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臨時 vol 115 「韓国訪問記」

医療ガバナンス学会 (2008年8月28日 12:02)


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東京大学医科学研究所
探索医療ヒューマンネットワークシステム部門
田中祐次


 このたび大韓民国(韓国)に、カトリック医科大学病院を訪問する機会を得たのでここに報告します。韓国では、ソウル大学附属病院、カトリック医科大学病院、現代(ヒュンダイ)病院、延世(ヨンセイ)病院、三星(サムスン)病院が、5大病院グループです。2つの大学病院と3つの企業を背景にした病院です。カトリック医科大学訪問のきっかけは、以前報告した韓国血液患者会との交流の際に、韓国の患者から「韓国の白血病患者の4割がカトリック病院にかかっている」と聞いたことにあります。韓国の国土や人口(約4800万人)はいずれも日本の約3分の1ですが、それでもなお4割の患者が集まるというのは驚くべき事実です。
2008年7月24日、カトリック医科大学病院血液内科のDong-Wook Kim教授と面談しました。カトリック医科大学には附属病院がいくつかあり、Kim教授の勤めるカトリック医科大学ヨイド病院は建物自体も古く、来年5月には血液内科全体が新しい病院に移動予定だそうです。現在の建物は、かつては韓国一の高さを誇り観光名所でもある金色のビル(63ビル)の傍にあります。その病院の3階の一角にKim教授の研究室がありました。
Kim教授はカトリック医科大学卒業、同大学にて博士号を取得し、アメリカ留学を経てカトリック大学医科大学教授、現在はカトリック大学医科学研究員分子遺伝子研究所所長です。複数の学会理事と国際委員会の委員を兼務し、特に現在はアジア慢性骨髄性白血病研究委員会会長として、慢性骨髄性白血病の登録に力を入れています。 これは、慢性骨髄性白血病患者登録が世界規模で始まっていることが背景にあります。アジア慢性骨髄性白血病研究委員会の会長であるKim教授は、同時にアジアの代表として、アジア各国の慢性骨髄性白血病登録を進めています。今回、そのシステムも拝見しました。患者情報として、名前や生年月日などの一般情報に加え、白血病細胞の遺伝子異常関連、治療薬(グリベック投与量、期間など)、血液データ(白血球数、赤血球数、血小板数など)の推移など、疾患に関連する膨大な情報を入力する必要がありますが、Kim教授は自身の患者650人に関してはすでに登録を済ませていました。ちなみに日本はまだ参加していないそうで、今月(2008年8月)、Kim教授と日本の医師の間で話し合いが持たれると聞いています。
臨床はKim教授と研修医の2人、研究室にはリサーチナースや実験助手など、合計12名。カトリック医科大学ヨイド病院では9人の血液内科医師がそれぞれ自分の担当疾患をもっており、Kim教授は慢性骨髄性白血病が担当になっています。その他、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、悪性リンパ腫などに担当医師がいます。この「一疾患一医師」システムは日本で見られないばかりでなく、韓国でもこのヨイド病院だけが採用しているとのことです。
カトリック医科大学に患者が集まる理由をKim教授に直接尋ねてみたころ、自身ではその分析をしたことがないらしく、やや首を傾げながら「白血病患者の多くが医師からの紹介でヨイド病院に来ています。カトリック医科大学ヨイド病院の血液内科が他の医師からの信頼を得ているためでしょう」と答えてくれました。患者紹介率などは示してもらえませんでしたが、傍にいた Kim Pil さん(急性リンパ性白血病患者)も同様に医師からの紹介でヨイド病院を受診したと言っていました。
韓国の医師から信頼を得た理由に関して尋ねると、ヨイド病院が1985年より韓国で初めて骨髄移植を始めたこと、1995年より前述の「一疾患一医師」体制をとっていることを挙げました。Kim教授の説明では、韓国で発症する年間200人のCML患者のうち91人がKim教授にかかっており、650人の慢性骨髄性白血病患者を診ているそうです。それぞれの患者分布には、韓国全土から集まっていることが示されていました。
慢性骨髄性白血病は、飲み薬である分子標的治療薬グリベックが登場してからは外来治療が標準治療として行われています。カトリック医科大学ヨイド病院の血液内科入院患者は160人ですが、Kim教授が診ている慢性骨髄性白血病患者650人中で入院患者は3人だけでした。入院患者は少ないのですが、その分、Kim教授は週4日外来を行っています。もし慢性骨髄性白血病患者さんの状況が悪化(悪性転化など)した時でも、骨髄移植が必要となった時でも、Kim教授はヨイド病院で自分の患者さんを診ると話していました。
慢性骨髄性白血病に関して、医療者側としては、Kim教授を中心とした集約化が進むことで前述した患者登録などのメリットが出てきます。一方で、通院を中心としてグリベック服用という標準治療が定まっている患者にとっては、集約化することよりも自宅から近い病院へ分散されることの方が好まれる可能性があります。実際、カトリック大学ヨイド病院に通院している患者からは、医師からの紹介でカトリック大学ヨイド病院に通院するようになったと聞きましたが、その一方で、患友会に勤めている白血病患者のLee Eun Youngさんは、家の近くの順天卿大学病院(SOON CHUN HYANG大学病院)で治療をしました。このような患者からの話を聞くと、約4割の患者が集まるということは患者視点からは必ずしも望まれていないかもしれない、と感じました。
カトリック大学ヨイド病院にてKim教授と面談を行うことで、韓国における慢性骨髄性白血病患者動態を知ることができました。医療者の視点ではメリットが多いように思いましたが、患者視点で考えると必ずしもメリットばかりではないのではと感じました。日本は逆に集約化ができていません。しかし、そのことのデメリットばかりではなく、他国と比較することで分散化していることのメリットも明らかにし、その上で今後の治療体制を考える必要があると考えました。

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