最新記事一覧

Vol.83 事故スクリーニングは中立的第三者機関へ依存せずに医師・病院診療所が自らで

医療ガバナンス学会 (2013年4月3日 06:00)


■ 関連タグ

この原稿は月刊集中4月号からの転載です

井上法律事務所
弁護士 井上 清成
2013年4月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1.医療事故のスクリーニングの権限
医療事故のスクリーニングとは、医療事故の選別のことである。ふるい分けと言ってもよい。業務上過失致死罪になってしまうような重過失の死亡事故、民事の 損害賠償が必要とされる過失の死亡事故、一見すると過誤とも見えるが合併症と評価される死亡事故、一見すると事故みたいだが実は単なる病死と評価されるも の、といった「ふるい分け」である。
「スクリーニング」とか「ふるい分け」とか呼ぶと堅苦しいが、実は、医療現場ではどこでも普通に自然に行われていることであろう。通常は、担当医たる医師 自身が行っている。時には、病院や診療所の組織として行っているかもしれない。現場の実情に応じて様々ではあろう。しかし、いずれにしても、現場の医師、 病院診療所自身がスクリーニング(ふるい分け)していると言ってよい。
つまり、医療事故のスクリーニングの権限は、場合により責任を負わされる現場の医師や病院診療所によって、まさに自身の責任において、行使されているのである。

2.中立的第三者機関への事故届けの意味するもの
ところで、医療事故情報の収集制度が、厚労省や公的団体の一部で熱心に議論され続けているらしい。特に、一部の法律家が新たな医療事故情報収集制度の創設 を推し進めようとしている模様である。中立的第三者機関に対して、病院診療所から医療事故情報を網羅的に届け出させて、その上で、その中立的第三者機関が 網羅的な情報をもとにスクリーニング(ふるい分け)しようとしているらしい。
網羅された届出情報に基づき、医療事故を分類(選別)し、どのような形で誰が医療事故調査を行うべきかも決定し、指揮・指示するというシステムである。た とえて言えば、大きな大きな「ふるい」を用意し、そこに、病死・合併症・医療過誤・業務上過失致死、さらに時には殺人の諸事例をも、病院診療所から網羅的 に投げ入れさせて、その直後に中立的第三者機関が「ふるい分け」してスクリーニングし、各種の医療事故調査手段を事例に応じて発動する、というものであろ う。
巨大な権限を有する巨大な組織が想定されている。そのようなものが、「中立的第三者機関」と呼ばれるものの実態らしい。つまり、今まで担当医や病院診療所が持っていたスクリーニング権限を、一気に中立的第三者機関に移管してしまう。
これこそが、中立的第三者機関への事故届けの意味するものにほかならない。

3.日本医療機能評価機構の事故情報収集制度との違い
似て非なるものに、日本医療機能評価機構の行っている事故情報収集制度がある。これは現在、既に行われていて、実績も挙がっていると評価してよい。
特定機能病院その他の一定の病院が、医療事故が生じたら、その情報を要約して報告するだけの制度である。要約情報を提供された日本医療機能評価機構は、情 報を分類・整理して、それを匿名化した形で公表し、各医療機関の医療安全活動の参考に供するだけにすぎない。日本医療機能評価機構は、スクリーニング(ふ るい分け)をしたり医療事故調査を自らしたり指揮・指示したりするものではない。
この点が、既に述べた中立的第三者機関への事故届けと、決定的に違っている。だからこそ、中立的第三者機関への事故届けと、日本医療機能評価機構の事故情報収集制度とを混同してはならない。

4.日本病院団体協議会の院内事故調中心主義との違い
日本病院団体協議会(日病協)は、この2月22日に、院内事故調査委員会を中心に据えた「診療に関連した予期しない死因究明制度の考え方」を正式決定し た。医療現場の実情を踏まえた賢い知恵に基づく、院内事故調中心主義である。しかし、やはり一部の法律家による抵抗が、まだあるらしい。
もちろん、医療事故のスクリーニング(ふるい分け)の権限は、院内事故調を中心に、担当医や病院診療所にある。日本医療機能評価機構の事故情報収集制度ともなじむ。しかし、中立的第三者機関への事故届けの構想とは、親和性がない。
中立的第三者機関構想においては、医療事故の調査体制として、第三者型・協働型・院内型の3つを提示している模様である。もちろん第三者型は、一見して明 白に、院内事故調と合わない。ただ、一見すると、協働型や院内型は必ずしも院内事故調と矛盾はしないようにも見えよう。しかし、その協働型も院内型も、ど の型を選択するかのスクリーニング権限が、担当医にも病院診療所にも院内事故調にもない。つまり結局は、第三者型と本質が同じなのである。
この点が、決定的に違っていると言えよう。だからこそ、中立的第三者機関構想の院内型(協働型も。)と、日病協の院内事故調とを混同してはならない。

5.スクリーニングは自らで
医療事故やその疑いは、辛く嫌なものである。そこを突いて来るクレーマーや弁護士も多い。しかし、その根本的な原因は、医療と親和性を持たない前近代的な 刑法と民法にこそ存する。ここにフタをして、医師法第21条に話をそらし、中立的第三者機関や厚労省に依存したとするならば、もっと辛く嫌な事態を招き入 れてしまう結果をもたらすだけであろう。そして結局は、スクリーニング権限を失って、行政処分が拡大されただけで、前近代的な刑法や民法は温存されたまま となってしまうしかない。
スクリーニング(ふるい分け)の権限は大切なものである。今まで通りに、または、今まで以上に、自ら適切に行使していくべきであろう。そして、諸々の状況 に対処するため、院内事故調(や日病協の提唱する院外事故調査〔検証〕委員会)を活用して行く。その中で次は、前近代的な刑法や民法の改正に向かうべきで あると思う。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