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Vol.087 調理の仕方で老化が進む!?

医療ガバナンス学会 (2015年5月8日 06:00)


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この原稿は日経トレンディネットより転載です。
(イラスト画像を含むオリジナル記事はこちら↓)

http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20150402/1063467/?P=2

内科医師
大西睦子

2015年5月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


食品の調理法には、煮たり、揚げたり、蒸したり、直火で焼いたり、オーブンで加熱したり、電子レンジで温めたりと、さまざまな加熱方法があります。食品を加熱処理すると物理的変化、化学的変化が起こり、その結果、栄養や食感も変化します。

食品に含まれる成分の化学反応を左右するのは、「熱の伝え方」です。それには基本的な調理法の違いが大きく関わっており、ひいては栄養価にも大きく差が出ます。

[1]湿式加熱(水を加えて加熱):水が食材に熱を伝える
煮る、蒸す、茹でるといった加熱方法です。調理温度は約100℃(水の沸点)。

[2]乾式加熱(水を奪って加熱):油が食材に熱を伝える
焼く、揚げる、炒めるといった加熱方法です。調理温度は約150~300℃。

[3]電子レンジ(誘電加熱):マイクロ波(電磁波の一種)で食材を加熱する
煮る、蒸す、焼くなどを遠赤外線よりも波長の長いマイクロ波と呼ばれる電磁波を利用し食材そのものを発熱させます。調理温度は100℃以上です。

◆そもそも、なぜ加熱するの?

加熱調理には、第1に微生物を死滅させて食品の安全性が高める効果があります。これはみなさんご存じの通りです。

第2に、食品の栄養素を消化しやすくする効果があります。例えば、変性したタンパク質は一般に天然のタンパク質よりもより消化されやすく、デンプンの糊化はアミラーゼによる加水分解を向上させます。さらに調理によって、香味化合物、抗酸化剤や着色剤などが形成されます。

一方、調理によるデメリットもあります。食感が失われたり変色したり、化学反応によって特定の栄養素が失われたりします。また、望ましくない化合物が形成されることもあります。その1つが「終末糖化産物(Advanced Glycation End Products:AGEs)」です。

◆望ましくない化合物=終末糖化産物

パンをトーストしたり、肉や魚を焼いたり、ジャガイモを揚げたりすると、褐色で良い香りのするおいしい食品に変わりますよね。この変化は、食品に含まれるアミノ酸と糖が高温で加熱して起こる「メイラード反応」によって起こります。高温(120℃以上)で加熱されるとメイラード反応を起こすと考えられています。

悲しいことに、この一見魅力的なメイラード反応は、発がん性が疑われているアクリルアミドや老化の原因といわれるAGEs(エイジス)などを輩出します。

ではAGEsは食品中にどれくらい含まれているものなのでしょうか?

◆食品含まれるAGEsはどれくらい?

米ニューヨーク州にあるマウントサイナイ医科大学(Icahn School of Medicine at Mount Sinai:ISMMS)の研究者らが2010年に549食品のAGEsの含有量を報告しました。AGEsの含有量は、AGEsの1種であるカルボキシメチルリジンの含有量に基づきます。

報告によると、調理温度が高かった食品ほどAGEsの含有量が多くなりました。例えば、生の牛肉100gにはAGEsが707KU(キロユニット)、ローストビーフは6071KU、4分間グリルしたステーキは7416KU、フライパンでオリーブオイルを使用して焼いた牛肉には10058KUも含まれていました。

食品別のAGEsの摂取量としては、肉が最も高く、その次に、植物油、チーズ、魚が続きました。穀物、卵、果物、豆類、牛乳、ナッツ、イモ類、野菜などの食品は、一般的にAGEsの含有量が低いと分かりました。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Advanced glycation end products in foods and a practical guide to their reduction in the diet.」

