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Vol.152 あきれるほど自浄作用が欠如した東大病院 ~その2

医療ガバナンス学会 (2014年7月9日 06:00)


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東大病院のSIGN研究ノバルティス社不正関与事件「最終報告」を読む

※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41092

関家 一樹

2014年7月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

6月24日、東大病院は「SIGN研究に関する調査(最終報告)について」と題して、記者会見を行った。

http://www.h.u-tokyo.ac.jp/oshirase/archives/20140624.html

つづき

▽上滑りする改善案

特別調査委員会が示した改善案は大きく分けて3系統である。
(1)倫理教育
(2)倫理申請・監査の改善
(3)MRの入館制限
それぞれ問題点が多いので見ていこう。

●倫理教育について

特別調査委員会は「医学部附属病院では研究倫理教育を行っていたにもかかわらずこのような問題が発生した背景には、臨床研究、特に研究者(医師)主導の臨床研究に関する知識の不足と心構えの甘さが根底にあり、また、利益相反に関する自己申告に具体的な例示が乏しく、自主的に判断して行わなければならないところにある。より具体的な事例に基づいた教育が必要と考えられた」と述べ、最終報告書の5ページでは「再発防止のために、利益相反の管理と臨床研究の信頼性確保に関する教育を職員に徹底する。『東大研究倫理セミナー』を改善し、e-learningも併用して臨床研究者の教育を行う」としている。

既に再三指摘しているが黒川教授はこの倫理セミナーの講師を務めていた。3月14日の中間報告書の段階でも、倫理セミナーの活用が掲げられていたが、当時の記者会見で質問した際に門脇病院長は黒川教授が講師を務めていた事実を認識していなかった。今回の最終報告書ではさすがに以下の記載が加えられている。
「特に黒川教授は臨床試験審査委員会委員長や東大研究倫理セミナーの講師を歴任し、十分に知識や情報を持ち他に範を示す立場にありながらこのような事態が生じたことは誠に遺憾である」(22ページ)またA医師は本来SIGN研究の倫理申請をすべきIRBという審査の厳しい委員会を意図的に回避し、別の倫理委員会に申請を行った可能性が疑われる。
さらにA医師は最終報告書記載のメールのやり取りからも、ディオバン(バルサルタン)に関する不正関与事件のニュースを見て、SIGN研究が問題にされる可能性があることを認識していた。つまりSIGN研究事件は十分に知識のあった人たちが引き起こしている。したがって同様の事例は教育により回避できるものではない。

●倫理申請・監査の改善

倫理申請の改善については以下のような記述がなされている。
「利益相反申告書作成時に、詳細な自己点検チェックリストを利用することにより、不適切な利益相反関係の存在を申請者自身が自己点検できるようにする。またこのチェックリストを申請書に添付するようにして、倫理審査時や利益相反管理で適切な対応をするために活用することとした」(24ページ)
「利益相反アドバイザリー機関は利益相反自己申告の内容によっては、利益相反の観点から研究計画自体を不承認とする助言を与えたり(後略)」(24ページ)
「倫理審査申請時に個人情報の扱いに関するチェックリストを記載するようにして、個人情報の問題を研究者が自ら認識する様にし、また、その適正性を倫理審査委員がチェックし、審査の過程で直接研究担当者に確認できるように改定する」(25ページ)

そもそも各種書類作成の手間をMRに代行させていたことが、今回の不正関与の一形態である。にもかかわらず改善案でさらに手間を増やすというのはどういうことなのだろうか?また誰が「不承認」とされるようなチェックリストを提出するのだろうか?既に倫理教育の部分で検討したが、SIGN研究ではそもそも意図的に虚偽の申請書が提出されているのである。いくらチェックリストを増やしたところで歯止めにはならない。

