医療ガバナンス学会 (2013年11月14日 06:00)
※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。
http://jbpress.ismedia.jp/
武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕
2013年11月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
●消費税増税の負担が医療機関を直撃
そもそも消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して広く公平に課税される税で、「消費者が負担し、事業者が納付」(国税庁の定義)するものです。
ですから、消費税そのものを企業が負担することはありません。企業は販売価格に消費税を上乗せした金額を消費者に請求し、その消費税を国に納付しているだけなのです。
ところが医療においては、受診者が窓口で支払った2000円に消費税は含まれていないのに、医療機関は仕入れ等に発生した消費税を納めなければなりません。消費税非課税であるがため、消費税を”利用者ではなく医療機関が負担して納付”するという状態になっています。
もちろん、消費税がかからないものは、家賃や学費(授業料)などのように他にもあります、でもこれらは、消費税増税の際に各自が自由に値段を決める(上げる)ことができます。
しかし、医療費は全国一律の統制価格で値段が決まっているため、医療機関が消費税分の値上げをすることが許されません。つまり、3%消費税が増え ると、医療そのものの価格(保険点数)を国が3%上昇させない限り、医療機関の負担する消費税が増えてしまうことになるのです。
●「診療報酬に上乗せ」ですでに補填済み?
医療費の非課税問題は、消費税分だけ医療費の価格を上げれば解決します。そのため厚生労働省はこれまで「この損税分は診療報酬に上乗せ済み」と説明しています。
確かに1989年の消費税3%導入時に診療報酬は0.76%上昇しました。また、97年に消費税が3%から5%に上昇した際に、診療報酬は0.77%上昇しています。
しかし問題は、消費税が5%上乗せされたのに対して、診療報酬が合計で1.53%しか値上げされていないことにあります。日本医師会の試算では医 療機関の実質消費税負担は2.2%であり、少なくとも0.67%分は損税が解消されていません。これで「消費税分は既に補填済み」とされるのは大いに無理 があります。
5%の増税の補填として「1.53%の報酬上昇で消費税増税分は解決済み」という理屈を一般に当てはめると一体どうなるのでしょうか。
この理屈で行くと、今回の3%消費税増税分の価格値上げは0.7%程度でよいということになります。今回の消費税増税に対して3%の価格上乗せを 表明している企業は便乗値上げであり、本来アップしてしなくてもよい2.3%分を便乗値上げしているということになってしまいます。
●医療費の”消費税ゼロ税率”実現を
医療が国民の生命や健康維持に直接関わるものである以上、医療費を消費税非課税にすること自体は政策的配慮として決して間違っているものではありません。
しかし、そのために医療機関に年間数百万から数千万円の損税を発生させているのです。この状況を見て見ぬ振りをして放置するのは大きな問題と言わざるをえません。
診療報酬を自由に設定することができない医療機関は、現状で平均利益率が4~5%程度と厳しい経営を余儀なくされています。
消費税がさらに3%増税される際に、また0.7%程度中途半端に診療報酬を上げて、「補填したので解決済み」ということにされる。この、とても抜本的とは言えない対策を、消費税増税の度にこれからもずっと続けるつもりなのでしょうか。
私も含めて医療界は、医療費の”消費税ゼロ税率”を求めています。「医療費が消費税非課税である以上、医療機関が支払う消費税も還付可能にしてほしい」という要望です。
この主張に対して「医療を特別扱いすると税制の根幹を揺るぎかねない」と指摘する声も聞かれます。しかし、「税制の不公平を直してほしい」という至極真っ当な要求だと思います。
トヨタ、ソニーなどの日本を代表する輸出企業は、輸出品に転嫁できない消費税を戻し税として還付されています。それなのに、医療機関はなぜ消費税の還付請求ができないのか、なぜ根本的な解決策を回避するのか、合理的な説明はおそらく不可能でしょう。