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Vol.033 ときわ会常磐病院のインドネシア腎移植医療支援

医療ガバナンス学会 (2015年2月19日 06:00)


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公益財団法人ときわ会
副院長 新村浩明

2015年02月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


福島県いわき市にある常磐(じょうばん)病院は、1つの病院と6つの診療所、2つの介護老人保健施設から構成されているときわ会グループの中核病院で、人工透析と泌尿器科の高度な診療を得意としている。常磐病院では、以前より東京女子医大泌尿器科の田邉一成教授の支援をうけ腎移植術やロボット手術、腹腔鏡手術を行っている。その質と量ともに一般病院としては我が国有数のものと自負している。

http://www.tokiwa.or.jp/urology/performance.html

インドネシアにあるRS PGI Cikini病院では、1977年にアジアでの腎移植の普及をめざした東京女子医大故太田和夫教授の支援を受け、インドネシア初の生体腎移植を成功させている。同病院ではこれまで300症例以上の腎移植を行っているが、医療器具の問題などで腹腔鏡手術によるドナー腎摘出術を行っていない。そこで東京女子医大泌尿器科田邉教授に、腹腔鏡の技術支援と医療器具支援の要請があり、女子医大泌尿器科の提携病院である常磐病院が主に腹腔鏡にかかわる医療器具の支援を行うこととなった。

◆インドネシアの医療状況
インドネシアは、人口が中国、インド、アメリカに次ぐ世界第 4 位 約2.4 億人の規模を誇り、経済の成長も著しい。しかし貧富の差が激しく、生活水準は日本と比較しまだまだ低い面が多い。医療水準は特別な私立病院を除いておおむね低く、公的医療保険が充実していないため低所得層の受診する公的医療機関では特に医療設備の不足が著しい。そのため高所得者は、近隣のシンガポールやマレーシアに高度な医療を求めて受診するのが常となっていて、年間10万人以上が治療や健康健診など医療目的で出国しているとされる。

◆RS PGI Cikini病院
RS PGI Cikini病院は、1898年に設立されたインドネシアで最も古い私立病院の一つで、331床の入院ベッドを有するキリスト教系の総合病院である。

http://www.rscikini.com/

私立病院であるので、インドネシアでは比較的設備の整った病院である。血液透析室や体外衝撃波結石破砕装置などがあり、中~上位所得者層をターゲットとした病院とのことである。医師や看護師をはじめとする医療従事者の意識は高く、高度な医療に対して貪欲である。しかし院内のインフラや器具は古いものを大切に使用しているため、また感染対策の水準が低いこともあり、手術室に蚊が飛んでいてもよくあることのことであった。インドネシアの公用語はインドネシア語であるが、インドネシア語の医学書が皆無のため、医師を目指すものは英語で書かれた医学書で勉強する。そのため医師は英会話に不自由なく、また英語圏の最新の医療について精通している。しかし実際に最新の医療をインドネシアで行うには、高額な医療機器を取りそろえることは経済的に難しく、普及を困難にしている。

◆インドネシア腎移植医療支援
2013年11月に、RS PGI Cikini病院の泌尿器科医Egi Manuputty先生に要請され、第1回目の腎移植支援に東京女子医大泌尿器科田邉教授、野崎医師、常磐病院新村の3名でジャカルタを訪れた。後腹膜鏡下ドナー腎摘出2例、移植腎尿管狭窄修復1例を田邉教授による執刀で行われた。インドネシアにおける鏡視下のドナー腎摘出は史上初とのことであった。これに続き、2014年12月に第2回の腎移植支援を女子医大田邉教授、奥見講師、常磐病院新村、和田医師にて行った。後腹膜鏡下ドナー腎摘出1例、鏡視下腎嚢胞開窓術2例を無事行うことができた。
インドネシアの経済成長は、BRIICKsの一角としてアジアのみならず世界の経済成長を牽引するとされている。実際に現地を訪れてみると、所得レベルが低くても多くの若者はスクータを乗り回し、スマートフォンを使いこなしていた。今後さらなる経済成長すれば、必ず高いレベルの医療の需要が起こるのは間違いない。日本の高度成長期と同様、変革のうねりがインドネシアの医療にも起こっているようである。
こうした状況の下、いち早く高度医療の象徴である腹腔鏡手術を学びたいという希望が現地の医師に強い。東京女子医大と常磐病院の合同チームは、この希望をかなえるために2回のインドネシア訪問を行った。これからは、Egi Manuputty医師をはじめとした現地の医師が術者として、腹腔鏡手術の技術指導を行う予定である。腎移植術だけでは現地でも症例が少ないので、腎癌に対する腹腔鏡下腎摘出術を中心に、本年より年に複数回インドネシアを訪れ、技術指導にあたる予定である。

◆医師交換プログラム
インドネシアで学べる医療には限界があるため、現地の医師を日本に招き、日本の医療を実際に学んでもらうプログラムを提示したところ、大歓迎された。手術の技術のみならず、日本の進んだ感染対策や医療安全の方法などは、実際日本で目にするのが一番手っ取り早い方法と思われる。また、年に数回われわれがインドネシアを訪れても指導時間には限界があるので、月単位で現地に滞在し手術指導を行うことを考えている。こうした交流を通して、少しでもインドネシアの医療技術が向上されればと考えている。
さらに、これからの経済の中心はアジアになるのは間違いない。そこで、医学生のうちにインドネシアの医療状況を見て学ぶことは非常に大切なことではないかと考えている。RS PGI Cikini病院の管理者にお聞きしたところ、医学生の見学も大歓迎とのことであった。ときわ会グループでは、医学生によるインドネシア病院見学ツアーを支援していきたいと考えている。医学生の長期休暇の間に、RS PGI Cikini病院を見学するのはいかがであろうか。ご興味のある医学生がいたら、是非、新村までどうぞご一報をください。

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