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Vol.169 「副反応」報告を生かせないワクチン行政

医療ガバナンス学会 (2013年7月7日 06:00)


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この文章は、ロハス・メディカル誌連載『どうなってるの!? 予防接種』の2013年7月号、8月号を合体させたものです。

2013年7月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


4月に定期接種化されたHPVワクチンに関して厚生労働省は6月14日、積極的勧奨の一時中止を決めました。
その1カ月ほど前から、ワクチン接種後の重篤な副反応報告が相次いでいることをマスコミが派手に報じ、そしてこの日に開かれた厚生科学審議会予防接種・ワ クチン分科会の副反応検討部会で「ワクチンとの因果関係を否定できない持続的な疼痛がワクチン接種後に特異的に見られたことから、同副反応の発生頻度等が より明らかになり、国民に適切な情報提供ができるまでの間、定期接種を積極的に勧奨すべきではないとされた」からだそうです。ちなみに、積極的勧奨を中止 する必要はないという委員もいて、採決結果は3対2でした。
厚労省は部会後直ちに、都道府県宛通知と3色刷2頁の説明用リーフレットを出しました。驚くほどの準備の良さです。専門家の判断という形式は取っていたものの、実質的には厚労省事務局の意思が働いたのでしょう。

この、定期接種化をやめないけれど、積極的勧奨もしないという玉虫色の決定に対して「国は無責任だ」という批判もあります。
しかし、ワクチンを含む医薬品には、常に想定外のリスクが隠れています。そのようなものの被害をできるだけ小さくするには、因果関係を問わずに集めた有害事象の出現頻度が事前の想定より有意に高いような場合、未知のリスクが隠れている可能性を考え、備えることが必要です。
今回の決定も、まだ何も分からないけれど慎重を期すということでしょう。だから玉虫色になったのは、理解できることです。
ただし、HPVワクチンに問題があると確定したかのようなマスコミ報道が続いたことに関しては、厚労省の責任を指摘しないわけにいきません。

というのも、厚労省がマスコミに対して出していた「副反応」の数や事例は、国際的・業界的に正しい言葉遣いをするならば「有害事象」のものだったからで す。業界的な常識で「副反応」と聞けば、因果関係があるものと解釈してしまいますが、実際にはワクチン接種との因果関係を問うていませんでした。
なぜ誤解を招く言葉遣いをしているのかについて、昨年11月14日の予防接種部会で、このようなやりとりがありました。お読みいただくと、厚労省が、一般 市民の言語読解能力を極めて低く見て「知らしむべからず、依らしむべし」を続けようとしていることが分かります。お墨付きを与える形になったG委員はメ ディア関係者です。

O委員 副反応報告を求めているつもりでいながら有害事象が含まれていたり、本来は有害事象であるのに副反応という言葉が独り歩きしたりということがしば しば見られているので、本来は有害事象を集め、その中の副反応について検討するというようなあり方が正しいのではないかと思います。
部会長 私も同じような意見もありましたが、厚労省と少し話し合いをしまして、一定の見解を得ました。
S結核感染症課長 有害事象というのは、因果関係あるもの、ないものすべて。副反応というのは、本来は、ある程度因果関係があると想定されるものというご 指摘と思いますけれど、有害事象という日本語から来るニュアンスはもの凄く悪いものというか、一般的な日本語の感覚としては有害事象と言った方が何となく 因果関係がより強いものが集まってくるようなイメージで、恐らく一般人は捉えられるのではないかと。
部会長 G委員、私を含めて治験とか色んなことを昔やった経験がある者としては、有害事象という言葉をよく使うのですけれども、一般の方々から見た時に、有害事象という言葉に関して違和感を感じられますか。
G委員 感じます。課長がおっしゃった通りで、有害事象の方が悪いことのように思います。
部会長 ということでございます。
O委員 しかし、例えばPMDAの治験の時でも、有害事象がこのぐらいで、その中から副反応と思われるのが、このくらいであるというような形になっています。むしろ言葉の定義をしっかりしていった方がいいのではないかと、私は思うのですけれども。
部会長 どうぞ。
G委員 副反応と言ってしまうと怖い、有害事象だともっと怖いみたいになるので、因果関係があるとか、何か修飾語をつけた方が一般の方には分かりやすいのではないかと思います。
(中略)
S委員 副反応と有害事象という言葉なのですけれども、海外の文献は、ほとんどアドバースイベントで統一されていて、その翻訳用語が有害事象となってい て、その副作用に相当する英語というのがなかなかない。インターナショナルなものとの整合性というのはある程度考えた方がいいのではないかと思います。
(中略)
O委員 今、たまたまコンピュータを見ているのですけれども、例えばWikipediaとか、楽天とか、そういうところにも有害事象という言葉の説明としてはきちんと出ているので、ここはむしろ明らかにしていった方がいいと思います。
部会長 K委員、どうぞ。
K委員 私も今までのご意見と同じで、国際的な整合性ということもありますし、ワクチンも医薬品なのですから、やはり医薬品との整合性というか、言葉の面でも合わせていっていただきたいと思います。
(中略)
I委員 有害事象、副反応という言葉遣いにつきましては、やはりK委員のご意見に賛成でありまして、治験その他のものと違う言葉遣いになりますと、報告する医者などの医療者の方が混乱しますので、そこはぜひ統一的にお願いしたいと思います。
(中略)
部会長 では、この言葉遣いは、ちょっと私が預からせていただきまして、また、厚生労働省の方とよくお話し合いをさせていただきたいと思います。そして、 また、各委員からのご意見、どういう形かわかりませんけれども、おうかがいをしてより正確に物事が伝わるような方向で行っていきたいと、それでよろしいで すか。

実は、任意接種段階で公費助成が行われたHPV、ヒブ、小児用肺炎球菌の3ワクチンに関しては、因果関係を問わない有害事象の全例報告が、定期接種ワクチ ンに先だって日本で初めて義務づけられました。その結果、報告数が多くなりました。今まで、有害事象の全体像を誰も知らないまま定期接種が行われてきたの で、大きな前進でした。
ただし、予防接種部会のやりとりで分かるように、国民を子ども扱いして知らせるべき前提を知らせていなかったため、数が集まったというだけで大騒ぎになってしまいました。
死亡例が出たからと、ヒブ・肺炎球菌ワクチンの接種が一時中止されたことをご記憶の方もいるでしょう。そして今回のHPVワクチンです。
どういう状態になったら接種を止めるのか、また再開するのか、それを誰がどう判断するのか決めず、行き当たりばったりで報告を集めた運用は稚拙と言わざるを得ません。

4月から施行された改正予防接種法では、医師や医療機関が「当該定期の予防接種等を受けたことによると疑われる症状として厚生労働省令で定められているもの」を厚労大臣へ報告しなければならないと定められました。
3ワクチンの「教訓」を生かしたのかもしれませんが、一読で分かる通り、義務づけの範囲が縮小されています。
報告の対象を省令で定めるということは、出てくるであろう症状の予想がついているということになります。予想外のリスクをどうやって速やかに検知するつもりでしょう? そんなデータを集めて一体どうするつもりでしょう?

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