最新記事一覧

臨時 vol 81 ~『安心と希望の医療確保ビジョン』第10回会議 傍聴記~

医療ガバナンス学会 (2008年6月19日 12:39)


■ 関連タグ


■□ 厚労省の中で何かが起きている □■
ロハス・メディカル発行人 川口恭


 ビジョンの中身は、マスメディアでもある程度報じられると思うし、詳しく知りたければ、厚労省サイトを見ていただきたい。
今回、私が気づいたのは、厚労省の中で何か暗闘が起きているに違いないということだ。
まず今回18日午後5時から開催されると厚労省のサイトに表示されたのが開始23時間前。記者クラブ所属でないと開催案内が出てからファクスで申し込まねば傍聴できないので、ハッキリ言ってフザけている。記者クラブには、もっと早く案内されているし、いつもギリギリに案内の出る中医協でも3日前には案内される。なぜ、そこまで遅らせる必要があったのか。今回は、たまたま昨日のうちに気づいたから良かったけれど危ないところだった。
さらに18日の午前中に厚労省の事務方が会見を開き、ビジョンの中身を記者クラブに対して説明したらしい。夕方6時からのニュースに間に合わせるために解禁時間つきという位置づけだったらしいが、大臣が会議の終了を急いで、ニュースに間に合う時間に会議参加者による会見を設定してしまった。この程度のことで事務方と大臣が重ねて会見するなんて聞いたことがない。結果的に事務方の会見は見事に上書きされて、事務方にとってもメディアにとっても時間のムダになった。事務方の会見のことを大臣が事前に了承していたなら辻褄が合わない。
そして、以下の傍聴記の舛添厚生労働大臣の発言の中に「厚生労働省の改革」という言葉が、妙に気になる文脈で2回出てくる。さあ、それではいよいよ会議のご報告に入ろう。
あんなに開催案内が遅かったにもかかわらず、8割方席が埋まっている。その代わり、先日まではぎっしり席を埋めて傍聴していた厚労省の中堅幹部たちが8人しかいない。午前中に会見しちゃったぐらいだから、ビジョン案に手を加えられることはあり得ないのだろう。若干セレモニー感は漂うが、後になって「あの時の発言がそんなことになったかぁ。しまったぁ」とならないよう、各人の発言を拾ってみる。
舛添
「お手元に案が示されている。最終的にまとめができると思う。アドバイザリーボードの皆様、陳述してくださったりお邪魔したりした皆様に感謝したい。この会議と並行して骨太の方針の策定が進んでおり、来年度予算を方向づけるものになる。ここ数日は、その件についての大臣折衝や総理との話し合いをしておったが、最終形でない素案段階ではあるが、ムダを排すこと政策の棚卸をすることで財源を生み出すと共に、社会保障についてどうしても必要な財源は別に確保すると書きこまれることで決着しそうだ。そういった流れの中で今後の医療について、このビジョンが方向づけできると確信している。今日は、この最終案について意見を伺って、そのうえで世に問い、予算の裏付けを得て政策化したい」
事務局がビジョン案の説明をしている途中に、メモを持った秘書らしき人が入室してきて大臣に耳打ち。医政局長も含めてぞろぞろ出て行ってしまった。
えっ? 大臣は、これで終わり?
キツネにつままれたような心持ちでいるうちに事務局の説明終了。
野中博・野中医院院長
「医師数が昨日から脚光を浴びているが、医師だけでなく、現場で医療や介護に携わる人すべての数が足りない。質を担保するには少ない。質をどうやって確保するか現場に任されているのだとは理解しているが、どう担保するかは課題であり、多職種が連携するからこそ、そこに複数の目が存在して質の評価というものが生まれるんだと思う。それだけの数がいないのは、要するに医療費の抑制で現場にいることができないのだから、ぜひ費用のことを考えてほしい。介護保険にしても、要介護認定の仕組みをいくら変えたところで、本当に大事なのは現場で提供される介護の中身なんであって、それを評価するにも多職種の連携が重要。それが質の担保につながる。ということをこの報告書から感じ取っていただけれ
ば」
途中まで「書き足せ」と言うのかと思う勢いだったが、最後にトーンダウン。
矢崎義雄・国立病院機構理事長
「医師養成数の問題に関しては、私も以前から閣議決定は見直す時期だと言っていたので、医師数の増加に関しては反対ではなく慎重論だった。で医師数増加は大臣が政治的に決断することだと仰ったので私としてこれ以上申し上げることはない。ただ医学部教育の環境が混乱して破壊されないよう配慮していただきたい。また単に医師数を増やすのでなく、地方の勤務医が増えるようにするのが重要だと思う。それから、今後看護師不足も深刻になっていくと思われる。この点にも、ぜひご留意いただければ」
大臣がいなくて張り合いがないのか、それとも最終日だからか、こちらも何だかおとなしい。
辻本好子・COML理事長
「医師数が増えるということで患者国民が安心して医療を受けられるようになるという意味でありがたいと思う一方で、数が増えて質が低下しては悲しい。患者は尊敬に値する医師との出会いを心から願っている。教育に携わる方には身の引き締まる思いでいていただきたいし、今ここで議論している間にも医療を巡って悲しいニュースが報じられている。ここで理想論だけ言っても仕方ない。現場に確かな安心・安全・納得を確立するため国が取り組んでいただくと共に私たち国民も協働していきたい。医師教育の問題をしっかり踏まえていただきたい」
