医療ガバナンス学会 (2013年5月17日 06:00)
2. 厚労省は今は検討部会の議論をまとめてみただけ
たとえば、前出の東京新聞は、冒頭で「厚生労働省は医療事故の実態把握のため、国内すべての病院・診療所約十七万施設を対象に、診療行為に絡んで起きた予 期せぬ患者死亡事例の第三者機関への届け出と、院内調査を義務付ける方針を決めた。関係者が十二日、明らかにした。」としている。他の各紙もほとんど同じ 内容の記事であったし、全国各地の地方紙にも派手に掲載された。
ところが、大坪室長によると、厚労省は自ら立案を決めたことはなく、ただ検討部会の議論をまとめてみていただけとのことである。現時点においては、検討部会(正式名称は、「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」)の結論待ちという立場であった。
つまり、5月29日(水)午後1時に開催される次回の検討部会が、医療界としての正念場ということであろう。ここ数年にわたって議論されて来た医療事故調 問題も、いよいよクライマックスを迎えるらしい。医師の検討部会構成員のみならず、医療界全体がいよいよ大きな決断を迫られる。
3. 医療法改正は不要、医療法施行規則の改正だけで必要十分
末尾に、医療法改正が必要な法律所管事項と、医療法施行規則改正で足りる省令所管事項との対比一覧表を示す( http://expres.umin.jp/mric/mric.vol116.doc )。これは、日本医療法人協会で法的観点から検討し、5月15日の厚労省訪問時に提出した資料の一つである。
四病協や日病協の病院団体合意の範囲ならば、医療法の改正は要らない。ところが、厚労省取りまとめ案のように、第三者機関を創設したり、予期せぬ死亡届出義務化をしたりするならば、確かに医療法改正は必要である。
大坪室長は、医療の見識のみならず、法的見識も十分に有しており、この点を的確に理解していた。大坪室長の意図するところは、「これまでも病院の先生方が 十分にご努力されていることは理解しているが、患者や社会に対しては見えにくいところもある」「医療者の努力が見える形へ」(5月10日金曜日メディファ クスより)といったところにあるらしい。これも一つの識見だと評価しえよう。
しかしながら、もしも、刑法の業務上過失致死罪の見直しや、民法の責任制限(軽過失免責)への道筋に何ら言及せずに、ただ医療法改正をしてしまったとした ら、少なくとも近い将来には二度と再び、そのような議論は「決着済み」として蒸し返せなくなってしまうかも知れない。日本医療法人協会の提言は、今はまず 医療のプロセスの内のことだけを、再発防止・医療安全のために、自律的に医療者だけできちんと事故調査をしてしまおうというものである。だからこそ、医療 法施行規則の改正で足りてしまう。そして、その後5年くらいで見直して、医療法改正をして、刑法の業務上過失致死罪等を排除しようという構想である。すべ ての医療者と医療界には、これらの点を十分に考慮して、重大な政策決断を行って欲しいと思う。