医療ガバナンス学会 (2015年4月14日 06:00)
私は職歴40年の看護師です。1975年看護学校卒業、創設直後の集中治療部に配属され13年間勤務後に、ME管理室の創設や看護学校の精神看護学・情報科学の立ち上げなどを経験いたしました。2006年に福島県立医科大学大学院看護学研究科に入学すると同時に、いわき市内にある病院の教育担当として7年間勤務していました。2013年11月、震災後、地域の看護により貢献できる職場を求め、ときわ会常磐病院にお世話になることになりました。赴任してみると新村浩明副院長が潜在看護職への支援事業を計画しており、急遽そのプロジェクトチームに招聘され責任者ということになりました。私は、今まで10年単位ごとに新事業に関与していたように感じます。それが自分の宿命かと思いつつ、これまでの体験が地域の看護にお役に立てばと考え、復職支援センターの創設に参加させていただきました。
◆2013年の福島県いわき市における看護師不足の状況
医師の不足と共に看護師不足も社会的な問題となっております。とくに少子高齢化という社会構造の変化から、さらに看護職の需要増加が予測されるため、国策として道府県単位で潜在看護職の復職支援が推し進められており、潜在看護職の登録制度も発足する運びとなっています。さらにいわき市におきましては、2011年の震災による原発事故から看護職の県外流出が多く、看護職の求人倍率は震災前の1.69倍から震災後は4.41倍(2012年8月)に達しており看護師の確保が急務となっておりました。
◆公益法人化に伴う地域潜在看護職への支援
絶対的な看護師不足の折、医療施設間での看護師の移動のみでは問題解決にならないと考えました。地域における看護職の分母を増加させないと限界がきてしまいます。
ちょうど、ときわ会常磐病院では2014年4月の公益法人化に伴い、地域の看護職への支援事業を考えておりました。そこで、公益事業の一つとして潜在看護職の方々を対象とした復職支援センター(エバー・グリーン)を開設したしだいです。
エバーグリーン運用にあたっては、1)誰でも利用可能、2)完全無料、3)研修時期および期間は受講生が自由に決定できることを目標に挙げました。研修期間は半日コースから5日コースまで用意しました。また研修期間や日程も受講生のご都合に合わせて調整できます。また研修期間は、常磐病院内にある院内保育所の利用も可能となっております。
新設したナーシング・ラボでは、各種のシミュレーション教育や電子カルテの操作などの体験はもとより、最新の医療・看護の動向などの各種講座も準備しております。詳しくは、ときわ会潜在看護職復職支援センター(エバー・グリーン)のホームページを参考にしてください。
http://www.tokiwa.or.jp/reinstatement/
◆ときわ会復職支援センター(エバー・グリーン)の一年間の活動
このような経緯で2014年4月にエバー・グリーンを開設いたしましたが、地域の反応はほとんどありませんでした。そこで、開設記念講演の開催(2014年7月13日)に合わせ、いわき医師会のご協力を頂き、200施設に開設記念講演のパンフレットや支援センターリーフレットを送付させて頂きました。さらに市内医療機関27施設の看護部責任者への訪問案内や看護学校・高校の担当教員、さらには福島県看護協会や福島県ナースセンターへの訪問案内などを積極的に行いました。
開設記念講演では、千葉大学大学院看護学研究科教授 山本利江先生をお招きし「看護の楽しさを看護の喜びとしませんか」と題するご講演を頂きました。参加者は、地域の潜在看護職はもとより、現在活躍なされている看護職の方々、看護学生の皆様、これから看護の道に進もうと考えておられる高校生の皆様などで、120余名のご参集をいただけました。参加者からは「看護職を改めて考えることができ、モチベーションがよみがえったようです」「復職支援センターの見学会がありましたらぜひ参加したいと思います」などの意見が聞かれました。この開設記念講演会は、各報道機関で取り上げられ、新聞やテレビでも報道されました。
当初六ヶ月間は研修申込者がありませんでした。2014年10月から申込がみられるようになり、この一年間の研修申込者は7名で研修修了者は6名となりました。いわき市内からは3名の申し込みがありましたが、その他の4名は福島県伊達市・二本松市・郡山市など遠方からの希望者でした。各受講者の希望を最優先させ、研修日程や研修内容についても個別相談に応じ、不得意な部分を短い期間で効果的に習得できるようにいたしました。この対応は結婚・育児などで離職なされた方々にはご好評をいただいております。復職支援センターにおける個別的対応の重要性を再認識させられました。
一方ではエバー・グリーンをサロン的に活用される方もおりました。現在は非医療職として働いている方が看護職への復帰を目指して、ご自分の休みの間をぬって、不得意な知識や技術を習得するため半年間通われた事例です。次年度は看護師としての復職にチャレンジするとの事でした。
研修希望者の中には、エバー・グリーンのホームページを見て連絡を頂いた方もおりましたが、福島県ナースセンターとの連携も重要でした。遠方からの希望者は福島県ナースセンターで紹介を受けた事例です。潜在看護職はハローワークや県のナースセンターに照会・相談することが多いようです。しかし各地域で行われている復職支援セミナーは日程がすでに決まっており、研修内容もすでに決定されているものです。このようなカリキュラムでは、特に子育て中の潜在看護職にとって、数日間連続で朝から夕方まで研修に参加することは難しいとのことでした。自分の都合に合わせられる研修プログラムが良いと述べられた方もいました。
研修修了者の中には、「本当に無料で良いのですか」とのお話もありました。ときわ会の公益財団法人化に伴う地域看護職への支援事業ですと説明すると納得されておりました。さらに「他の病院に就職が決まっているのですが良いですか」という問い合わせもありましたが、看護職個人へのスキルアップへの支援事業ですと説明すると安心して研修に参加されておりました。
◆ときわ会復職支援センター(エバー・グリーン)のこれからの活動
エバーグリーンが大切にしていることは次の三つです。
1.看護職の仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス):「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)」を根幹におき、子育て期、中高年期など人生の各段階に応じた多様な生き方に対応する。
2.潜在看護職が持つ不安に対応すること:復職にあたって持っている「看護専門職の能力」と「ライフサイクル」の不安に対応する。
3.地域の潜在看護師にオープンとすること:地域に根ざした復職支援活動こそが地域社会のニーズ。潜在看護職の方々に無料で開放する。
これまでの活動の中で、地域の看護教育の問題点も明確になりました。人口10万人あたりで看護教育の1学年の定員数を求めると、全国48.3名、福島県54.2名、いわき市19.9名となっており、いわきの看護教育の貧困さがめだちました。高等学校訪問の際、看護職をめざす生徒が多くいることを聞いておりました。地域の看護教育を充実することも、大切な看護職への支援事業となると思われます。看護職の地産地消も大事なコンセプトと思われます。幸いにもこの一年間で、地域での看護教育への気運が高まっております。潜在看護職の復職・看護教育定員数の増加が地域医療の発展につながるものと考えております。
潜在看護師復職支援事業を通じて、潜在看護師が現場に復帰されることにより地域の看護師不足に少しでもご貢献ができればと考えております。諸事情で復職できない看護が大好きな方々が、看護職に復職され、さらに生き生きと輝く女性なっていただくよう願っております。平成27年度事業として一周年記念の特別講演を計画しております。この記念事業を通してエバーグリーンの存在をさらに多くの方々に知っていただき、当施設をご利用いただけることが本望と考えております。今後ともご気軽にご相談いただければ幸いです。