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Vol.141 看護教育7つの認識

医療ガバナンス学会 (2014年6月23日 06:00)


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この記事は『厚生福祉』2014年6月6日第6078号からの転載です。

社会福祉法人太陽会理事長
亀田 信介
2014年6月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2014年4月、房総半島の千葉県館山市に安房医療福祉専門学校が開校し、社会人19人を含む49人が入学しました。今後、3年間の教育を経て、看護師資格の取得を目指します。

学校を設立することが実質的に決まったのは、2012年3月です。学校設立に至った理由は、設置趣意書http://www.awa-school.ac.jp/prospectus.htmlで詳しく述べました。

第一の理由は、千葉県の看護師不足です。そもそも、千葉県は日本の中でも、医療サービスの提供が最も不足している地域です(1)。2008年末の千葉県の 人口10万人対就業看護職員数は、全国45位でした。四国、九州の約半数しかいません。しかも、千葉県では、全国第2位のスピードで高齢化が進んでいま す。平成23年度千葉県保健医療計画には、「今後、高齢化が急速に進展することにより、看護職員がますます不足することが予想されます」と県の危機感が示 されていました。高齢者人口が増加すると、医療・介護のサービス不足がさらに顕著になり(2)、社会不安が生じかねません。2014年4月15日付けの千 葉日報は、11年後の2025年、千葉県で看護職員が1万5000人不足するという調査結果を伝えました。

第二の理由は、雇用です。高度成長期、日本の地方の雇用は公共事業と工場が支えていました。公共事業は、税収不足、政策の変化で大幅に削減されました。工 場の雇用も、生産拠点の海外移転と技術革新による省力化によって減少する一方です。館山市では2012年、2つの大きな半導体工場、旭化成エレクトロニク ス(従業員200人)と台湾の半導体メーカーUMCJ(従業員600人)の閉鎖が決まりました。製造業が日本に残るには、付加価値の高い製品を作るか、徹 底した機械化で従業員数を削減しなければなりません。

製造業の海外移転が進み、技能職より、技術やビジネスの開発者、管理職の役割が相対的に大きくなりました。大きな利益を生んでいるのは開発部門と管理部門であり、大都市に集中しています。地方では従来の雇用が失われ、過疎化が進んでいます。房総半島も例外ではありません。

社会の変化のために消滅する職業がある一方で、需要が大幅に増える職もあります。先に述べたように、千葉県では看護職は極端に不足しており、解消される見 込みが立っていません。北欧では、社会の変化によって職を失った人たちに対し、生活を保障保証しつつ職業訓練を行い、人生の方向転換を図る仕組みがありま す。宮本太郎氏は、『生活保障 排除しない社会へ』(岩波新書)の中で、人生の方向転換ができる社会を、「交差点型社会」と名付けました。

安房医療福祉専門学校は、交差点型社会に近い取り組みを民間で行おうとするものです。十分な財源がないため、北欧のように就学中の生活を完全に保障することはできません。しかし、学費、生活費のために様々な奨学金を用意しました。

地方の厳しい雇用状況の中で、人々の就労、社会参加を支援するために、教育、保育、介護、医療など多様なサービスを密接に連携させる新しいモデルが求めら れています。社会福祉法人太陽会は、1987年の設立以来、様々なサービスを通じて地域における社会福祉の増進に努めてきました。この特色を活かし、学生 の教育と生活支援を連携させて、安定した雇用につなげたいと思っています。また、様々なサービスの提供主体であることを活かし、医療のみならず、広く介 護、福祉の現場で活躍しうる看護師を輩出していきたいと考えています。

別表に、看護教育を行うにあたっての我々の基本認識を示します。ご批判いただければ幸いです。

●看護教育7つの認識
1.学校の顧客は学生である。
看護師の顧客は、看護を受ける人たちですが、看護教育の顧客は学生です。学生が、看護師として実務に就くための基本的能力、自己の能力を高めるための学習能力を獲得できるよう教育します。在学中、勉学に取り組み続けられるよう財政面、精神面、健康面でサポートします。

2.非合理的より合理的な方がよい。
権威勾配を運営の前提としません。学校長、教員、事務職員、学生はイコールパートナーとして、それぞれの立場で責任を果たし、学校の発展を支えます。
学校長は教育プログラム全体に責任を持ちます。過大な負荷によって学生が挫折しないよう、細心の注意を払います。教育成果が高まるよう、合理的方法を模索し続けます。情報機器の使用など教育の多様化を図ります。
あらゆる側面から教育プログラムを評価します。学生を含めてすべての構成員の意見を教育プログラムの発展に役立てます。

3.人生の方向転換ができる社会は明るい。
社会の変化によって従来の仕事が成り立たなくなることがあります。本校は、人生の方向転換を望んでいる社会人を積極的に受け入れます。日本では、看護師が 大幅に不足しています。誠実に普通に努力すれば、安定した職を得ることができます。ただし、国家試験に合格しなければ、看護師として働けません。国家試験 合格のために支援します。

4.キャリアアップ可能な環境は人を大切にする。
学生、卒業生、教員、事務職員が自ら学習し、キャリアを向上させるのを奨励・支援します。

5.社会の要請に合わせて自分を変えると、自分の価値が高まる。
日本では出生数が減少し、世界史上かつてなかった高齢化が進んでいます。生産拠点が海外に移転され、産業構造が大きく変化しました。貧富の差が拡大し、社 会的に孤立した人たちが増えています。社会が変化する中で、医療の在り方も変化せざるをえません。社会の変化と要求を凝視しつつ、自らを変えていきます。
この理念も時代の変化に合わせて常に見直します。

6.多様性は看護をしなやかにする。
看護を必要としている人たちは多様な価値観を持ち、多様な状況に置かれています。看護教育では、年齢、信条、性自認、国籍、人種、性別、性的指向に関する差別を認めません。
社会人を受け入れるなど学生の構成を多様にすることも、多様性の受容を高めるのに有用です。

7.世界を意識すると、別のものが見えてくる。
病者は日本人だけではありません。病者、弱者への看護、いたわり、気遣いで、日本にしか通用しない考え方を押しつけてはなりません。看護では、世界に通用する説明責任、利他主義が求められます。

<参考文献>
1.小松秀樹:医療格差. 厚生福祉, 6013号, 10-14, 2013年8月27日.
2.小松俊平, 渡邉政則, 亀田信介: 医療計画における基準病床数の算定式と都道府県別将来推計人口を用いた入院需要の推移予測. 厚生の指標, 59, 7-13, 2012.

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