医療ガバナンス学会 (2012年9月27日 06:00)
そもそも私が外科医を意識し始めたのは、一本の国際電話からだった。当時海外に住んでいた兄が交通事故に遭い「危篤につき緊急手術を要する。すぐに来 い。」という内容だった。事故直後は全身が腫れあがりとても人間とは思えない程のダメージを負っていたが、手術のたびに元の姿に戻っていくのを間近に見 て、感謝と感動が自分の体を突き抜けていった。この気持ちを伝えたい、手術のできる医師になりたいと本気で考えるようになった。
高校時代は、医師になるのであれば今しかできないスポーツをしたいと思い、根っからアメリカンフットボールにのめり込んだ。文武両道のできなかった私は2 年間の浪人生活を経て、なんとか東京医科大学に入学する事となった。大学生活も5年目、ポリクリで外科系をまわると腫瘍に対する治療が非常に多かった。ま だまだ学生時分の非常に浅はかな考えで、癌は早期発見が出来ればよいが、運悪く発見が遅れると根治手術が出来ないと考えてしまった(本当に必要な事は手術 だけではないのだが)。しかし、心臓血管外科の疾患は発見が遅かったとしても自分の知識と技術を高めれば状態の悪い病気と戦えると思い、さらには常に拍動 し続けている心臓を見た時、ほかの臓器では感じ得なかった興味を無条件に感じ心臓血管外科を志望した。
当時は自分の大学医局に進む者がほとんどであったが、学内ではあまり心臓手術が盛んでなかった事もあり、はじめから外に出ようと考えていた。いろいろな病院見学をした結果、臨床・研究ともに勢いがあり関連病院も多い京都大学心臓血管外科に勤務させて頂くことになった。
当時京大心外を率いていた米田正始先生はまだ学生であった私に「もし国家試験に落ちても京都に来なさい。心臓も国試も教えてやるから、住む場所がなければ病院に住み込めばいい。」というような非常にフランクな先生だった。
京都で1年目の研修が終わろうという時、父の認知症が明らかになってきた際には米田先生の計らいで、東京に一番近い関連施設である岡村記念病院、静岡市立 静岡病院と勤務させて頂いた。非常に恵まれた環境で研修を行う事が出来たのだが、いよいよ父の認知症がピークに達してきた時、周囲に迷惑をかけるのを承知 のうえ、一大決心をして期間未定の休暇を頂き東京へ戻った。
認知症の施設などいくらでもあるだろうと思っていたが、いざ探すとなるとなかなかないのが現実で、先が見えないお金もなくなっていくという状況だった。生 活のために様々な科で仕事をさせて頂いたが、やはり「自分がやりたいのは心臓だ。」という思いがより一層強くなるブランクだった。
仕事に打ち込める環境が整い、早速復帰したい旨を米田先生に相談すると、私の無礼を咎めるどころか、「新葛飾病院に行ってみないか」という風に復帰を大変喜んで下さった。
それからというもの、吉田成彦先生(現イムス葛飾ハートセンター総院長)のもと、まっさらな状態から修業に集中することが出来た。吉田先生のまさに”達 人”といえる美しい手術を体得したい、同じ視野・考えを共有できるようになりたいと考え修業する日々が続いた。そんなある手術の後、珍しく院長室へ呼ばれ ると、吉田先生より明理会中央総合病院の心臓血管外科立ち上げを打診された。
現状の日本の心臓血管外科教育体制では、何年かかったら一人前の心臓外科医になれるのか、またその先に希望がもてるのかが確約されているわけではなく、い つ回ってくるかわからない出番に備えて絶えずモチベーションを維持していかなければいけない状況にある。そのような中で回ってきたチャンスに答えを出すの に時間はかからなかった。しかし心臓血管外科専門医の獲得、維持には開心術の症例数が加味されるため、全くゼロからの心臓血管外科立ち上げについてくる者 はおらず、たった一人での立ち上げという内容であった。
当時着任する際には、「来月からでも心臓の手術を始められますよ。」という事務の言葉に心躍らせて来てみたものだが、実は手術室には心臓手術が可能となる 清潔度を保てる部屋はなく、当然発注しておいた手術機器も何もない、現場と事務との間にある大きな認識の隔たりが原因であった。手術室の工事にも手術機器 納品にも時間とコストがかかるのは当たり前だが、このままでは年内の開心術スタートも怪しくなってしまう。事務方となんやかんやとしていてもらちが明かず に、とうとうグループの理事長である中村哲也先生に直談判に行ってからというもの、環境整備は比較的スムーズにいくようになった。また時期を同じくして病 棟管理の問題が立ちはだかっていた。循環器経験のある看護師は院内に2人しかおらず、他はみな小児科、形成外科、老年科出身の看護師ばかり。勉強会を増や せば拘束時間が長いとかですぐ退職に発展する、典型的な寄せ集め弱小チームであったが、それが今ではICU、病棟とそれぞれにユニットを立ち上げ本物の循 環器チームに成長しつつある。そうして心臓血管外科・循環器内科ともに若手が集結したチームであるが、やっと戦えるようになってきた。
しかし、いよいよ如何ともし難い切実な問題にぶつかっている。心臓血管外科医のマンパワー不足である。初年度69例であった開心術も、今年は上半期で60 例と増加しており、患者を選ばず、絶対に断らないポリシーのため、当然重症度も高齢者の割合も増えてきている。またCCUネットワークにも参加することが 認められ、私と後期研修医の心臓血管外科2人体制では絶対的に手が足りない。
そこで、全国の後期研修医の先生方で「最前線での臨床経験を欲している先生」、「明確なステップアップやマンツーマンでの指導を欲している先生」、さらに は「このチームで周囲をあっと言わせてやろうと野心のある先生」を募集している。心臓血管外科医に必須のトレーニングを一貫して指導している当院で患者に とって一番いい治療を一緒にとことん追求していこう。
≪見学・面接連絡先≫
明理会中央総合病院 心臓血管外科 部長 岩倉具宏(いわくらともひろ)
メール:tomohiro.iwakura@ims.gr.jp
〒114-0001東京都北区東十条3-2-11
東十条駅から徒歩3分
Tel:03-5902-1199