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Vol.69  そのまんまの南相馬市生活

医療ガバナンス学会 (2014年3月18日 06:00)


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南相馬市立総合病院神経内科
小鷹 昌明
2014年3月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


震災から3年、福島に来てからは2年間が終わろうとしている。慣れない土地に移り住み、ましてや原発被災地に居を構え、寝食を繰り返し、ここでの2年間は、確かに私にとっては特別な期間だったかもしれない。
赴任した初年度(震災からは2年目)は、できるだけ多くのことを、とにかく見て聞いて考えたいと思った。そして、僭越ながら「街の復興に少しでも役に立っている」という実感が欲しかった。
だから、『神経内科』という科を立ち上げ、在宅診療にも手を伸ばし、ニーズに合わせた講演やシンポジウムを積極的に繰り返した。神経難病患者のためのシス テム創りを目指した。さらに、仮設住宅等で暮らす被災高齢者のための医療・生活支援として、出張インフルエンザワクチン接種、健康講話、木工教室や料理教 室、ラジオ体操、ハイキング企画、エッセイ講座など、趣味を活かした活動を実践したり、協力したりしてきた。

そして、2年目(くどいようだけど、震災からは3年目)を迎えて感じたことは、被災者をサポートしている”地元支援者の疲弊”であった。
復興に向けてがんばる人たちが次々と現れてきたことは頼もしかった。結果、そういう行動力があって、突破力のある人のところへは人や資源が集まった。そし て、同時に頼られた。しかしそれは、徐々に人々の活性が”二極化”してきたということを意味していた。がんばっている人のところへは、ますます仕事や物や 人が増え、その一方で、そうでない人のところはどんどん減っていく。そして、皮肉なことにがんばっている人たちの活動ほど、苦労の割には採算が取れなく なってきた。
来た当初は、「オレたちもがんばろう!」みたいな気負ったことを、私も考えていたが、この頃から「地元の人たちが疲弊しないために何ができるか?」という考えにシフトした。被災者を支援している”支援者の支援”という視点で、街を見るようになった。
その結果、「認知症相談会」の相談員の協力だとか、学習塾を経営する塾長のための学習支援だとか、図書館内に設置されたカフェのお手伝いをする人員募集だとか、そういう活動がメインとなってきた。

以上のような流れは、これまでの中でも散々述べてきたことである。
そして、3年目を終えようとしている、今この時期に感じていることは、「結局、自分自身のための素直な行動」ということである。他県から来た福島に縁もゆ かりもない人間が、そのまんまこの街を愉しむことが、地元に人にとっても、支援をしている人にとっても勇気と希望とを生むことに気がついた。”与える”、 あるいは”援助する”行動ではなく、”受け取る”行動である。
それは、私の乗馬訓練によって得られた感覚であった。『相馬野馬追』に出陣するための練習は、すでに26鞍となった。ここへきてようやく、馬に負担をかけ ないような乗り方のコツが分かってきた。まだまだバランスを崩すこともあるし、不意な行動の対処に四苦八苦する場面も多々あるが、何とか馬に食らいつける ようになってきた。
私が、「この街に来て『野馬追』の迫力に感動しましたので、来年はぜひ出陣したい」とか、「馬がいるのにそれを習わない手はない。それが縁で、こうして皆 さんともお知り合いになれました」とか、そういうことが地元の人たちを元気づけるのである。この街のそのままを受け取る行為である。
そして、「先生、最初は全然ダメだったけど、最近姿勢良く乗れでるな。これなら大丈夫だべ。さて、いよいよだけんど『野馬追』の馬、どっから借りでぐっ か?」ということで、この街の人は悩みたいのであり、それに対して、「いやいや、まだまだそれ以前の問題で、とにかく上手に乗れるようにならないと。それ までもう少し、皆さんよろしくお願いします」という照れくさいことを言われたいのである。

その他、美味しい蕎麦屋の味を素直に楽しむとか、気に入ったカフェやバーのリピーターになるとか、図書館の無料レンタルDVDを借りまくるとか、仕事帰り にラジオ局に寄ってしまうとか、やることがないからついフラっとボランティア活動に行ってしまうとか、日曜日は川原の土手を走ってしまうとか、ソフトボー ルくらいしかやったことがないのに、誘われるまま野球チームに属してしまうとか、そういう極めて原始的な行動の気持ち良さを体感することが、この街では大 切なのである。つまり、南相馬市民にとって、一旦破壊されてしまった街であったとしても、そこを気に入ってもらえる人のいることが、何よりも尊いことなの である。
伝統的な『野馬追』の素晴らしさを理解してくれる人や、田舎は田舎なりに良いところがあるということを実感してもらえる移住者や、震災があったが故に注目 してくれる県外の人がいることを、強く望んでいるのである。だから、「この地で成長できる」、とまではいかないにしても、この地で愉快に楽しく過ごす、そ のこと自体が、すなわち街の復興の手応えなのである。

