よりお祈り申し上げます。

「石巻圏合同救護チーム」は、2011年2月12日に宮城県災害医療コーディネーターを県知事より委嘱された石井正医師(石巻赤十字病院)を General Managerとして、災害対策本部や関係各機関と連携を取りながら、石巻市、東松島市、女川町を合わせた石巻圏の災害医療の調整を行っています。私は5 月27日から6月1日まで、合同救護チーム本部のGMサポート医師を務めさせて頂きましたので、石巻圏の今後の救護活動の見通しについてお伝えしたいと思 います。

合同救護チーム本部を置いている石巻赤十字病院は、石巻中心街に程近い河口付近から5年前に北方の郊外に移転し、海岸から約4 kmの距離があり津波の被害を直接受けませんでした。発災後直ちに来院被災者の対応を開始し、翌日には支援日赤救護班による散発的な避難所巡回を開始しま した。避難所の数が多く、市も状況を把握していないため、我々は独自のアセスメントシートを用いてローラー作戦的に避難所を回って調べました。3日間で全 避難所のアセスメントを完了することができ、避難所の数は最大で313、避難所に入所している人数は最大で41990人でした。

当初は本部で個々の救護班の日々の活動まで統括していましたが、全国から集まる救護班も最大で72チームにまで達し、長期的で大規模な救護活動には地方自 治的な運営が必要と考えました。石巻圏を14ヶ所のエリアに分け、交替して継続支援して頂ける救護班をラインと呼び、各エリアに複数のラインを置いて、そ のうちの一つに幹事をお願いし、エリア内の運営の詳細をお任せしました。エリアやラインは活動状況に応じて、本部で調整して適宜変更しています。高次救急 病院に入院するほどではないが避難所の劣悪な環境では改善が見込めない方のために有床診療所に近い特殊な避難所を設置し、また介護の手を必要とする方のた めに臨時の介護施設のような福祉的避難所を設置し、被災者を集約して医療スタッフを効率的に投入しております。

石巻の復興は少しずつ進んでおり、発災後80日を経過した5月30日現在の避難所の数は170、避難所に入所している人数も約6500人まで減っていま す。個別の医療ニーズは確実に縮小しているため、個々の救護班が診療する人数は1チームあたり1日平均10名前後まで減っていますが、引き続き医療サポー トが必要な状態が続いています。石巻赤十字病院を受診する救急患者の人数は慢性期に入っても平時のレベルまで減少しておらず、救急患者はいまだに週末には 200名前後の受診があり、救急車も20台前後搬入の状態が続いています。予定手術も開始されていますが、予定入院に使用できるベッドは通常の 30~40%とのことで、まだまだ回復途上と言えます。早いところでは3月下旬には開業医の再開が始まり、現在では診療所の7割が再開しておりますが、旧 北上川より東の海岸沿いなど、復興が立ち遅れてしまった地域があります。
そして、もともと医療過疎だった地域にあってはさらに深刻な状況となっています。雄勝町では石巻市立雄勝病院が壊滅して医師が全員死亡、スタッフ3名のみ が生き延び、ただ一つの診療所も被災してしまいました。北上町では被災した橋浦診療所の医師が避難所内で診療を継続してくれていましたが4月28日に脳卒 中で倒れました。これらの地域は無医村となりましたが、医師確保のめどは立たず、今後の恒久的な医療の提供(保険診療へ移行)の見込みはありません。また 被災者の足がないため、巡回診療も継続せざるを得ない状況が続いています。

現在の救護活動ですが、どうやったら被災者を地元の医療へ返せるかという慢性期のコンセプトで行っています。5月下旬から6月上旬にかけてエリア・ライン を集約し、地元で対応可能なエリアからは撤収し、ライン数も25から14まで減らしています。過剰な医療救護は生活不活発病を誘発し、救護班への依存性を 生じ、被災者の自立を妨げます。また、救護班の突然の撤退は被災者から見捨てられたとの批判を招きます。震災前の医療レベル以上にならないように留意しつ つ、救護班は計画的に、かつ速やかに撤退する必要があります。7月にはライン数は14から6まで減らせると見込んでおり、救護活動は数ヶ所の定点救護所と 一部の巡回診療に集約する方向にあります。これからは撤収という最も対応の難しい時期に入りますが、被災者にとって最良の活動となることを目指して、今後 も努力していきたいと考えております。

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