松浪健太政務官
「先生方のお話を伺っていても最終日なのに高揚したものがないなと感じる。やはり議論不足は否めない。医師不足についても、アドバイザリーボードの先生方と大臣、我々と大臣の間にも考えの違いがあって収れんされていない感じがする。今後必要なのはシミュレーションというか展望というか、将来の年齢構造、疾病構造をシミュレーションする中で、どの分野の医師がどの程度必要なのか、あるいは地域的なもの面積的なものそういったことをシミュレーションして考えていくべきでなかったか。先生方のお気持ちを代わって代弁した」
理屈は確かにそうなのだが、正しいシミュレーションをできるという確信はどこから来るのだろう。厚労省が医師数についてシミュレーションした結果こんなことになったという反省からスタートした会議ではなかったのだろうか。
西川京子副大臣
「10回の会合の中で、途中退席したり色々失礼があったとは思うのだが、これまで漠然として整理できていなかったものが、ある程度整理はできたのでないかという気がしている。その中で意見の違いは少々感じた。私としては財政の問題を言わないのはおかしいと思っていたが、最終的に活字の中では何らかの措置があるような話になっているので、これから我々が闘っていかなければならないと思う。大きな流れとして地方分権があり、今回のビジョン会議も無縁ではない。厚労省がスタンダードを決めて地方にやらせるとどうも問題がある。地域に即した医療を考えなきゃいけないということが明確になった。そこに行政のトップが向き合うということが大事。そういった方向性が一応書けたような気はしている。
NHKの中国医療のドキュメンタリーなんかを見ても思うのは、日本の医療の問題は第二ステージに入ったんだろうということ。とにかく病気を治せという量の確保を進めてきて、これからはいかに質を高めていくか、そうして医療と国民との信頼関係をどうやって構築するのか、その一歩にはなったかなと思う」
辻本
「18年前に私たちが協働の医療と言って、受身から主体的な医療をめざすんだとうたって活動を始めた時、およしなさい、あなた方を受け入れてくれる世界じゃないよ、と随分ご忠告をいただいたものだ。でも私たちが叫び続けてきたことが全部このビジョンの中に網羅されている。高揚感がないというお話だったが、私たちはワクワクする以上の涙が出るほどの感動を感じている。18年前には、あなた方のような扱いづらい患者が増えたら困ると言われた。それが全部書きこまれるようになったということは、また18年後にはこのビジョンだって、そんなこと言ってたの?と皆が言うくらいになっているかもしれない。ここには自立する患者を支える決意が表れている。ワクワク受け止めなければならないと思う。本当にありがたい」
この後、話題が尽きてしまったのか、とりとめのない話が少々続いている時に大臣が戻ってきた。
舛添
「どうしても私が決済しないといけない案件があったもので申し訳ない。基本は、このビジョンをどういう形で政策にしていくかが大切ということ。政策化していく段階で場合によって現実的でなかったら軌道修正することもあるだろう。経済財政諮問会議に出ていると、とにかく社会保障は効率化しろと言われる。たとえばジェネリックをもっと増やせ、とか。一方でジェネリックで本当にいいのかという先生もいる。それから、お金をつけないでもできることという例示でコメディカルのことがたくさん出てくる。しかしコメディカルを増やす、その機能を上げてスキルミックスをするというのに1円もかからないなんてことがあるはずもない。闇雲に予算要求すれば良いというものではないけれど、たしかに柏原病院の小児科を守る会のように国からは1円も出ていなくて少しのお金で済んでいるものはあるけれど、しかし国の予算としてつけないと実現しないものもある。これからはそういう観点で取り組んでいきたい」
矢崎
「医師数を増やせばそれで終わりとされるのでないかと危惧していたが、いろいろな切り口からの対応が必要であるとよく触れていただいた。このビジョンの提言が実現するには、おっしゃるように財源が必要で、消費税とか道路特定財源とか、この際、大臣として論陣を張っていただいて、実現するようご配慮いただきたい。医学部定員の大幅増にあたっては教育環境が壊れないよう質の担保がしっかりできることと地方の勤務医が増えるようにしていただきたい。それから看護師不足対策もお願いしたい。医師と主に看護師とのスキルミックスについて、しっかり書いていただいてありがたい。法令見直しは直ちに無理でも、拡大解釈を進めていただければ。それに関連して、歯科医による麻酔管理の可能性なども検討されるべきと思う。いずれにせよスキルミックスには高度な人材養成が必要なのであり、そのための予算措置をぜひお願いしたい」
舛添
「現実的なところを文部科学省と相談して質の低下のないようするのと、地方の勤務医の問題、看護師不足の問題、その点についてもきちんと予算措置できるよう頑張りたいと思っている」
矢崎
「もう一つの救急医療の充実だが、私は第一節にあってもよいのでないかと思っていたが、こうして改めて見ると在宅医療と並列の二本柱として第二節にあっても良いのかなと思う。しかし救急の体制整備には、24時間体制のER整備が必要で喫緊の課題であり、これにも財政支援が欠かせない。大臣のお力添えで予算措置をお願いしたい」