こうしたことに気づいて以来、Facebookのような媒体を通じて、県外の方々から「がんばっていますね」とか、「大変でしょう」などの労いの言葉をい ただくことが増えた。もちろん、私のSNS友達が皆さん”好い人”であることに間違いはなく、こんな私にもエールを送っていただけることに大変感謝してい るのだが、それほど褒められたものでは実はない。
というのは、私自身「被災者のため」だとか、「他人の幸せのため」だとか、もちろんそういう部分がまったくないわけではないが、でもそういうこと以上に、 「気がついたら、調子に乗っていろいろやっていた」という感覚の方が強い。何かを得たいがために、自分の何かと引き替えに続けているわけではないし、”使 命感”や”責任感”ともだいぶ違う気がする。
ではなぜ、私はこの街で市民活動を続けているのか?

私が、この街でさまざまな活動に携わった経験から確信したことは、月並みな結論で恐縮だが「自分で楽しめることをやる」ということである。”やらなければ ならないことをやる”のではなく、また、”やれることをやる”のとも少し違う。くどいようだが、”やれば楽しいと思えることをやる”のである。自分で楽し めることをやらないと、上手くいかなかったときに必ず不満が出る。
「誰それの周知が徹底していなかった」とか、「どこどこの不具合が原因だった」とか、必ず後悔が残る。上手くいかなかった事例から学んだことは、「○育委 員会に広報を任せた」や「市職員に案内をお願いした」など、顔の見えないボヤッとした組織や団体職員に仕事を振るものではないということであった。大きい 活動になればなるほど、その傾向は強くなる。自分の可視範囲、射程距離には収まらなくなり、思いが伝わりにくくなるからである。信頼できて意識の共有でき る相手との直のやり取りでないと、気合いは入らない。

この街には、フラっと「何か役に立ちたいのですが!」というような態度でいらっしゃってくれるボランティア精神に溢れた方がいる。そういう人たちは、判で 押したように「この街で一番困っていることは何ですか? そして、必要なことは何ですか?」というような質問を投げかける。
今さら言うまでもないし、当たり前のことなのだが、困っていることや必要なことは、人によって、時期によって、場所によって異なる。しかし、多くの場合、 その必要なことに対して、所詮他人が根本的にどうこうできるものではない。だから、私たちは「何かの役に立ちたい」と、まず考えるのではなく、「その人が 何をすると楽しいか」ということを想像する。その中で、どういうところで私たちも楽しめるかを見いだそうとする。そういう活動でないと、いたずらに地元を 疲弊させるだけだからだ。
たとえば、震災で飲食店を営めなくなった店主の楽しみは、再びお客の前で料理を作ることだ。そして、「美味しい」と言ってもらえることである。だったら料 理教室を開催したうえで、「私たちは、その場でプロの料理にタダでありついてしまおう」とかいう、そういう楽しみである。

南相馬市に限らないことだが、継続的に、かつ周りの賛同を得ながら活動している人は、皆、地元の人たちと深く関わり合っている。その関わり合いの中から、 自分が必要だと感じたことをやっている。ニーズはあらかじめ存在するものではない。自分の中から沸き上がるものなのである。SNS友達からのお褒めの言葉 は、そういうことに気づいた私の行動原理に対してなのかもしれない。
1人でもいい、地元の人から「様々な報道がある中でこの地に来てくれたこと、そして一緒に生活してもらえることがありがたいです。何より”この街を好き だ”と言ってくれたり、”この地での生活が楽しい”と言ってもらえたりすると嬉しくなります♪ 私自身も、先が見えずくじけそうになることがありますが、 他の地域から来た人たちの喜んでいる姿を見ると勇気づけられます」と言っていただければ、たとえイベントが失敗したとしても、もうそれだけで私たち支援者 は満足なのである。

地元での活動を楽しめば、周りの人も必ず楽しい気分になる。その連鎖なのである。何事も継続が大切だが、何度かの失敗を重ねることで、その土地で必要なこ とが分かってくる。それまで、地元市民を持ち上げるような小さなところから少しずつ、そして、愉快に活動を続けることなのである。
これから当院に研修に来る諸君、そういうことを理解した上で訪ねてくるように。

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