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Vol.131 「24時間対応がかかりつけ医の基本」ってブラックの奨励ですか?

医療ガバナンス学会 (2014年6月9日 06:00)


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つくば市 坂根Mクリニック
坂根 みち子
2014年6月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

春の診療報酬改定で、「かかりつけ医」のための制度が創設された。
「地域包括診療料」(月15000円)と、「地域包括診療加算」(1回200円)である。高血圧症、糖尿病、脂質異常症、認知症のうち2つ以上を有する患 者さんにつき、他の医療機関とも連携の上、患者がかかっている医療機関をすべて把握し、処方されている医薬品をすべて管理し、継続的かつ全人的な医療を行 うこと、とされている。

当院は生活習慣病のケアを中心とする循環器クリニックである。高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、禁煙外来、睡眠時無呼吸症候群 等々。初診時はその人が かかっているすべての医療機関の情報も必ずチェックし、なるべくまとめるように促す。専門外や精査が必要なところは、他の医療機関の予約は当院で手配し、 報告書が当院に届くようにして情報を一元管理している。厚労省がいうところの典型的なかかりつけ医だが、今回の改訂では「かかりつけ医」の範疇に入らな い。
厚労省が「24時間対応がかかりつけ医の基本」としたからである。3人以上の医師がいても算定できるが、基本開業医は一人である。
筆者は2年前の改定のときにも、一人で24時間対応は不可能であり、時間外の対応は地域病院で、交代性勤務の医師たちとカバーし合わないとできないと訴えてきた。
2012年5月14日MRICより抜粋する : 年365日24時間対応を求める制度 を作るというのは制度設計側の常識の欠如としか思えない。医師は一生滅私奉公で働いて当たり前という意識がどこかにあるのだろう。勤務医であっても開業医 であっても、特に女性は勤務時間以外にもフルで働いている。朝の戦争状態の時間に、または夜の怒涛の夕食作りの時間にいつでも患者対応を求められれば家庭 は崩壊し体も持たない。
結局24時間365日の部分は、人数で対応するしかない。具体的には病院の外来を診療所に移し、病院は入院と緊急、時間外の対応を中心とする。診療所が輪番制で時間外の軽症患者を診る場合は、診療所の母集団を大きくして負担を分かち合う、これ以外にない。(後略)

結果的にかかってくる電話が少なくても、24時間オンコールというのは心が休まる暇がなく絶えず緊張を強いられる。厚労省自らが過労死を勧めているような ものである。残念ながら厚労省の考え方は2年前とまったく変わらないどころか、今回の改訂では、勤務医の負担軽減策に逆行して200床以下の病院にかかり つけ医機能をもたせるようにした。
この制度が決まるまで日本医師会はなぜ黙っていたのだろうか。一般に日本医師会は開業医団体のように思われているが、実際には日医の幹部は中小病院の代表 である。地域包括診療科は事実上200床以下の病院でないと算定できず、算定料は月15000円と高額である。これでは日医と厚労省で暗黙の了解が合った のではと勘ぐられても仕方あるまい。今後200床以下の病院の勤務医は、経営者の判断次第では過重労働が解消されないまま、かかりつけ医機能を担わされる ことになる。そして一人開業医は「24時間対応がかかりつけ医の基本」という大義名分のもと、それができないのは医師として問題であるかのように扱われる のではないか。

さらに改悪は続く。薬は院内処方を原則としたのである。いったん院外処方で開業した診療所を後から院内処方にするのは診療所内の薬剤スペース一つ考えても ほぼ不可能である。かかりつけ医として病院しか念頭においていないことがこれで良くわかる。制度設計の途中から院外処方も認めたが24時間対応の薬局を条 件とした。こんな薬局が周囲に存在する診療所はどのくらいあるのだろうか。もちろん筆者の周囲にはない。

もう一つ指摘しておきたいことがある。この春からは薬のジェネリック(後発品)利用が強引に進められている。現場で何が起こっているかご存知だろうか。例 えばアダラートLというよく知られた降圧剤がある。これがジェネリックになるとどういう名前になるかご存知だろうか。ラミタレート、カサルミル、シオペル ミン、ニフェスロー、ニレーナ、アテネラート、トーワラート、コリネール等々。一般名だとニフェジピン。私たちは先発の名前で薬品名を覚えてきた。現在一 般名処方が奨励はされているが、実際には何でもあり、つまりジェネリック名のみでの処方も可なのである。初診時ずらっとジェネリック名しか記載されていな いお薬手帳を渡されたときには気が遠くなりそうになる。他医の薬のチェックは当たり前と思われるだろうが、1剤1剤薬の本で調べていく、この手間を想像で きるだろうか。スタッフに調べさせたとしても必ずダブルチェックがいる。他科薬との相互作用もはっきり言ってよくわからない。これを忙しい外来中にするの である。これでは医療過誤は必ず起きる。

これまで国は医薬分業を推進してきた。
医薬分業のメリットは薬剤師のチェックが入ることである。処方は一か所でまとめ、相互作用をチェックする、ジェネリック名のみでなく、先発品名と一般名を 記載するということを院外薬局でやっていただかないと、医療機関の負担が大きすぎるし、容易にミスは起きる。処方箋1枚の平均調剤料は2000円を超え る。私たちの診察料より高い。これでは何のために医薬分業か、本末転倒である。

毎度のことだが制度設計する人が現場を知らな過ぎる。机上の空論ばかり言っていないでもっと現場を回り現場の声を反映させて欲しい。また制度設計をする人 の人選には多様性が必要である。フィードバックする機能を持たない組織で同じような考え方の中高年の男性のみで大事な決定をしないでいただきたい。
今、唯一私たちができることは、目先の利益にとらわれて地域包括診療の算定を取りに走らないことしかない。コロコロと制度を変えて現場に負担を強いる厚労省には猛省を促したい。

参考
1) MRIC Vol.487 継続不可能な制度設計~医師の長時間勤務について http://medg.jp/mt/2012/05/vol487.html
2) 24時間対応がかかりつけ医の基本 – 宇都宮啓・厚労省保険局医療課長に聞くhttp://www.m3.com/iryoIshin/article/197571/

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