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Vol.274 石巻市医師会によるAi実施の要望を蹴った警察の姿勢

医療ガバナンス学会 (2011年9月22日 06:00)


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前衆議院議員・自由民主党岡山県第四選挙区支部長
橋本 岳
2011年9月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


さる8月3日「異状死死因究明制度の確立を目指す議員連盟」の会合が議員会館で久しぶりに開かれた。下村博文会長、石井みどり事務局長のご配慮により、 冨岡勉前衆議院議員とともに私も出席し、死因究明制度に関する検討の現状について、警察庁、法務省、内閣府、文部科学省、そして厚生労働省の各府省庁から 説明を受けた。

質疑応答にて、私から2つの質問をした。1つは、厚生労働省のAi検討会の報告書も資料として提出してほしかったということ。2つめは、石巻市医師会が震 災の遺体確認のためにAiを行いたいと警察に要望したら、断られたのは何故か?ということ。厚労省からは、研究会の実施も含む紙資料一枚の提出しかなかっ たが、死因究明のために行った研究会の資料なのだから検討の俎上に乗せるべきであろう。ある。また石巻医師会の要望については、作家・海堂尊先生にご示唆 をいただき、改めて警察庁に実施を要望しつつ、理由を尋ねることにしたものだ。この件の詳細は、「海堂ニュース」をご覧いただきたい。また最近発売された 講談社ブルーバックスの『死因不明社会2 なぜAiが必要なのか』にも石巻市医師会の要望書等が参考資料に掲載されている。

[海堂ニュース]
・石巻市医師会の英断(2011.07.12)

http://author.tkj.jp/kaidou/2011/07/post-54.php

・石巻警察署のAi導入拒否と映像化不能作品(2011.08.08)

http://author.tkj.jp/kaidou/2011/08/post-55.php

さて、すると驚くなかれ。まずその場でAi検討会レポートが配布された(笑)。コピーまで用意してるんだったら最初から出せよ!と内心でツッコミを入れた のは私だけではあるまい。自省の検討会の報告書について、積極的にアピールするのならともかく、言われなければ出さないのであれば「隠した」と言われても 仕方がないのではないか。

また、警察庁からは、確認して後日返事するという対応を了としてその場は引き取ったが、後日いただいた返答は下記のようなものだった。短いので全文を引用する。公開の場での質問に対する対応なので、回答も公開して差し支えないだろう。


質疑概要
宮城県石巻市医師会から、石巻警察署に対して「震災で亡くなられた方の御遺体に対して身元確認のために、死後画像検査を実施したい」との申し入れを行ったところ、これを断られたようだが、その理由は如何。

回答
死後画像検査により、心臓ペースメーカーの有無等身元確認における一定の情報が得られる場合があることは承知しているが、
○警察では、身元確認の手段を原則として対照資料の入手が可能なDNA、歯型、指掌紋としていること
○死後画像検査のみでは身元特定は不可能であり、その効果と負担との均衡
○他の地域における死体取扱いとの斉一性
を考慮して、同申し入れを辞退したもの。
—-

まず、回答を頂けたことには感謝申し上げる。その上で、予算や機材も準備をした上で実際に確認作業にあたる石巻市医師会が要望したことに対する返答とし
ては、全く後ろ向きとしか言いようがない。Ai「のみ」で身元特定がほぼ不可能なのは至極当然であり、歯型だけを見ても名前が書いてあるわけでないのと同
様だ。生前の対照資料と遺体の様々な情報を総合して身元確認を行うのであり、理由として筋違いである。
対照資料は遺族や主治医の証言でも探せば入手できる。
そして石巻市医師会の「何としてもこの地域の身元確認を進めたい」という熱い想いを「他地域との斉一性」という言葉一つで退けるのはあまりにも無情である。
そもそもAiについて前向きに検討している筈の政府の対応として「斉一性」に欠けている。

かくして、警察庁検討会の報告でも、厚労省のAi検討会の報告でも、一見Aiを推進するように触れられているものの、現実には前進させようとする意欲が乏しいと言わざるを得ない実情が明らかになった。

最近、医療事故調査委員会のあり方に関して日本医師会が提言を発表し、またそれに対して井上清成弁護士が改善点の提言をされている(MRIC Vol.229,245, 251)。
井上弁護士の主張の中で、「死因分析」と「死因究明」の切り分けについて触れられているが、その医療側の最前線を確保するために、Aiの推進は重要な意味 を持つ。だからこそ警察庁は抵抗しているのかも知れないと思うのは、うがった見方過ぎるだろうか。警察庁が「犯罪見逃し防止」という錦の御旗を掲げて前進 している時に、診療関連死問題をあいまいなまま放置している医療側の対応は残念ながら心もとない。厚生労働省には積極的姿勢は見えない。

また医療関係者からも「Aiで全てがわかるわけじゃないから期待しない方がいい」といった発言を聞くようにもなった。しかし解剖でも全てが分かるわけでも ない。そもそも解剖率が現状で極めて低く、結局ほとんど「解剖できない」のが問題なのである。限られた資源の中でいかに死亡原因を医療的に分析する方法を 構築するかということが今直面している問題なのだ。生半可な議論は自らの首を絞める。

Aiは、安心して患者のための医療に取り組める環境を構築するためのキーワードだ。中央省庁の後ろ向きな姿勢に警鐘を鳴らしつつ、医療関係者各位のご賢察を仰ぎたい。

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