次に監査機能の強化は、ぜひ行われるべきだろう。しかしこちらも注意が必要である。対策案を見ると、利益相反アドバイザリー機関に「専任の職員」を配置したり「平成26年度中に監査・信頼性保証室を新設」するなど、予算と人員のかかりそうなことばかりが書かれている。文科省から予算がついたのか、もしや天下りのポストになるのではないかと勘繰りたくなる。実効性のある機関になるのか、十分に監視していく必要があるだろう。

●MRの入館制限

東大病院では4月から、アポなしのMRの病院内への入館を禁止し、面会する場合も区域を制限しているとのことだ。しかしそもそも先に見たように、研究責任者である黒川教授は「病棟にN社社員が出入りしていること」を認識していなかった、と主張しているのである。
また東大病院の最終報告書ではなぜか記載されていないが、ノバ社報告書によると、SIGN研究の実施計画書の検討会議はノバ社の会議室でA医師を交えて行われており、実施計画書の発表はノバ社のイベントで黒川教授とA医師が行っている。MRの入館制限がどの程度研究不正の抑止に役立つのか疑問である。

●小括: 結局どうすべきなのか
こうした研究不正は既に検討した本質からして、事前抑制で完全になくすことが難しい。事後抑制となる処分を粛々と進めていくことが肝要である。既に東大病院と東京大学にはちゃんとした内規があるのだから、それに従って運用を進めていけばよいだけである。「e-learning」よりも「○○教授はこれをやって処分されました」の方が具体的であり、身につまされるだろう。
また最終報告書に記載されているように「東大病院においては以前より、臨床研究に対し企業から直接研究資金や試験薬の提供がある場合には、寄付ではなく受託研究契約により受領し、当該企業から独立して計画・実施・解析することを、契約書中に明記するように対応してきた」(25ページ)という、契約型研究への交通整理を進めていくことも、現状の研究が製薬企業への依存体質から脱せない中で、不正関与が起きないようにするための策ではないだろうか。
▽東大病院の考える患者さんへの「適切な対応」とは

最終報告書は冒頭で「臨床研究の信頼性を損ねる事態を起こしたことは遺憾である。患者の個人情報の流出に関して、患者保護の観点から説明と謝罪を含めた適切な対応を行っている」(5ページ)と述べている。
また患者さんの臨床研究参加の同意について瑕疵があったことも、先だって倫理教育の箇所で引用した部分で認めている。そして最終報告書は後半部分で「当院から患者個人データが流出したことは極めて遺憾である。まず患者へ状況の説明と謝罪を早急に完了する必要がある。(中略)当院の患者に関しても報告と謝罪を4 月中に行なっている」(20ページ)と述べている。SIGN研究の研究不正が一般に報道されたのが1月17日であることからすると、東大病院は患者への報告と謝罪に3カ月かかったということになる。これが東大病院の考える「適切な対応」である。
▽まだまだ研究不正が出てきそうな東大病院

この記事では扱わなかったが、東大病院では1月25日と3月23日に任意でアンケートを研究者に対して行い、ノバ社関係でSIGN研究のほかに4件の不正関与事件があること、新たにブリストル・マイヤーズ社関係で1件の不正関与事件があることを明らかにした。これらはいずれも黒川教授が率いる血液腫瘍内科で行われていた研究である。また血液腫瘍内科以外のものとして、今回の記者会見では急遽認知症研究の「J-ADNI」についての報告もなされた。
門脇病院長は記者からの質問に「これ以外に不正事件はない」と答えていたが、武田薬品工業の降圧剤を扱った「CASE-J」や、エーザイが関わる「J-ADNI」を見るにそれぞれの診療科のヒット薬剤に関わる研究では、ことごとく同様の不正関与が行われていた可能性が高い。今後も上市薬に関する主要研究を、再確認していく必要がある。

「医師主導臨床研究」が、真に「医師主導」の臨床研究になるよう、この記事が資すれば幸いである。

【略歴】
1986年東京生まれ。2009年3月法政大学法学部卒業。現在は企業で法務担当

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