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Vol.259 現地レポート(3): ダラスでのエボラウイルス感染が終息 -延べ177人に対する経過観察が全て終了-

医療ガバナンス学会 (2014年11月13日 06:00)


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ベイラー大学病院ベイラー研究所
膵島移植部門 (テキサス州ダラス・フォートワース)
滝田盛仁
2014年11月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

ブッシュ前大統領がエボラウイルス2次感染の舞台となった病院を慰問
テキサス州ダラスでエボラウイルスに暴露した可能性のある市民に対する地元保健当局の経過観察が11月7日、ついに終了した。9月30日から始まった一連のエボラウイルス感染の連鎖が終息したのである。同日、ブッシュ前大統領はエボラウイルス2次感染の舞台となった病院を慰問し、病院スタッフと共に「エボラからの開放」を祝った。実は昨年、ブッシュ前大統領は同病院で心臓手術を受けている。ダラス市民の間で安堵感が広がる一方で、流行地である西アフリカ諸国では感染の拡大に歯止めが掛かっておらず、ダラス地域の病院は、引き続き新たな感染者の出現に警戒を強めている。外来診察や入院の際、西アフリカ諸国への渡航歴を尋ねられるのは必須となっている。

行動制限と地域社会・経済とのバランス
今回、ダラスでのエボラウイルス感染では、リベリアから渡米した初感染者1名が死亡、その治療に当たった看護師2名が2次感染した。2次感染した看護師が旅客機でアメリカ西部へ旅行していたことが明らかになるなど、当初、エボラウイルスに暴露した可能性のある市民や病院スタッフの行動が把握されていないことが問題となった。これ以降、地元保健当局はエボラウイルスに暴露した可能性のある市民や病院スタッフに対し、旅行や公共交通機関の利用を含めた外出を自粛するよう要請した。この要請は基本的に市民や病院スタッフの良心に働きかけるものであるが、微妙なバランスの上に成り立っている。つまり、裁判所命令に基づく警察官による行動制限など強制力の強い手段で隔離を行おうとすれば、周辺住民は過度の恐怖を抱き、地域社会が混乱し地域経済が成立しなくなる可能性がある。テキサス州では、労働組合加入率が低く法人税がないことを背景に、ダラス・フォートワース地域を含め、大企業の本社移転が相次ぎ、人口は堅調に増加している。今年は、米国トヨタの本社もカルフォルニア州ロサンゼルス近郊からダラス近郊へ移転することが決まった。このような地域の経済成長への影響を最小限したい一方で、さらなる2次・3次感染が引き起っては元も子もない。
今回は、「感染者の血液・体液 (分泌物、吐物・排泄物) が傷口や粘膜に接触することによってエボラウイルスに感染する」と言う事実に基づき、市民や病院スタッフに対し個別にエボラウイルス感染のリスクを評価し外出自粛を要請したことが奏功したのだろう。2次感染者が診断された直後、ダラス市長自ら、2次感染者が居住する地区に赴き、住民一人ひとりに冷静な対応を説明していた姿は印象的であった。温厚なテキサス人という地域性も影響しているかもしれない。

ガウンテクニックには実際の装着・脱衣訓練が必要
具体的にどのような動作が病院内での2次感染の原因になったのか未だ不明である。2次感染した2人の看護師は共に、病院が推奨する方法に従っていて感染予防の手技に重大な落ち度はなかったと主張している。CDC (米国疾病対策センター) はガイドラインを変更し、より厳重な感染防御具を推奨している(注釈1)。感染防護具を着用および脱衣する際は二人一組となり、1人が監視する中で、確実な動作を行うことが求められている。体得するには、文書を読むだけでは十分でなく、実際の着用訓練、或いは、少なくとも動画で習得する必要があろう (注釈2)。YouTubeで、様々な医療機関が感染防護具の着脱のデモンストレーションを公開している。ダラスでの教訓のひとつは、感染防御について特に訓練されたスタッフがエボラウイルス感染者の治療にあたるべきということである。

エボラウイルス感染治療のための専用病床の整備
万能と思われた900床クラスの地域中核病院の病院内ででエボラウイルス2次感染が起こった事実は深刻であった。テキサス州政府は、エボラウイルス感染治療のための専用病床の整備に乗り出した。幸い、ダラス地域でICU (集中治療) 病棟を閉鎖していた病院があり、そこを改装し、専用病床とした。ダラス地域ではエボラウイルス感染が疑われた段階で、患者はこの専用病床に搬送され、中核病院ではエボラウイルス治療は行わないという運用に切り替わった。ただし、この専用病床の肝は、設備や十分な量の感染防護具の備蓄と言うより、そこで働く医療スタッフであろう。患者が搬送された際には、近隣のテキサス大学サウスウエスタン医療センター (医学部附属病院) から感染症に特化した専門の医師・看護師・臨床検査技師が派遣されるという。

おわりに
9月30日から始まったダラスでのエボラウイルス感染は、「とりあえず」の終結をみた。「とりあえず」としたのは、西アフリカでのエボラ出血熱の流行が続いており、いつまた、空港検疫では無症状で米国入国後、発症する患者が現れるか分からないからである。実際、10月23日、アフリカで医療活動を行い帰国していた医師がニューヨークでエボラ熱と診断された。テキサスのような完全「車社会」文化とは異なり、人口過密地域での感染制御は一層の困難を伴うであろう。ダラスの事例から得られた大切な教訓の一つは、地域中核病院での救急医療の充実、特に、そこで働く医療スタッフの充実と感染制御に関する訓練である。エボラウイルスに対して有効なワクチンや特効薬がない以上、地域医療や公衆衛生の質が問われている。

1) http://www.cdc.gov/vhf/ebola/hcp/procedures-for-ppe.html
2) http://www.cdc.gov/vhf/ebola/hcp/ppe-training

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