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vol 12 「第10回 ヘルスコミュニケーションの専門性」

医療ガバナンス学会 (2008年6月23日 12:37)


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 その2 医療系広告代理店からヘルスケアコミュニケーションエージェンシーへ
                     林 英恵(はやし はなえ)

前回と今回は、連載後質問が多かった、医療系広告代理店の仕事を紹介します。広告のスペースを中心とした、広告代理店の成り立ちについて書きました。コミュニケーションエージェンシーと呼ばれるようになるほど、仕事が多様化している中で、医療系の広告代理店がどのようなことを行っているか、今回は説明していきたいと思います。
【薬の広告から発展してきた医療系広告代理店の仕事】
日本の医療系広告代理店の歴史は、薬の広告を中心に発展してきました。この場合、中心的なクライアントは製薬会社です。
医療に従事していらっしゃる方はすでにご存知のとおり、日本では、医療用医薬品の広告を一般の人向けに出すことができません。その一方で、薬局で処方箋なしで購入することができるOTC(Over the counter)と呼ばれる一般医薬品と呼ばれるものは、毎日広告を目にしないことがないほど、テレビ、新聞、雑誌等で一般向けに積極的な広告活動が行われています。
つまり、この薬の形態に合わせて、医療用医薬品を売る医療従事者(主に医師)向けの広告と、一般用医薬品の直接の購入者である一般向けの広告の製作ということを通じて、コミュニケーション活動が行われてきました。
具体的には、医療用医薬品の広告に関しては、普段医療従事者の皆様が眼にしているように、雑誌広告、MRが営業活動を行うための資材、ギミックと呼ばれるボールペンなどの製品のロゴなどが入った商品の開発、キーオピニオンリーダーと呼ばれる方々などを中心とした勉強会やセミナーの開催等があげられます。雑誌広告などに関しては、ターゲットが医療従事者に限られているため、専門誌や医療従事者向け媒体への掲載が主です。こちらに加えて、一般の方々に発売される製品で直すことができるとされる病気の疾患啓蒙等の疾患啓蒙を行うケースもあります。その場合は、(製品の名前を出すことが出来ないので伏せた形で)病院へ足を運んでもらうことを目的とした広告活動を行います。つまり、医療用医薬品に関しては、直接のターゲットである医療従事者向けと、その直接のターゲットのターゲットとなる一般向けの双方に対してコミュニケーションを行います。
一方、一般医薬品に関しては、通常の一般消費財広告と同じように、対象が一般向けなので、テレビ、新聞、一般向け雑誌等マスメディアを中心とした広告活動を行います。
医療用医薬品に関しても、一般医薬品に関しても、薬事法の関係で、広告に掲載できる文言等には、決まりごとがあります。また、昨今ではどの製品に関してもWEBサイトを通じた広告活動が盛んです。
【Illness からWellnessへ】
薬の広告を中心に発展してきた日本の医療系広告代理店を、広告代理店からコミュニケーションエージェンシーに変える大きなきっかけとなったことは、いくつかあげられると思います。一つ目は、日本の医療に”予防”という概念が加わったことです。治療を中心に考えられていた時代は、病気になってから薬を飲み、病気になったら病院に行く。そして医療従事者は、治療に関する情報を提供していました。この場合、医療従事者が治療に関する情報を病院に来る一般向けに提供するのがメインになるため、広告代理店の役割も、製品を通じて治療に関する新しい情報を医療従事者に提供するということでした。
しかし、予防という概念が加わったことで、一般向けのコミュニケーション活動のニーズが増えました。予防活動におけるメインのターゲットは一般になります。コミュニケーション活動が、一人ひとりに対して医療情報を医療従事者が提供していく医療の現場から公衆衛生というマスを対象とするものに変化していったのです。また、今までの連載の中で触れてきたように、このような流れの中で、国際機関やアメリカをはじめとするいくつかの国でヘルスコミュニケーションや、ソーシャルマーケティングという概念が生まれ、一般向けに病気自体を啓蒙していく活動が盛んになり、日本でも、こういった活動の必要性が生まれてきたのです。この変化に伴い、製薬会社中心であったクライアントが、政府や公的機関、NGOなどや、製薬会社や医療機器など医療従事者を通じてコミュニケーション活動を行う企業以外の企業(食品や健康に関する商品を販売するもの)などへと幅が広がりました。
この広がりは、コミュニケーション活動に関わるステークホルダー(利害関係者)の増加も意味します。一つの病気の予防に関して、政府、NGO、企業、大学等の研究機関がそれぞれの利益を確保しながら、コミュニケーション活動を行ったりするニーズが生まれてきました。そのような中で、コミュニケーションエージェンシーは、アウトプットとしての広告という形での製作物をつくるだけにとどまらず、上にあげたステークホルダーの利益を守りながらその枠組みを作っていくという仕事が求められるようになったのです。
林 英恵(はやし はなえ)
早稲田大学社会科学部卒業。ボストン大学教育大学教育工学科修了後、株式会社マッキャンヘルスケアワールドワイドジャパンにて、ジュニアストラテジックプランナーとして勤務。2008年より同社のサポートを得てハーバード大学公衆衛生大学院修士課程(ヘルスコミュニケーション専攻)進学。「臨床+α」広報・渉外担当。
 
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