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Vol.153 医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会「とりまとめ案」に対する反対意見

医療ガバナンス学会 (2013年6月21日 06:00)


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医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会「とりまとめ案」に対する反対意見

健保連 大阪中央病院 顧問
平岡 諦
2013年6月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


平成25年4月18日の第12回「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」において、厚生労働省の事務局が「医療事故に係る調査の仕組み 等に関する基本的なあり方と論点」(以下、「厚労省とりまとめ案」)を提出しました。これに対する問題点を挙げて反対意見を述べます。
結論から述べると、この案は「現場の医師」を無視し、「現場の医師」に対して不公平な案です。これでは委縮医療を招き、最終目標である「医療の質の向上」を阻害します。

(1)調査の目的について
「厚労省とりまとめ案」では「原因究明及び再発防止を図り、これにより医療の安全と医療の質の向上を図る」となっています。しかし「原因究明」のための 「医療事故の調査」と、「再発防止」のためのそれとは似て非なるものと考えます。「厚労省とりまとめ案」は、似て非なるものを同一機関で行おうとするとこ ろに無理があります。無理があるから、以下に述べるように、当事者である「現場の医師」を不公平に扱うことになっています。
最終目的となっている「医療の安全と医療の質の向上を図る」ことは、患者・遺族にとっても「現場の医師」にとっても共通の目的です。この目的を達成するた めには多くのことが必要ですが、医療事故に関しては「再発防止」が必要です。そして「再発防止」のためには「医療事故の調査」が必要となります。したがっ て、調査の目的は「再発防止を図り、これにより医療の安全と医療の質の向上を図る」とすべきです。「厚労省とりまとめ案」の中の「原因究明」という言葉が 不要であるということです。
「医療の安全と医療の質の向上を図る」ためには「原因究明」が必要な時もあります。しかし、「原因究明」のための「医療事故の調査」と「再発防止」のため のそれとは似て非なるものです。第三者機関といえども同一機関が行えるものではありません。「厚労省とりまとめ案」はこの点で矛盾しています。

(2)調査の対象について
「厚労省とりまとめ案」では「診療行為に関連した死亡事例」のうち、「当該事例の発生を予期しなかったものに限る」となっています。しかし、「予期しなかった」主体については記載されていません。上述の矛盾を隠すために記載できないのでしょう。
「予期しなかった」主体は、遺族なのでしょうか、あるいは「現場の医師」なのでしょうか。それとも「インフォームド・コンセントの説明内容に入っていない 死亡事例」ということなのでしょうか。「医療には思わぬ不幸な転機を取ることがあります」と説明文書に入れておけば良いのでしょうか。
すなわち、調査の対象が不明瞭です。不明瞭であれば、遺族あるいは現場の医師のどちらかにとって公平性を欠くことになり得ます。以下に述べるように、「現場の医師」にとって不公平となっています。

(3)調査の流れについて
「厚労省とりまとめ案」では「院内調査の結果や状況に納得が得られなかった場合など、遺族又は医療機関から調査の申請があったものについて、第三者機関が 調査を行う」となっています。ここでは「納得が得られない」主体が「遺族又は医療機関」であることが示されています。しかし、これでは「現場の医師」に とって不公平です。「納得が得られない」主体として「現場の医師」が抜けています。福島県立大野病院事件を思いだしてください。
これでは「現場の医師」を守ることができません。結果として委縮医療になります。委縮医療になることは「医療の質」を低下させることです。最終目的である「医療の質の向上を図る」と矛盾することになります。

(4)院内調査のあり方について
「厚労省とりまとめ案」では「院内調査の報告書は遺族に開示しなければならない」と提案されていますが、同じく、「現場の医師にも開示しなければならな い」ことを提案します。そうでなければ、現場の医師を守ることができず、委縮医療になります。福島県立大野病院事件をもう一度思い出してください。

(5)第三者機関のあり方について
「厚労省とりまとめ案」では「独立性・中立性・透明性・公正性・専門性を有する民間組織を設置する」となっていますが、具体的な記載はありません。提案が 複数記載されていますが、「現場の医師」に対して不公平です。「遺族又は医療機関からの求めに応じて行う医療事故に係る調査」を業務とすることが提案され ていますが、「現場の医師の求め」が含まれていません。これでは「現場の医師」に対して不公平です。また「第三者機関が実施した医療事故に係る調査報告書 は、遺族及び医療機関に交付する」ことが提案されていますが、同様に、「現場の医師」に対して不公平です。
公正性を担保するためには、それぞれの提案に「現場の医師」を追加する必要があります。そうしなければ委縮医療となり、医療の質の低下を来たします。

以上を纏めるとつぎに様になります。
「厚労省とりまとめ案」の矛盾は、「原因究明」のための「医療事故の調査」と「再発防止」のための「医療事故の調査」という、似て非なる二つの調査を同一 機関で行おうとする所にあります。この矛盾を隠すために「調査対象」を曖昧にし、その結果、「現場の医師」が無視され、不公平に扱われています。
医療の基本は患者と主治医(現場の医師)の関係です。医療の多くは医療機関で行われますが、医療機関と「現場の医師」とは区別して考える必要があります (医療機関が「現場の医師」を支援するようになっていない現状では特にこの点が重要です)。「厚労省とりまとめ案」では「現場の医師」が無視され、「現場 の医師」が不公平に扱われています。これでは委縮医療となり、患者・遺族および「現場の医師」がともに望む「医療の質の向上」を阻害することになります。 したがってこの「案」に反対します。

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