舛添
「しっかりやりたい」
西川
「救急施設の後の後方ベッドの整備が実に大事だと現場の方からは聞くので、その辺ひとこと入れていただければなと正直思う。それから救急に対する道路整備が十分でないところに関してはドクターヘリの言及があっても」
誤解があるといけないが、後方ベッドの整備はビジョンの中に入っている。
矢崎理事長が、その辺りやんわり指摘して、そのまま意見につなげる。
「一次救急でトリアージするようなシステムが必要。1人診療所でやるのは無理でないか。在宅も24時間対応を迫られる。診療所も連絡をよくしてチームワークを構築していく必要がある。これも少し強調していただければ」
野中
「助産師のこと書いてある。なぜ家庭でお産がされなくなったかと言えば安全性の問題があったからだろう。助産師が医師と連携できていれば、安心して家庭でもお産をできるんだと思う。連携しないで資格だけが独り歩きしてもいかん。個々のスキルアップでなく連携が大事なんだと改めて言いたい。保健師も現場で見ていると、あまり連絡してこない。どうして連絡してこないのかと聞くと、看護師は医師の指示が要るけれど、保健師は要らないからだと言う。そういう問題ではなく、連携した方が適切な保健指導になるに決まっているでないか。スキルアップも大事だが連携がより大事だ」
松浪
「今回のビジョンの肝は何かなと新聞記者のマインドで見ると、やはり3項目目の医療者と患者の協働になると思う。このようなことを書いたのは厚労省として初めてのことでないか。そのうえで行政・政治に求められているのはブレないこと。これからも、このビジョンの方向性をブレずに守っていきたい」
午後6時ちょっと前。まだ予定時間が30分以上残っているのだが、やけに大臣が早く終わりたがる。何かと思ったら「今から記者会見の時間なんで」。
ということで、会場は即席会見場に早変わり。出て行けとも言われなかったので後ろで聴いた。
記者「全体の感想は」
舛添
「医師不足が医療格差や医療崩壊の大きな背景になっている中、10回に渡る会議で大きな方向付けはこのビジョンでできたと思う。予算編成のタイミング的にも大きな意味のあることだと思う」
記者「財源は?」
舛添
「ここ1日ほど骨太の方針を巡って与党・政府と議論している。社会保障・医療は、この内閣で重点的に取り組む課題であり、足りない部分は必要な財源措置をするということで、与党と政府の間できちんと議論する」
記者「医師数は、いつまでにどれ位増やすのか。どこで決めるのか」
舛添
「これはビジョンに基づいて総理と話をして平成9年の閣議決定を撤回することは決まったので増員する方向に間違いはない。具体的な数は教官の数など諸条件を考えて一定の数字にする。当面どこで議論するのかについては、私に直属の組織をつくるのも一考だし、あるいは厚労省改革の一環として考えることもできる」
記者「それはいつ頃までに?」
舛添
「これから机上の空論にしないためには、予算編成の過程、税制審議の過程に間に合わないといけない。必要な時に必要なインパクトが出るように。本来は、このビジョンの紙を持って総理と話をするはずだったのだが、昨日でないと間に合わないので昨日総理と話をした、というように1日遅れたら間に合わなくなるという世界だ。臨機応変にやっていきたい」
記者「直前に議連から申し入れを受けたが」
舛添
「党派を超えて、政争の具にしない、与党が困れば野党のポイントというケチな考え方で来たんじゃないと仙谷さんも仰っていた。議連の申し入れは国民の声だと思う。非常に重く感じているし、ありがたいとも思う。全力を挙げて取り組む」
記者「医師数を抑制したのは医療費を抑制するためだったはず。医療費抑制をやめるのか」
舛添
「何を優先するのかという問題。後期高齢者医療制度にしても、高齢者のために適切なケアを提供するという出発点であったなら、ここまでの問題にはならなかったはず。それが、まず財源どうするのかという問題から始まったためにこんなことになってしまった。医療全体の問題も、国民の命をどうすれば守れるのか、そのためにどの程度の体制が必要なのか、その時に負担と給付のバランスが当然問題になってきて、負担するのも結局国民だから、負担がやたら増えても困る、そういう話だと思う。厚労省には色々と改革できるところがあって無駄も確かに多い。そこはしっかり削減しないと国民の理解と納得は得られない。だから最初にまず無駄を排し、その上で足りない分は手当てするという骨太の方針の順番は間違っていない。ビジョンができたからといって医療費が野放図に増えて良いのだとは思っていない。そのバランスをよく考えるということだ」
大臣の冒頭の発言にもあったが、ここからはビジョンを世に問う段階になる。マスメディアだけに任せていると、ちゃんと世に問われるとは思えないので、微力ながら『ロハス・メディカル』次号で急きょ特集を組むことにした。乞う、ご期待。
この傍聴記は、ロハス・メディカルブログ(http://lohasmedical.jp)にも掲載されています。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