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20497781

残念ながら、病気を予防する目安となる、安全で最適なAGEs摂取量(摂取限度量)は公式にはまだ定義されていません。

また、一般の集団を対象としたAGEs摂取量の調査はまだ限られていますが、ニューヨークの健康な成人を対象にした疫学調査では、AGEsの平均的な1日の摂取量は、1万4700±680 KUであることが判明しました。このデータをもとに、平均摂取量1万5000KUより、著しく高いか低いかで、高AGEs食または低AGEs食を仮に定義します。表を参考にして下さい。炒めたりローストの肉や、ベーコンのような加工食品は、簡単に1日のAGEs摂取量が2万kU以上になります。

動物試験では、通常の50%にAGEsの摂取を減らすと、酸化ストレスの低下、加齢に伴うインスリン感受性および腎機能の低下が減り、寿命が長くなりました。

また、調理中のAGEsの生成は、AGEsの生成阻害化合物のアミノグアニジン、湿式加熱、短時間の加熱、低温での加熱、レモン汁や酢などの酸性成分の使用で抑制されました。

http://expres.umin.jp/mric/vol.081_ONISHI.pdf

◆高AGEs食は認知症のリスクになる?

これまでにAGEsは酸化ストレスや炎症を増加させて、
・がんのリスクとなる
・糖尿病や心血管疾患などの慢性疾患のリスクとなる
ことが報告されています。

また先日、フランスのポワティエ大学(University of Poitiers)と米国サンフランシスコにあるSunlight, Nutrition and Health研究所の研究者らは、AGEsがアルツハイマー病の重要なリスクになることを報告しました。

■参考文献
US National Library of Medicine National Institutes of Health「Observational and ecological studies of dietary advanced glycation end products in national diets and Alzheimer’s disease incidence and prevalence.」

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25633677

彼らはマウントサイナイ医科大学の研究者らが調べた549食品のAGEsの含有量をもとに、これまでに報告された論文を調査。さらにさまざまな国の食事に含まれるAGEsの含有量を推定し、食事とアルツハイマー病の関係を調べました。

まず1992年から1999年の「ワシントンハイツ・インウッドのコミュニティー加齢プロジェクト(Washington Heights-Inwood Community Aging Project:WHICAP)」といわれる疫学研究のデータを用いて、食事中のAGEsの摂取量を推定しました。WHICAPは地中海ダイエットがアルツハイマー病に与える影響を調査した研究です。加えてアルツハイマー病の罹患率について、3つ研究のデータ(1977~1993年の11カ国のデータ、1995~2005年の発展途上国7カ国のデータ、1985~2008年の日本のデータ)を調査しています。

このWHICAPの疫学調査により、食事中のAGEsの摂取量を推定した結果、AGEsの摂取量が少ないとアルツハイマーの罹患率が下がることが分かりました。3つの研究のデータでは、食事におけるAGEsの推定値の高低が、アルツハイマー病の罹患率の傾向と一致していたのです。つまり、AGEsはアルツハイマー病の重要な危険因子であることが示されました。またこの報告では、日本人の1日あたりの平均AGEsの摂取量が示されています。
■1961年=3730KU
■1965年=5060KU
■1971年=6640KU
■1981年=9430KU
■1992年=10550KU
■2005年=11830KU
なんといってもAGEs摂取の増加の原因は、肉の摂取と植物油の摂取の増加です。年々、米国の平均値に近づいていますね。

AGEsが多く含まれる食品を多く摂取すると、アルツハイマー病や認知症を引き起こすことは、マウントサイナイ医科大学の研究者らによるマウスを使った動物実験でも証明されています。高AGEs食を摂取したマウスは、身体活動が乏しくなり、思考能力も低下し、最終的に認知機能が低くなったのです。また、アルツハイマー病に特徴的な、脳のβアミロイドタンパク質の蓄積も認められました。一方、低AGEs食を摂取したマウスは、こうした症状は示しませんでした。

■参考文献
PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)「Oral glycotoxins are a modifiable cause of dementia and the metabolic syndrome in mice and humans」

http://www.pnas.org/content/111/13/4940

つまり、AGEsの低い食品は認知症のリスクを減らす可能性があるのです。

同じ食材でも、調理法によって、AGEs含有量が大きく差があるのですから、これからは、食材選びだけでなく、調理法にも注意をしていきたいですね。

大西睦子(おおにし・むつこ)
医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。

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